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    saltabcd

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    2023.1.5
    KP/KPC…そると/寿敬一 PL/PC…おしまい/鵜野澪

    CoCシナリオ「魚葬」ログKP:CoCシナリオ『魚葬』開始します。

    ──────
    ───


    KP:背中の硬い感触に、あなたは眉を寄せる。
    自分はどこかで寝そべっているようだと、骨の痛みが伝えた。
    ひんやりとした肌寒さや、瞼を通り越してささる光に、ここは外なのだろうと頭が理解をする。

    KP:と、同時にあなたは飛び起きるだろう。
    角砂糖に群がる蟻のように、あなたのことを人々が取り囲んでいた。★SANC(0/1)

    鵜野澪:CCB<=81【SANチェック】(1D100<=81)>27>成功

    KP:人々の衣服は古風で、海外の民族衣装や、ファンタジーゲームの登場人物たちを思わせた。
    しかし、その顔立ちは馴染みのあるアジア系で、服装や周りの景色とミスマッチだ。
    人々は、あなたが起きたのを確認すると顔を綻ばせるだろう。
    「よかった」「目を覚まされた」と口々に呟いていた。

    KP:ふと、自分の体に視線を落とせば、周囲の人々のような格好をしていることに気が付く。
    普段持ち歩いているものは持っておらず、どうして自分がここにいるのかも分からない。
    思い出せる一番最新の記憶はと心の中で指折り数えれば、約一週間前、いつものように生活をしている記憶だった。
    そう自覚したと同時に、ズキリ、と頭が痛んだ。
    ぽっかりと開いた一週間分の記憶に、あなたは不安を覚えるだろう。★SANC(0/1)

    鵜野澪:CCB<=81【SANチェック】(1D100<=81)>32>成功

    KP:改めて周囲を見回してみれば、どうやらここは広場のようで、中央には噴水があった。
    自分はそこから少し離れたところに倒れており、それを囲むようにして数十人の人がいる。
    ふと、一人の人物と目が合う。それはあなたのよく知る顔だった。

    寿敬一:「……」

    KP:あなたが声を掛けようとしたとき、その人物は一歩前に出てあなたに近づく。
    地に膝をつき、あなたの前で手を合わせた。
    その行動に釣られてか、周りの人々も彼と同じように膝をつき、あなたを拝む。
    そうして一斉に、あなたに向かって同じ内容の言葉が投げかけられた。
    あなたの耳にはっきりと届いたのは、顔なじみの声。
    その声はこう言っていた。

    寿敬一:「アンタは、俺の神様か?」
    鵜野澪:「……は、いや……」
    寿敬一:「そうなのか?ちげーのか?」
    鵜野澪:「……わか、りません。神様、というのは?」
    寿敬一:「あぁ?神様は神様だろーが。俺のこと、なんか知ってんのかって聞いてんだよ」
    鵜野澪:「……君のことは、知っています。少し、なら」
    寿敬一:「は、マジ?じゃあ、俺の、神様ってことか?」
    鵜野澪:「その、可能でしたら状況の説明を。俺も、分かることでしたらお答えしますから。ここは?」
    寿敬一:「……んだよ、俺の質問に答えろよ、めんどくせえな!結局何も知らねえんじゃねえか!」
    鵜野澪:「ええ、だからお聞きしてるんです。君が知りたいのは、君のことですか?俺は、君の名前や、年齢くらいなら教えられます。必要ですか?」

