「形にした想い」 残り少なくなった兵士たちを集め巨人薬について解説した日の夜。リヴァイはエルヴィンに「この後、来てくれ」呼ばれ彼の執務室へと向かっていた。
「なんだまだ話し足りねえのか?めんどくせえ話は聞かねえぞ」
仕事中ならまだしもプレイベートな時間になった夜更けでは慣れたように室内に気配を感じるとノックもせずにドアを開け入り込むと執務机ではなく簡易的な応接用のソファに座っていたエルヴィンに近づく。
「こんな時間にわざわざすまない。もう一つ渡したいモノがあってね」
「あ?これ以上面倒なモンはごめんだ」
「はは。ある意味一番厄介なモノかもしれないな。リヴァイ、手を出して」
「?」
「そっちじゃない、逆だ」
訝しげだがエルヴィンに言われるままに先に差し出した右手を引っ込め左手をエルヴィンの前に出す。目の前に出された自分より一回りか二回り小さな手。この手にどれだけの事をさせてきただろう。どれほど自分は救われてきただろう。向けられた手のひらを返し手の甲のほうにするとそのまま引き寄せその薬指に鈍いゴールドのリングを嵌めた。
「おいてめえ、こりゃどういうことだ」
「こんな程度の物しか用意できなくてすまないね。できれば貰って欲しい。そして俺にも付けてくれないか?」
自身の左手の薬指を硬直したように眺めるリヴァイ。視線をエルヴィンへと移せば自分より大きな手のひらにはいぶし銀のリングが乗せられていた。今となっては巨人と相対しても震え一つ起こすこともなくなったのにブレードよりはるかに小さく軽いそれに触れようと思うだけで身体が震えてくる。リヴァイは銀の輪を指先で摘まむとエルヴィンの厚くて熱い手を取る。どれほどこの手から与えられてきただろうか。この手はどれほど苦しんできただろうか。リヴァイが手のひらのリングを取るとエルヴィンは手の甲を彼へと向ける。リヴァイはそっとエルヴィンの左手に手を添えると震える身体を抑えつけ太く無骨な男の指に指輪をつけた。
「俺にはこれで十分だ。俺はてめえが思っているほどできたヤツじゃねえよ。てめえが利き腕を食われて不自由してたってえのに今俺は食われたのが右腕でよかったと思っている……」
「リヴァイ……」
「……残ったのが左腕でこうしててめえと誓ったモンをつけあうのは悪くねえ。どうせだ、エルヴィン・スミス、てめえごと貰ってやる」
「それはよかった」
互いの指輪を合わせつけていられるのも一夜限りと指先を絡ませあう。
想いを形にしても指にはもちろん首から下げることもできはしない。秘めたる想いはジャケットの左胸、心臓にあたる位置に更に目立たぬよう内ポケットを作りそこへ指輪をしのばせる。
END
あの日。
人払いをして貰いほんの少し二人きりにしてもらう。横たわったまま微動だにしない姿に現実だけを突き付けられる。傍らに座っていたリヴァイはエルヴィンに近づくとジャケットの内側を探り指輪を取り出す。どの指に嵌めてみても大きすぎて当たり前だがリヴァイの指にはサイズが合わない。
「チッ。デケエ手しやがって。同じ男なのに落ち込むだろうが。どうせ付けやしねえから構わねえけどな」
リヴァイは自分の指輪を取り出すとエルヴィンの内ポケットへ。そしてエルヴィンの指輪を自分の内ポケットへとしまった。
「一緒に居てやれねけどこれで寂しくねえだろう。てめえも連れて行ってやる。だからゆっくり休め、エルヴィン」
形にした想いは永遠に。