2021 1222 22 ことしも おれっちの おたんじょうびがやってきた
プリズムショーに おしごと まいにちいそがしいおれっち はぁあ おたんじょうびくらいは ゆっくりやすみたいもちなぁ
とかなんとか やいやい ゆっとりますけど じつは おもちのかいしゃとゆうのは 「きょう たんじょびだから やすむもち!」とゆうと「ふ~ん!おめめともち!じゃあゆっくりおやすみするもち!」とゆって おやすみを かいだくしてくれるのだ
だから おれっちは おいしいものをたべ ゆっくり おふろにはいり こいびとと すてきなたんじょびを すごすのでした おしまい
「……て、昨夜そ~んな夢みてさぁ。笑っちゃった。おもちちゃん達がウチに来てからよくそういう夢みるんだよね~。あの子たち、人間の精神ハッキングしてるんじゃないかしらん」
「んだそれ……ワケわがんね」
「えへへっ。ま、結局自分の願望がおもちの姿で夢に出てきたってだけなんだろうけどさ。あっあとね、寝室に置いといたはずなのに、いつの間にか別のとこにいたりして。不思議〜」
「……おめぇ、疲れすぎ。そろそろしっかり休めよ」
「だね……あは。おれだけじゃなくてさ、ここんとこホ〜ント、二人して忙しかったもんねぇ」
「いんじゃね。休みは取れなかったけど今日はお互い早く帰れたしよ」
「ん、すっごいうれしい。奇跡的。一緒に住んでこんなの初めてじゃない?」
「だな……。ん、こら」
キッチンに立つタイガの後ろから、甘えるように腕を回して首筋にちゅ、と口づけた。すっきりと短くカットした襟足。フェイスラインの長い髪はそのままに、サイドの内側を刈り上げたツーブロ。うん、頭の形が良いタイガによく似合ってる。ショーの衣裳に合わせて最近チャレンジしたこの髪型、大人っぽいしカッコいいし大成功だね。産まれてこの方一度もカラーを入れた事の無い黒髪は、昔から変わらぬ艶やかさだ。
「タ~イガ。ちゅっ!ちゅっ!」
「くすぐってぇよ」
ヤメロ、と低く呟く声は穏やかで、まるで子供に言い聞かせるみたいに優しい。もちろん彼が包丁持ってる時なんかはまとわりついたりしないけど、こうして俺が調理中にちょっかい出すことに対してタイガは寛大だ。レタスをがしがし洗う大きな手にしばらく見とれて、振り払われないのをいいことに片手を腹に当ててそっと撫でた。部屋着のカットソー越しでもわかる硬く割れた腹筋。ん~ゴッツゴツ。カッコイイにゃぁ。
「こーら」
「すごい。まだパンプアップ状態続いてるねぇ」
「ツアー終わったばっかだかんな」
「ハードだったもんねぇ。おつかれ」
そう、タイガは二週間の海外ツアー(アレクちゃんも一緒。楽しそう!)に、俺もその間十王院の業務やマスコミの仕事、今はエデロの講師なんかも引き受けちゃったりしてるから休みなしの怒涛の日々だったのだ。んで今日、おれの22回目の誕生日。計ったワケじゃないんだけど夕方からお互い奇跡的にオフを勝ち取れて、こうして家でゆっくり過ごしてるってワケ。
「おめぇも、おつかれ」
「うん」
「……おめでとな」
「昨夜いっぱい言ってもらったよぉ。えへ」
ベッドでね、という言葉は飲み込んだ。あまり生々しい事を言うとタイガはいまだに真っ赤になっちゃうの。キャワイイね。
「何度でも言うんだよ。誕生日っつーのはアレだ、祭りだ」
「うふふ」
「おめでとな、カズオ」
「うん、ありがと……」
「レタス洗ったぞ。水切れ」
「はぁい」
「回すのゆっくりでいーかんな。おめぇ馬鹿力だから」
「わかってますぅ」
頭上の戸棚から取り出したサラダスピナーに、みずみずしいレタスをがばっとぶち込み調理台に置く。おれが取っ手をぐるんぐるんと回しているうちにキッチンタイマーが鳴って、タイガは手際よく小鍋で茹でていた卵を水にさらした。
「それ終わったらこれ剥いとけ」
「わかったぁ」
「ん、風呂そろそろ沸くな。入浴剤入れてくる。鍋見てろ」
「はぁ~い」
実に甲斐甲斐しいおれっちの彼氏だ。誕生日だから特別に……って事もなく、家にいる時はいつもこんなカンジ。寮にいた頃には想像もつかなかったけれど、タイガには家事の才能があるらしい。対して俺と来たら、家ではポンコツ。ダッメダメ。料理だってこんな風にいくつかの工程を同時進行で……なんて出来やしない。仕事だったらどんなマルチタスクでもこなす自信はあるっていうのにおかしいにゃぁ。タイガもそれをわかってて、こうしてサラダスピナーをぐるぐる回すことや卵の殻を剥くこと(それすらもたまに失敗するケド)くらいしかおれっちにさせないのである。不甲斐ないけどしょうがない、適材適所というヤツだ。
「あっ白身崩れた……とほほ」
弱火に掛けられたホーロー製の大鍋を目の端で見張りながら卵の殻を剥く。炊飯器が炊き上がりのお知らせメロディを奏でて、ほこほこ良い匂いがキッチンに漂う。