    KP:その発言に、あなたを取り囲んでいた群衆が「本当に神様なのか」「まさかミナトのところに」などとざわつき始める。

    寿敬一:「マジ、かよ……ちょっと、こっち来い!こんなとこで話してられっかよ」

    KP:そう言って彼はあなたの腕を乱暴に引き上げると、民衆に「邪魔だ」などと吐き捨てながら広場の隅にあなたを連れて行く。

    寿敬一:「……もう一度聞くぞ。アンタは、俺の神様なんだな?」
    鵜野澪:「君のことを知っている者のことを、ここでは神と呼ぶのなら、否定することはできません」
    寿敬一:「……ハッタリじゃねえよな?アンタみてえなチビのおっさんが、俺のこと知ってる?正直、ハイそーですかにはなれねえんだわ」
    鵜野澪:「信じるも信じないも、……君に、お任せします。信じられないというのなら、俺は、ひとりでここのことを調べさせていただくだけです」
    寿敬一:「あ?マジでめんどくせえおっさんだな!ハッキリ答えられねーのかよ!」
    寿敬一:「……ま、でも、そこまで言うなら一応信じてやる。どうせ、やることもねえんだ」
    寿敬一:「デタラメだったらぶち殺すからな」
    鵜野澪:「随分、物騒ですね。ありがとうございます」
    鵜野澪:「今後のために、情報の共有を。君は、ご自身のこと、何ひとつ分からないという認識で構いませんか」
    寿敬一:「そーだよ、悪いかよ。……ここにいる奴は、自分のことを何も知らねえ。ただアンタみてえな奴を待つだけだ」
    鵜野澪:「神様を、ですか。なるほど。神様が見つかった人は、どうなるんです」
    寿敬一:「さあな、元いたとこに帰れるとかなんとか?俺も細かいことはよく知らねえよ」
    鵜野澪:「分かりました。では、君はここから帰りたい、ということでよろしいですね」
    寿敬一:「ま、出来るならな。自分のこと何も知らねーまま、のんきに過ごしてる奴の気が知れねえ。気色わりい」
    鵜野澪:「……俺は、君を連れてここから帰りたいと考えていますが、協力していただけますか?」
    寿敬一:「はあ?連れて帰りたい?随分お人好しなことで」
    寿敬一:「ま、俺も早く俺のこと聞いて、さっさと帰りてえしな。一応、信用してやるよ」
    鵜野澪:「助かります。……君は俺に、寿と名乗っていました。寿敬一。あまり、簡単に失くしてしまっていいものではありませんよ、寿君」
    寿敬一:「コトブキ、ケイイチ?ふーん、バカみてえにおめでたい名前だな。分かった。ま、色々頼むぜ。『神様』」
    鵜野澪:「ええ、こちらこそ。……無理にとは言いませんが、俺は、鵜野澪と言います。できれば、名前で」
    寿敬一:「あ?しゃーねーな……ウノミオだっけ?ミオでいいな?ってか、俺、アンタとどういう関係だったんだよ」
    鵜野澪:「俺は、友人だと思っていますが」
    寿敬一:「は?アンタみてえなおっさんと俺が?はは、ねーわ!ダチに敬語なんか使ってんのか、アンタ」
    鵜野澪:「ええ、君は、尊敬できる男なので。さあ、いつまでも話し込んでいても仕方がありません。ここを案内していただくことはできますか?」
    寿敬一:「……アンタも中々キショい奴だな……」
    寿敬一:「一応この町……うつわの町とか言うんだけどよ。図書館、病院、港、牧場、住宅街、広場って感じで分かれてる。どっか行きたいとかあれば、連れてくくらいは」

    KP:中央に噴水があり、それを囲むようにしてベンチが置かれている。
    木々が点々と生えており、自然も感じさせた。
    一角では市場が開かれている。

    KP:■図書館
    小さな建物の中に入ってみれば、棚がぽつぽつと並んでおり
    図書館というよりは、資料室のようだった。
    棚には冊子がまとめられているようだ。
    また、机に冊子を広げて読んでいる女性が一人いる。

    鵜野澪:CCB<=80【目星】(1D100<=80)>52>成功

    KP:あなたはこの町について書かれた冊子を見つける。
    どうやら手書きのようで、日付などはか書かれていなかったが、
    文体的に誰かの日記のように思えた。日本語で書かれている。

    KP:▼誰かの日記
    『うつわの町と呼ばれるこの町に住む人々には記憶が無い。
    自分のことがまるっきりわからないようだ。
    名前も、職業も、友人や家族のことも、何もかも忘れてしまっているらしい。
    空っぽの器だけが存在している町。
    この町に点在する家々は空家が多いが、
    いつの間にか住人が増えていることがあるそうだ。
    家すらも空っぽの器。
    だからこそ彼らは自分に意味を求めていた。
    彼らは私のことを“神様”と呼んだ。
    かつて、私のような旅人がこの街に住む誰かの記憶を戻したことがあるらしい。
    それから彼らは、旅人のことを神様と呼ぶようになったそうだ。

    ある時、住人たちが真っ白な衣服を来て港に向かって歩いているのを見た。
    先頭の人たちが棺桶を持っていたことから、葬列であるのだと察した。
    サクラに聞いてみたところ、この町で人が亡くなった場合には
    遺体を海に沈めて魚に食べさせるようだ。
    その風習が始まったのは、例の旅人が来てからのようで
    その魚が、自分達が本来あるべき場所に帰してくれると信じているらしい。
    言われてみれば、この町には墓地が無い。』

    読んでいてあなたが気になったことは上記の文章だが、
    その他にもオオナイという町と時々交易を行っていることや、
    この町の人々は町の外に出ることは殆どないということなどが書かれていた。

