惣ちきチャログ東惣太郎:「独人くんとお酒飲みに来るの久々だねえ。やっぱりバーってちょっと緊張しちゃうな」
神慢勅独人:「まあ、あまり似合ってもいないな。飲めはするくせに、こだわらないからだ」
東惣太郎:「あはは、おっしゃる通りで。今日何飲もうかな。独人くん何にする?」
神慢勅独人:「む……とりあえず、ジントニックにしよう。お前もさっさと頼め」
東惣太郎:「えっと……僕カクテルあんまり詳しくないんだよねえ……じゃあスコッチ貰おうかなあ。ロックで」
神慢勅独人:「……昼間はすまなかった。まだ落ち着いてもいないだろうに押しかけて」
東惣太郎:「えっ?とんでもない、わざわざふたりでありがとう。……きっと、兄さんも喜ぶよ」
神慢勅独人:「……。麻衣花が少し、ことを割り切ろうとしすぎる性格なだけだ。わざとああいう言葉を選んでいたのだと思う」
東惣太郎:「あはは、大丈夫大丈夫。分かってるし、仕方ないことだよ。僕だってまだ、あんまり信じられてないんだから」
神慢勅独人:「惣太郎……。……私もだ。あんな事件、嚙み砕けている者の方が少ないだろう」
東惣太郎:「そうだよねえ。……134万人だっけ。何かの間違いだと思いたいよ。子どももいっぱいいたみたいだし……」
神慢勅独人:「せめて、身元が判明すれば……な。これでは怪死事件ではなく集団行方不明だ」
東惣太郎:「そう、なんだよね。結局遺体がないから、お葬式もやろうと思えないし」
東惣太郎:「……まあ正直僕、兄さんのことは諦めちゃってるけど、ね」
神慢勅独人:「……そう、なのか」
東惣太郎:「だって兄さんが、自分から何も言わずに、ひつまぶし……相棒も置いて急にいなくなるなんて、絶対しないもの」
神慢勅独人:「それは……、そうかもしれない、が。事故の可能性だって……」
東惣太郎:「……ただの事故だったらそれこそ、連絡も遺体もこっちに来るよ」
東惣太郎:「結構大変なんだよ?ひつまぶし、なぜか僕に懐かないからさ。あはは」
神慢勅独人:「……。悪かった。勝手なことを言った」
東惣太郎:「え?いやいや、独人くんが謝ることじゃないって。……まあ、これだけの人がいなくなってるわけだしね。割り切るしかないよ」
神慢勅独人:「まだ、事件からひと月ほどしか経っていない。……そんなに簡単に考えるものでもないだろう」
東惣太郎:「もう、ひと月も経ったんだよ。……兄さんはそんなに長い間、仕事も家族もほっとかないから」
神慢勅独人:「……。信頼深いな。お前たちらしい」
東惣太郎:「まあ、37年一緒だったからね。……寂しくないって言ったら嘘になるけど」
神慢勅独人:「当然だな。……そんな見栄必要ない。どうせわかる」
東惣太郎:「ふふ、独人くんは何でもお見通しだなあ。……でも、あんまりくよくよしてると、兄さんに叱られちゃうから。それに、皆僕に気遣ってくれちゃうしね」
神慢勅独人:「確かに、お前を激励する姿は簡単に思い浮かぶかもしれないな。あのデカい声で」
東惣太郎:「でしょ。夢にでも出られたらたまったものじゃないよ」
神慢勅独人:「ふ、そうか。……お前が応えたいなら、そうすればいい」
東惣太郎:「そうするよ。他の人に気遣われるのも、なんだか申し訳なくなっちゃうしね。こないだなんか、寿に旅行まで誘われたよ」
神慢勅独人:「旅行に?中々気が利くじゃないか。休みはとれたのか?」
東惣太郎:「うん。4泊5日だけど、上司も気遣ってくれたのかな。休んでもいいよって。ここは甘えさせてもらっちゃった」
神慢勅独人:「悪くない図々しさだ。まあせいぜいその丸まった背中を伸ばしてくるのだな。寿もお前の変に力の入った肩なんぞ見たくないだろう」
