飢渇と安寧 かつてから、時折身を襲う飢餓があった。
飢えといっても、ものを食べれば落ち着く単純な空腹とは違う。喉の奥が焼け付くように熱くなり、脳髄が目に見えぬ『何か』が欲しいと訴える。
欲しいものは己の手で奪い取る。其れを信条としていたブラッドリーだが、この飢えについては何をしても満たせぬまま、気づけば随分と時が経っていた。
目に見えるものならば力尽くで奪えばいい。しかし、身を焼く渇きの厄介なところが、全身の細胞が沸き立つように欲しい欲しいと叫ぶわりに『何が欲しいのか』『どうすれば手に入るのか』を一向に示そうとしないのだ。
叩かれた扉の音に、ブラッドリーは銃の手入れの手を止めた。タイミングの悪い来訪者だ。なにしろ今のブラッドリーは満たされぬ衝動のせいで普段よりも気が立っている自覚があった。
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