    鵜野澪:「君は、この町の葬列に参加したことは?」
    寿敬一:「葬式?チラッと見たことあるくらいで、参加はしてねえ。興味ねえし、まだここ来て2ヶ月くらいだしよ」
    鵜野澪:「そうですか。ここに来た時は、どんな感じだったんです」
    寿敬一:「目が覚めたら、空き家のベッドの上だった。それだけ。外に出たら他の住人が寄ってきて、町のこと色々教えてきて……もっとも、誰も俺のことは教えてくれなかったけどな」
    鵜野澪:「本当に、不思議なところですね。俺が目覚めた時は屋外でしたが……」
    寿敬一:「そ、ミオだけ外だったから神様かもしんねーって話になったんだよ。……なあ、俺って本とか読むの、好きだったか?」
    鵜野澪:「あまり、文字を読むのは得意ではなさそうでしたが……俺の本は、読んでくれていましたよ」
    寿敬一:「アンタの本?俺、借りてたのか?得意でもねえのに」
    鵜野澪:「ふ、君も物好きだったということでしょうね」
    寿敬一:「だからハッキリ答えろっつの!ったく……」
    サヤカ:「……図書館ではお静かに」
    鵜野澪:「……申し訳ありません。失礼ですが、あなたは、ここの?」
    サヤカ:「いえ、入り浸っているだけの者です。記憶をどうにか取り戻せないかと思って……あの」
    サヤカ:「あなたの話は聞いています。神様だって。……私のこと、何かご存知ですか?」
    鵜野澪:「いえ、……お力になれず、申し訳ありません」
    サヤカ:「……そう、ですか」
    サヤカ:「いえ、大丈夫です。ここの資料を参考にすれば、何か自分のことがわかるかもしれません。……まだここに来て、日も浅いので。諦めるにはまだ早いはずです」
    寿敬一:「……ふん、よくやるぜ」
    鵜野澪:「……応援、しています。もし、何か分かれば、またここに。あまり、期待はされない方が良いとは思いますが」
    サヤカ:「!……ありがとう、ございます。あ、よろしければ、これ。参考になるかもしれません」

    KP:そこには魚葬という葬儀の方法について書かれていた。
    『これは、このうつわの町から旅立った人が
    二度とこの地へ戻ることのないように祈るための儀式である。
    送り出したい者のことをよく頭に浮かべ、次に送り出したい場所を思い浮かべる。
    それは抽象的でも構わない。
    それから唄を歌う。

    覚めよ醒めよ戻れ戻れ
    空の器に満たせ満たせ
    安らかな眠りをたおやかな夢を
    その魚を門としこの旅路に終焉を

    そうすれば導き手である魚が現れ、
    安らかな地へと送り出してくれることだろう。』

    鵜野澪:CCB<=50【アイデア】(1D100<=50)>69>失敗
    寿敬一:CCB<=60アイデア(1D100<=60)>40>成功

    KP:鵜野がこの葬儀の一連の流れや唄を覚えるのにはもう少し時間が必要だろう。

    鵜野澪:「ありがとうございます。少しの間、こちらをお借りしても?」
    サヤカ:「ええ、かまいませんよ」
    寿敬一:「アンタは本好きなんだな。なあ、俺って何が好きだったんだ?」
    鵜野澪:「何が……そうですね、動物は、好きそうに見えましたが」
    寿敬一:「へ?あ~……どういう動物、とかは」
    鵜野澪:「……犬、とか?」
    寿敬一:「犬?へーえ……犬飼ってたのか、俺?」
    鵜野澪:「いえ、飼ってはいないはずです。ですが、手馴れていましたよ。動物の相手をするのは」
    寿敬一:「ふーん……その辺は覚えてるっつか、やっぱ同じなのかもしんねーな。つっても俺は猫派だけど……」
    鵜野澪:「ここにも猫が?」
    寿敬一:「まーな。牧場には馬とか牛もいるぜ」
    鵜野澪:「なるほど、行ってみましょうか。ちなみに、俺は犬が好きです」
    寿敬一:「あっそ」

    KP:港からすぐ近い森の際の方に、小さな牧場がある。
    そこには牛や羊、馬などの畜産動物がいた。畜舎の横には、やはり石造りの建物がある。

    鵜野澪:CCB<=80【聞き耳】(1D100<=80)>5>決定的成功/スペシャル

    KP:石造りの建物の方からいい匂いが漂ってくる。
    あなたたちの足がそちらに向こうとしたとき、一頭の馬があなたたちに近付いてくる。馬は随分と人懐っこいのか、鵜野の顔に頬ずりし始めるだろう。

    鵜野澪:「……と、ふふ、こんにちは」

    KP:あなたが馬に微笑みかけると、馬は嬉しそうに鵜野の顔を舐め始める。

    鵜野澪:「随分人馴れしていますね。寿君、彼らの食事の類は持ち合わせていませんか?」
    寿敬一:「うわ、きったねーな……持ってるわけねえだろ。その辺に生えてる草で十分だ」
    ノドカ:「あら?お客さん?いらっしゃい!……って、ミナトくんと……ああ、噂の神様ね!こんにちは!」