東惣太郎:「あはは、そうだね。寿も最近いろいろ大変みたいだし、心配そうな顔見せるわけにはいかないからね。ぱーっと遊んで、ぱーっと忘れちゃおうかなって」
神慢勅独人:「心配くらい経験のうちだろう。勝手にさせておけ。旅行に水を差すようなら叱ればいい」
東惣太郎:「そういうものかな……あの子、あれでも気遣い屋だからなあ。僕はもう大丈夫なのに」
神慢勅独人:「……。馬鹿め。心配なんて本人が大丈夫かどうか関係ないものだ。そんなことも知らないのか?お前だって心配性の癖に」
東惣太郎:「ん~……確かに。ぐうの音も出ないや。でもまあ、ずっと泣きわめいてるよりはいいでしょ。多分」
神慢勅独人:「……心配する隙くらい与えてやれと、ずっと言っているのだが?」
東惣太郎:「へ?隙?別に……必要ないと思うんだけど……」
神慢勅独人:「……必要だとぉ?……私が言うのだから、必要あるに決まっているだろう」
東惣太郎:「そっかあ……心配させる隙っていうと、あれかな、地面転がって手足ばたばたしながら泣いて見せるみたいな?」
神慢勅独人:「貴様、本気で言っているのか?」
東惣太郎:「冗談だよ、半分。だって、もう大丈夫なものをどう心配させるかなんて、分からないんだもの」
神慢勅独人:「フン。無知なやつめ。例えば……その大丈夫だとむやみに言うのをやめてみるのだな」
東惣太郎:「うーん、じゃあなんて言うのかなあ……吹っ切れた、なのかな?だってもう兄さんはいないって、死んだんだって分かってるわけだしね」
神慢勅独人:「なっ……、違う、そんなこと言ってほしいわけじゃない」
東惣太郎:「え~?難しいなあ……僕、大丈夫じゃない方がいいの?」
神慢勅独人:「……、そう、ではない……。」
神慢勅独人:「やはり、良い。お前が大丈夫でいたいなら、……それがいいのだろう」
東惣太郎:「……うん。兄さんが死ぬことは別に、悲しいことじゃないって。本人も前々から言ってたしね」
神慢勅独人:「本当にお前は、兄が好きなのだな。……その言葉を、受け止めていたいのか」
東惣太郎:「まあ、ね。……大勢の人の命と引き換えに殉職するのが理想、とか言ってたから、ちゃんと受け止めるところか微妙だけど」
神慢勅独人:「理想通りじゃなかったからと、受け止めないのも酷だろう。……お前たち家族しか、いないのだから」
東惣太郎:「……。うん……そう、なるよね。だから僕は、兄さんに叱られないように、兄さんが死んだのは悲しくないって受け止めなきゃいけないんだよ」
神慢勅独人:「……アイツの弟がお前でよかった。……私なら、早々に諦めてしまっただろうな」
東惣太郎:「僕もあの人の弟でいられて良かったよ。……まあ別に、悲しんだら悲しんだで兄さんは許してくれるだろうけどね。きっと」
神慢勅独人:「……お前に甘かったからな。アイツは。兄とはそういうものだが」
東惣太郎:「……そう、だね。……やっぱり独人くんでも、許す?」
神慢勅独人:「当たり前だろう。どんなものでも……私を想う気持ちなら、誰が否定できるものか」
東惣太郎:「ふふ、そうだよね。独人くんの家族も、友達も、あと、一慶さん……だっけ。あの人の気持ちも信頼できるものね」
神慢勅独人:「……そう、だな。……。」
東惣太郎:「ん?あ、もしかして喧嘩でもした?よくあるよね、付き合って何ヶ月とかした頃に喧嘩すること。僕もそうだったなあ……」
神慢勅独人:「……違う。喧嘩などしていない。……。その、……。連絡が、つかなく、て」
東惣太郎:「……えっ?それって……」
神慢勅独人:「……。家に、帰ってこないと、友人から聞いた。……ちょうど、あの事件の日、から」
東惣太郎:「……ごめ、ん。知らなくて、僕ばっかり……あ、嫌なこと、言っちゃったよね。ごめんね……」