    KP:石造りの建物からひとりの女性が出てくると、あなたたちに明るく話しかけてくる。

    鵜野澪:「こんにちは、すみません、勝手に」
    ノドカ:「いいのいいの!こっちこそごめんね、うちの子が好き放題舐め回しちゃったみたいで。……ねえ、あなたは私のこと、知ってる?」
    鵜野澪:「いえ、初めて、お会いします」
    ノドカ:「そう……まあいいわ!ねえ、お腹すいてない?良かったら上がっておいでよ!ちょっとお料理作りすぎちゃって」
    鵜野澪:「……どうしますか?」
    寿敬一:「……俺、飯なんか食わねえんだけど」
    鵜野澪:「そうですか。では、同席だけ頼みます」
    寿敬一:「……分かったよ。もの口に入れて、何が楽しいんだか……」

    KP:建物の中は広く、食堂のような作りをしていた。
    長テーブルにはたくさんの料理が置かれており、その内容は和洋折衷といった感じだった。
    どれも見たことのある料理である。

    ノドカ:「さ、食べて食べて!ほら、ミナトくんも」
    寿敬一:「いらねえよ……」
    鵜野澪:「ちゃんと食べないと、大きくなれませんよ」
    寿敬一:「それ何のギャグだよ、アンタに言われたくねえよ!……気持ちわりいな、口の中でモノぐちゃぐちゃにして、自分の中に押し込んで……なあ、俺、食うことなんて好きだったのか?」
    鵜野澪:「どうでしょう。確かに、大食らいではなかったですね。特段、嫌いそうにも見えませんでしたが。お酒を飲むのは得意だと言っていました」
    寿敬一:「ふーん……酒?んだそれ。……あー、なんかどっかの商人が売りに来てた気がすんな。よく知らねーけど」
    ノドカ:「ああ、ツバサさん?うちの動物を連れてきてくれたのもあの人なのよ!ミナトくんの可愛がってる猫ちゃんも、きっとあの人が連れてきてくれたんだわ」
    寿敬一:「……あっそ」
    鵜野澪:「そのツバサさんという方はどちらに?」
    ノドカ:「今週なら、市場にいると思うわ。2ヶ月に1度、オオナイってところ……町の外ね。そこから行商人が来て、1週間くらい市場をやってるのよ。彼はその行商人」
    鵜野澪:「ありがとうございます。オオナイ、ですか」
    ノドカ:「ええ。詳しくは知らないけれど、元の世界に戻るのを諦めた人たちがいる、とは聞いてるわ」
    ノドカ:「ねえ、神様は好きな食べ物、ある?簡単なものならサッと作っちゃうわよ!」
    鵜野澪:「好きな……、そうですね、お茶漬け、とか」
    ノドカ:「お茶漬け?そんなものでいいの?わかったわ、すぐ用意するわね!」

    KP:そう言って、彼女はものの数分でお茶漬けを差し出してくる。
    料理を口に含めば、普段とかわらない、むしろそれよりも美味しく感じることだろう。

    鵜野澪:「……美味しいです。ありがとうございます」
    寿敬一:「……」
    鵜野澪:「君も食べてみますか?」
    寿敬一:「……美味しい、ってよくわかんねえんだけど、どんな感じ?」
    鵜野澪:「君、嫌いな食べ物は?」
    寿敬一:「好きも嫌いも、食うってことをした試しがねえ。興味ない」
    鵜野澪:「……君、ここには二ヶ月前に来たと。その間、一度も?」
    寿敬一:「まあな。むしろ、食う奴の方が少ないぜ」
    鵜野澪:「……そうですか。俺がいるところでは、食事を取らないと生きていけませんでした。では、思い出したら、君の好きな食べ物を教えてください」
    寿敬一:「マジ?俺も毎日食ってたのか?考えられねえな……ま、せいぜい頑張って、思い出させてくれよ」

    鵜野澪:CCB<=80【目星】(1D100<=80)>92>失敗

    KP:あなたたちがノドカの家を出ようとすると、ノドカがふと鵜野の袖を引き、耳をこちらに近付けるよう指示する。

    ノドカ:「誤解しないであげて。あの子は、ミナトくんは、純粋すぎるだけなの。自分が誰だかわからないのが、怖いのよ。だからあんな風に……いえ、わずかに残った記憶が、そうさせているのかもしれないけれど……」
    ノドカ:「ともかくあなたが、あの子を知っているなら、あの子のことを教えてあげて。小さなことでも。絶対に、あなたのことも、思い出したいはずだから……」
    鵜野澪:「ええ、尽力します。それに、誤解も何も、彼は俺の知っている彼とそう変わりはしませんよ。ご忠告、ありがとうございます。あなたも、どうかお元気で」
    ノドカ:「……ありがとう。よろしくね」
    寿敬一:「何してんだよ。さっさと行くぞ」
    鵜野澪:「では、失礼します。……すみません、お待たせしました」