神慢勅独人:「っそれは違う!私が、話さなかったのだ。……私は、どうしたらいいかわからないばかりで、……それで」
東惣太郎:「……。……その、一慶さんの家には行ったの?」
神慢勅独人:「……ああ。いつもと変わらなかった。ただ、あいつが居ないだけで」
東惣太郎:「……そっか。……見つかると、いいね……?いや、うーん……」
神慢勅独人:「……わからない。私も、どう思えばいいのか。……わからない、のだ」
東惣太郎:「……せめて誰かが、その……泥?になるところを見てれば……いや、それでもちょっと、信じられないものね」
神慢勅独人:「……。ああ。信じたくも、ない。……身をもって、わかっているはずなのだがな。別れなど、突然だと」
東惣太郎:「……仲良し、だったものね」
神慢勅独人:「……大切に、すると。言ってくれたのだ。きっと、冗談でもなんでもなく。だから、私も、それを信じようと思って……」
東惣太郎:「……ままならないなあ。兄さんも一慶さんも、ちゃんと、果たすべきことがあったのに。本当に……」
神慢勅独人:「……。すまない、今、聞かせるつもりじゃなかった。もっと落ち着いてから、と……」
東惣太郎:「いや、いいんだよ。……ちょっとわかるもの。吹っ切れたとは言っても、さっきも言ったみたいにこう、信じられないっていうか……まだ飲み込みきれてない感じもあるしね」
神慢勅独人:「……私は、飲み込めるのだろうか。今は、到底自信がない。……吹っ切れたなどと、口に出したくない、と思ってしまう」
東惣太郎:「……、諦めきれないから?受け止めきれないから?」
神慢勅独人:「……。受け止めきれない、からだ」
東惣太郎:「……そう、だよね。わかるよ。……自分の特別大事な人が、134万人のうちのひとりだなんて。……僕はやだなって思っちゃうな。正直なところね」
神慢勅独人:「……どうして、と、思うのはきっと傲慢なのだろうな。わかって、いるのだが」
東惣太郎:「よりによって、どうして、兄さんと一慶さんなんだろうね。……ふふ、傲慢なことこの上ないね、確かに」
神慢勅独人:「……はは。よりによって、か。そうだな。……きっと、134万人の身近な者が皆、そう思いたいだろう」
東惣太郎:「……お酒のせいにして、もっと傲慢なこと言うとさ。兄さんは、たくさん人を助けて死ぬって言ってたし、誰よりも本気だったから……兄さんだけは、ほんとに特別だと思ってたよ。戦隊ものでいう、赤の役。赤の人はよっぽど死なないでしょ」
東惣太郎:「それが134万人とかいう、大勢のうちのひとりにしかならなかったって……ほんと、意味わかんないよ」
神慢勅独人:「戦隊ものの赤……か。似合っているな。正義漢だからだろう。……簡単に失われるべきではなかった、なんて、言ってもいいかわからないが」
東惣太郎:「……ほんとにあっけなかった。正義の味方がそんな最期だなんて、あんまりだよ」
神慢勅独人:「……そうだ、あんまりだ。こんなの。……私たちを残して、ずるいものだよなあ?」
東惣太郎:「うん。ずるいよ。こんなに素敵な弟が、恋人がいるのに、勝手に消えちゃうなんて!二人ともバカなんだなあ、ほんとに」
神慢勅独人:「勝手に、消えて、お前の兄は受け止めてほしいと言って、私の恋人は好きだなんて残して行って……。本当に、困る、……っ」
東惣太郎:「……そう、ほんのちょっとだけでも、期待して待ってる、こっちの身にもなってほしいよ。ずっと、ずーっと身勝手なんだよ。まったくさあ……」
神慢勅独人:「……っ、ぅ、……会いたい、一慶、……っ」
東惣太郎:「……、どこ行ったんだよっ、馬鹿、兄さんの馬鹿……」