    KP:市場には心持ち煌びやかな衣服を着た男性が1人いた。
    この町の住人達のようにあなたに詰め寄ることはせず、「いらっしゃい!」と朗らかに言う。
    商品を見てみれば、果物や野菜、魚などと一緒に、紙や鉛筆などの雑貨類が雑多にあるようだ。

    鵜野澪:「失礼、お伺いしたいことが。ツバサさんというのは……」
    ツバサ:「ああ、俺のことだ。見ない顔だな、新入りか?」
    鵜野澪:「お初にお目にかかります。ええ、町の外についてお聞きしても?」
    ツバサ:「へえ、モノ好きな奴が来たもんだな。……俺はオオナイってところから来てる。見た通り、ここにはない品物は取り揃ってるような場所だ。ま、元の世界に戻りたいというなら、行くのはオススメしないが」
    鵜野澪:「随分と、お詳しいですね」
    ツバサ:「この町から出て長いからな。俺も元々はこの町に住んでいたが、自分探しは諦めて出てきたんだ。皆は自分が戻れることを信じ続けているがね。俺は皆が町を出るきっかけを作るために、毎月ここに来てるんだよ」
    鵜野澪:「では、元の世界への帰り方の方は」
    ツバサ:「神様とやらが来て、元の世界でのこと……本人のことだったり、周りの人間のことだったり……聞かせてもらえりゃ帰れる、って話だ。もっとも、俺はそんなもの期待していないがね」
    ツバサ:「この町は、そんな期待を持ってる奴らの墓場のようなもの。自分を見失ってしまった奴らが彷徨い続ける町。そんなとこだ」

    鵜野澪:「……そうですか、ありがとうございます」
    寿敬一:「おい、金も持ってねえんだ、寒くなってきたし、そろそろ帰ろうぜ」

    KP:この町の家々は一つ一つが小さく、白色だ。港の近くの建物は、海の青が反射して美しい。
    森の方に向かって高台になってゆき、家々が階段のように見える。その景色はエーゲ海に浮かぶサントリーニ島を連想させた。
    KP:歩いていると、あなたの腕が強引に引かれる。
    こけそうになりながらもそちらの方を見てみれば、泣きそうな顔であなたを見る老人がいた。

    イカリ:「あなたが神様か」
    鵜野澪:「……あなたは」
    イカリ:「ここではイカリと名乗っている。なあ、私のことを何か知らないかい。なんでもいい。些細なことでもいい。このまま老いて死んだらもうどこにも帰れない……」
    鵜野澪:「……申し訳ありません。俺では、力になれることは、何も」
    イカリ:「……あぁ……」

    KP:肩を震わせながら、老人は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

    イカリ:「……じゃあ、じゃあ……せめて、聞かせてくれ……君達の、思い出話を」
    イカリ:「この町には思い出なんてものは存在しない。空っぽだ。何もかもが。あなたは、彼の神様なのだろう。……上からものを言うようですまない……君達の思い出話でいい。思い出話というもので、少しでも満たされるのであれば……どうか」
    鵜野澪:「どうか、顔を上げてください。私の、至らない話で良ければ、いくらでも。……寿君、少しお時間いただいても?」
    寿敬一:「なんだよ、この爺さん……はいはい、分かったよ。俺の記憶の参考にもなるかもしれねーし……さっさと話せよ」
    鵜野澪:「そうですね、思い出話……寿君、彼は、よく、私を助けてくださいました。自らの安全も顧みず、……そんな彼に、八つ当たりをしてしまったこともあって、私は、まだ、そのことを謝れずにいます」
    寿敬一:「は?俺が自分の身削って?アンタを?……全然想像できねえ、思い違いじゃねえの?」
    鵜野澪:「いいえ、事実です。君は、躊躇いなく、命を投げ出しました。俺の、目の前で。俺は……年甲斐もなく、声を荒げて、そのことを怒ってしまった」
    寿敬一:「へー、ミオ、そんな怒り方すんだ。面白~」
    鵜野澪:「ふふ、面白がっている場合ですか?君は、助けた人に怒鳴られて、それでもまだ、俺を助けようとしていました。本当に、無茶苦茶です」
    寿敬一:「へえ~、なんで怒んの?せっかく助けてやったのに。で、今はそのこと、どう思ってんの?」
    鵜野澪:「言ったでしょう、八つ当たりだと。ずっと、……謝りたいと思っています」
    寿敬一:「オッサンの八つ当たりなうえ謝ってねえの?ギャハハ!みっともねえな、超チキってんじゃん」
    鵜野澪:「ええ、おっしゃる通りです。帰ったら、謝らせてくださいね」
    寿敬一:「はいはい、帰ったらな」
    イカリ:「……ああ、美しい話だな。ありがとう……このような老いぼれに、情けを掛けてくれて」
    イカリ:「君だけでも、無事帰れることを願っているよ。ミナト君」
    寿敬一:「……」

    KP:彼が入った家は、石造りの白い小さな家だ。
    中にはベッドと、机と、その上にランタンが置かれている。
    奥にはシャワー室があった。

    寿敬一:「あー、久々に歩き回ってくたびれちまった。さっさとシャワー浴びて寝ようぜ。アンタ床な。枕くらいは貸してやるよ」
    鵜野澪:「ありがとうございます。結局丸一日連れ回してしまいましたね」
    寿敬一:「ホントだぜ、勘弁してくれ。ただ座って話せばいいもんをよ。ったく……」

    寿敬一:「……なあ、ミオ」
    鵜野澪:「どうかしましたか?」
    寿敬一:「俺って、どんな奴だった?……なんか、基本的なこと、あんま聞いてねーなーって」
    鵜野澪:「どんな、とは?分かることであれば、お答えしますよ」
    寿敬一:「どんなって……あれだよ。歳とか。大方20前半くらいだと思ってるけどよ」
    鵜野澪:「なるほど。君は今、19歳のはずです」
    寿敬一:「19?なんだ、まだそんな歳だったのか。……アンタいくつ?」
    鵜野澪:「38です」
    寿敬一:「めちゃくちゃ離れてんじゃねーか、やっぱ。なんでアンタみたいなのが俺のダチなんだ?どうやって会ったんだよ」
    鵜野澪:「初めは、君が俺の妹と一緒にいるところに、偶然。その後、妹経由で共に食事をしたりしました」
    寿敬一:「妹?へえ、そいつも俺のダチ?彼女かなんか?」
    鵜野澪:「ふふ、いえ、友人、だと思いますよ」
    寿敬一:「ふーん……俺のダチって、他どんな奴がいたとか知ってんの?」
    鵜野澪:「君の交友関係を全て把握している訳ではありませんが……、そうですね、妹の友人の少女とは、仲が良さそうに見えました」
    寿敬一:「へえ……妹とそのダチって、なんて名前?」
    鵜野澪:「妹は、スミ。ご友人の名前は、麻衣花さんです」
    寿敬一:「……ダメだ、なーんも思い出せねえ。あ、そうだ、俺には妹とか……家族は、誰がいたんだ?」
    鵜野澪:「ご両親は、今は一緒にはいらっしゃらないようですよ。ですが……君には、十分、大切に思っている方が」
    寿敬一:「へえ、俺が大事にしてる人?ダチとかじゃなくて?」
    鵜野澪:「友人、ともまた違うのではないでしょうか。そうですね、俺の主観ですが……家族、のような」
    寿敬一:「家族じゃねえのに、家族みたい?なんかよくわかんねーけど……ちなみに、そいつはなんて言う奴?」
    鵜野澪:「東さん。君は、彼を……先生、と」
    寿敬一:「ふーん。家族みたいなのに先生?訳分かんねえ」
    寿敬一:「……なあ、アンタのことももっと教えろよ。ミオは、元の俺から見たら、どんな奴だったと思う?」
    鵜野澪:「君から見た俺を、俺に聞くんですか?……嫌われてはいないと、思っていますが」
    寿敬一:「しゃーねーだろ、分かんねーんだから。アンタのこと何て呼んで、どういう喋り方してたのかも知らねえんだよ、俺は」
    鵜野澪:「俺のことは、鵜野さん、と。呼びやすければ今のままで構いません。今、君から見た俺と、そう遠くはないのでは?」
    寿敬一:「さん?さん付けで?ありえね~……あと、何考えてるか分かんねえチビのオッサンとでも思ってたら、元の俺でもダチにはならねえけど……」
    寿敬一:「てか、さん付けって……俺、敬ってたのか?アンタを?」
    鵜野澪:「ふふ、どうでしょうね。思い出したら、教えてください。君は今、君らしく素直に俺に接してくれればいい」
    寿敬一:「……そーかよ」
    寿敬一:「……眠い。俺はもう寝る」
    鵜野澪:「……ええ、お休みなさい」
    寿敬一:「ん。……続きは明日な」

    KP:その日、あなたは夢を見た。
    清潔な印象を受ける、白い部屋。
    病院のようだと感じる。
    あなたはそこで、誰かと話をしていた。
    夢の中で、自分は難しい顔をしている。
    そうしてなにもかもがぼんやりしたまま夢は終わった。

    鵜野澪:CCB<=90【幸運】(1D100<=90)>3>決定的成功/スペシャル

    KP:翌朝、太陽の光を受けてあなたは目を覚ます。
    彼はあなたに背を向け、丸まった形で毛布に包まっている。

    鵜野澪:「……寿君、おはようございます。まだ、寝ていますか?」
    寿敬一:「……」

    KP:彼の顔は、大層安らかなものだった。
    名前を呼んでも、体を揺り動かしても、彼が起きることはない。
    KP:息がない。鼓動が聞こえない。
    KP:そこに横たわっている人物は、死んでいるのだと確信してしまう。★SANC(1/1d4)

    鵜野澪:CCB<=81【SANチェック】(1D100<=81)>3>決定的成功/スペシャル
    system:[鵜野澪]SAN:81→80

    鵜野澪:「…………」

    KP:あなたが外に出ると、昨日の老人が話し掛けてくる。

    イカリ:「……おや、昨日の。ミナト君はどうした?」
    鵜野澪:「葬列の、準備をしてくださいますか。彼を、ここから送り出さなくては」
    イカリ:「……、つまり、それは……!」
    イカリ:「……君も、もう分かっているようだが。この町では死は悲しいことじゃない。きっと帰る準備が整ったんだな」
    イカリ:「近くの住人には、自分が知らせよう。広場で待っていなさい。葬式の手配には慣れている」
    鵜野澪:「……ありがとう、ございます。彼を、よろしくお願いします」
    イカリ:「礼を言うのはこちらだ。……まさか、こんな奇跡が見られようとは。私にも希望が見えるというものだ。さあ、盛大に送り出すとしよう」

    KP:家で眠っている彼を運び、真っ白な棺桶の中へと入れた。
    真っ白な喪服に着替え、再度広場に向かえばすでに住民が揃っていた。
    住人たちは粛々とした態度であなたを見守っている。
    「寂しくなるね」「元の場所に帰れるといいね」という呟きが聞こえた。

    KP:あなたは住人達と共に、彼の入れられた棺桶を運び、港へと向かう。
    港へ到着すると、彼の遺体は棺桶から小さな船へと移し替えられた。

    鵜野澪:CCB<=80【目星】(1D100<=80)>94>失敗

    KP:「ミナトがどうか、この地へ二度と戻ることのないように」
    「ミナトがどうか、安らかな地へたどり着くように」
    「みんなで祈りを捧げましょう」
    「神様、どうぞ彼に声をかけてやってください」
    「あなたの声は、きっと彼を導くでしょう」

    KP:「あなたが声を掛けたら、皆で歌ってミナトを送り出します」

    鵜野澪:「……寿君、どうか、ちゃんと、君の、先生のところに」

    KP:住人たちは彼を乗せた小さな船を、海へと浮かべる。
    波が船をさらって、ゆっくり、ゆっくりと進んでいくことだろう。

    あなた達が歌い終わると同時に、その船は沈み
    ひときわ大きく海の中が輝いて、やがて消えていった。
    波の音と、風の音があなたを包み込む。

    KP:あなたは、その場に膝をついた。
    どっと押し寄せてきた疲れに耐えられなかったのだ。
    瞼が重い。
    このまま自分は意識を手放してしまうのだろうと理解した。
    ざわめく群衆の声が、波の音が、風の音が、ゆっくりとフェードアウトしていった。
    KP:あなたは目を覚ます。そこは白いベッドの上だった。
    KP:「先生!鵜野さんが目を覚まされました!」
    KP:女性の声が聞こえた。看護師だろうか?
    あなたのもとにはすぐに先生と呼ばれた男が駆けつけた。

    間宵:「ああ、よかった!戻ってきたんですね!私のこと、わかりますか?」

    鵜野澪:CCB<=50【アイデア】(1D100<=50)>45>成功

    KP:あなたは全てを思い出す。
    2週間前に起こった、バスの崖下転落事故に寿が巻き込まれていたこと。
    KP:一命を取り留めたものの、その事故がきっかけで全ての記憶を失ってしまっていたこと。
    記憶喪失といえば聞こえはいいが、かなり重篤な状態で、会話をすることすらままならなかった。
    そのせいか、彼は数日経たないうちにこの施設に移送されていた。
    KP:そんな寿の担当医が、今目の前にいる人物、精神科医の間宵である。
    大きな事件や、事故に巻き込まれ、精神を摩耗してしまった人たちを中心に診ているらしい。
    あなたが見舞いに来ていた時に、急に声をかけられ、こう告げられた。

    間宵:「つつ……失礼。寿さんの記憶を取り戻す方法が一つだけあります」
    間宵:「この薬を飲んでください」
    間宵:「この薬を飲めば彼のいる世界へといけるはずです。そうして寿さんに会えたら、とにかく彼に関することをなんでもいいので吹き込んでください。そうしたら多分、帰って来れます」
    間宵:「強いショックを受けるかもしれないですが……大丈夫です、今のところ失敗したことはないので」

    KP:勢いに飲まれたのか、藁にもすがる思いだったのか、あなたは了承し薄茶色の液体を一気に飲み干し、そのまま眠りに誘われたのだった。
    KP:しかしなぜ、自分が彼の記憶喪失のことを知っている?
    ぼんやりとした記憶を手繰ると、とある男の電話越しの声が思い出された。

    男:「……寿が、事故に遭って。記憶が、全部……」
    男:「それで、ちゃんと喋ることも、できなくなっちゃって」
    男:「少しでもいいんです。あの子に、会ってあげてくれませんか。何か、思い出すかもしれないから」
    男:「僕は……すみません、情けない話ですけど……あんな寿、見てられなくて。なんとか話そうとしても、泣くしかできなくて……」
    男:「お願いします、鵜野さん。あの子が何か、思い出すきっかけを、どうか……」

    KP:あの男は……東は、震えた声でそう言っていた。
    KP:医師はあなたに語り掛ける。

    間宵:「寿さんですが……」
    間宵:「先程、目を覚まされまして。……お会いに、なりますか?」
    鵜野澪:「……、ええ、勿論」

    KP:あなたは寿のいる病室へと向かう。
    そこは個室で、窓には柵が取り付けられていた。
    寿は部屋に入ってきたあなたをぼんやりと見つめ、そして口を開いた。

    寿敬一:「……ミ、オ?」
    寿敬一:「いや、違う……鵜野さん!」
    鵜野澪:「……、寿君」
    寿敬一:「俺、俺……良かった、全部、思い出した……」
    鵜野澪:「ええ、……本当に、良かった」
    寿敬一:「……あ!そ、そういえば俺、うわ、あぁ~~~っ……」
    鵜野澪:「……、どこか痛みますか?急に、動かない方が」
    寿敬一:「や、違くて……俺、鵜野さんにめちゃくちゃ失礼な態度とってましたよね。マジですいません……うわ~……恥っず……」
    鵜野澪:「……ふ、はは、は、構いませんよ。そんなの。普段から、もっと、砕けていただいてもいいくらいです」
    寿敬一:「いやいやいや、砕けるどころか暴言だったじゃないすか。……やっちまったな~……」
    鵜野澪:「構いません。君が帰ってきてくれたんです。安い対価でしょう。それに、知らない一面が見れて、存外楽しかったですよ」
    寿敬一:「……そう、すか……ありがとうございます。本当に。また忘れるとこだった」
    寿敬一:「……ねえ、鵜野さん」
    鵜野澪:「……はい。なんでしょう」
    寿敬一:「鵜野さん、あそこで俺のこと、色々教えてくれたけど……間違ってるとこもあったんすよ」
    鵜野澪:「……」
    寿敬一:「俺、ほんとは、寿敬一じゃないんです」
    寿敬一:「俺、キラキラネームってやつで。元の名前がすげー嫌いなんすよ。だから、ずっと偽名使ってるんです」
    鵜野澪:「そう、ですか」
    寿敬一:「はは、やっぱそういう反応だよな。鵜野さんは」
    寿敬一:「なんか、なんとなくですけど……鵜野さんには知っといてほしいなって思って」
    寿敬一:「これ、自分からはあんま言わないんですよ?……まあ、俺の中で鵜野さんは、そういうことも話してえなってなるレベルなんすよ。そのへん、覚えといてください。それだけです」
    鵜野澪:「……それは、なんと、いうか、その……光栄、です。……すみません、なんとお答えすべきか、その……」
    鵜野澪:「……いえ、やはり、俺は、何も変わりません。お帰りなさい、寿君」
    寿敬一:「……ハイ、ただいま帰りました!」

    KP:この日、あなたは寿を残して帰路につく。
    寿の精神状態は良好で、2,3日もしないうちに家へ帰れるそうだ。
    KP:いろんなものが詰まりきって溢れたこの世界で、あなた達は生きる。
    空っぽだった器に、愛を、希望を、絶望を、退屈を、満たしながら生きていく。

    こぼれた餌は、魚が食べた。

    KP:ED1シナリオクリアです。おめでとうございます!
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