「お腹へってきたぁ。楽しみだにゃぁ」
浴室から戻って来たタイガが俺の背後を通り抜けるついでに腰を抱いてくれたから、顔を横向けてちゅ、と軽く唇を合わせた。元々それほどの差はなかった俺たちの身長は、エデロを卒業したあとも同じ位のペースで伸び続けて――今は俺が174、タイガは172くらいかにゃ。2㎝の差は結局埋まらなかったとたまに悔しそうに言ってるのが可愛くてたまらない。
「わ。いい匂い。炊き上がり、どーぉ」
炊飯器を開けて、炊き込みご飯をしゃもじでかき混ぜながら「いーかんじ」とタイガが呟く。タイガお得意の鶏とゴボウの炊き込みご飯、ちなみに大鍋には豚の角煮が控えてる。お誕生日のご馳走ってワケじゃなく、いつものタイガが作る家庭料理。俺が特に好きなメニューを何も言わなくても作ってくれるの、愛でしょ。
「ねータイガ、帰ってから座ってないよね。疲れてない?ごめんねぇ。でもすごくうれしい」
「べつに。料理してっとキブンテンカンになるしよ……」
「男前~」
「おめぇ、ほっとくとしょうもねぇモンばっか食うし」
「あは……」
一緒に暮らし始めた当初、俺は栄養補助食品だけで夕食を済ませてしまう事が多々あった。日々三食がっつりお米を食べる健康優良児のタイガからしたら見ていられなかったのだろう。そう、あまりに食に無頓着な俺を見かねてタイガは料理上手になったのだ。最初はミナトッチに連絡してあれこれ聞きながら、そのうちアスリート向けの栄養学の講座にも通って勉強するようになったのだから頭が下がる。
「こーして、料理してっと、おめぇのカラダ、俺の作ったモンで出来てんだって、そう思う」
いつだか照れくさそうに嬉しそうにそんな事を言ってくれて俺も嬉しかったな。今の俺は間違いなく愛を知ってるんだなって思うと涙が出ちゃう。
「タマゴ、剥けたら鍋に入れとけよ」
「白身崩れちゃったぁ。ボコボコ」
「またかよ……ま、味沁みやすくていーだろ」
「やさし~」
「うっせ」
醤油とお砂糖、みりん、ほんのりニンニクの風味。鍋を開けて、トロトロになりつつある角煮の隙間にゆで卵を投入する。見届けたタイガがふぅ、とひと息吐いた。
「っしゃ、これでしばらく置く」
「たのしみ~!んじゃ、その間にお風呂行っちゃう?」
「ん。けどその前に」
「ん?……わっ」
正面から俺の尻の下に両腕を回して、タイガは俺を抱え上げた。そのままリビングのソファーに移動する。俺はタイガの頭頂部にちゅ、ちゅ、と唇を落としてはしゃいだ。
「ふふっタイガ力持ち~」
「おめぇ、ちょっと軽くなったんじゃね。留守中ちゃんと食ってたんだろな」
「食べてたよぉ。タイガの冷凍作り置き、チンして美味しくいただいたよ」
「ふーん」
「えへっ」
♡♡♡
「あ、ちょ、タイガ……それいい、きもちい」
「そーかよ」
「あ、ンッ、そこ、そこ~♡」
「変な声出すな……黙って力抜いてろ」
「はぁ~い」
俺の身体を抱き上げてソファーにそっと座らせてくれたあと、イチャイチャタイムの始まりだ~!と唇を突き出す俺をすげなく躱して、タイガはソファーのうしろ、俺の背後に立った。
「やっぱりな。肩、ガッチガチじゃねぇか。ったく……」
「あ、あんっそこぉっ」
「うるせぇ~」
イチャイチャタイム……はおあずけで、タイガは最初からおつかれの俺っちをマッサージで癒してくれるつもりだったみたい。肉厚で体温が高い手のひらに、ツボを心得た指圧。俺はタイガのマッサージが大好きなので遠慮なく甘えることにした。はぁ至れり尽くせり、最高の誕生日だぁ~。
「あ~幸せ。まじでおれ、幸せだな……」
「……」
「おれさ、ンッそこぉっ。今日だけじゃなくて、ホント、いつも思う。こんなに幸せでいーのかなって……うっ!タイガほんとにマッサージ上手だよねぇ……幸せすぎてさ、夢みたいだなって、いつも思うの」
「……そいつは、よかったもちな」
「ウン。タイガと出会ってから俺はずーっと幸せ。だからタイガもおなじ気持ちなら嬉しい……えっ今よかったもちなって言った?」
「……」
とっさに振り向こうとしたけど、なぜか怖くなって振り向けなかった。ぐ、ぐ、とリズミカルに動く手のひらに合わせて、「もちっもちっ」と背後で小さい声がする。えっなに。なにこれ。まさか。
「……タ、イガ」
「……ゆめだったら どうするもちか?」
「ッ!」
「おもちは にんげんのがんぼうを ゆめにみせる かずおは そうゆったもちな」
「言った、けど、え。じゃあ、これ、夢?ま、まさかぁ~」
「これも ゆめかもしれんもちな そして おめぇと おれがであったとき そこから すでに ゆめが はじまっていたとしたら」
「ふぇ……」
「どうする もちか……?」
そんな。これまでの全て夢だったとでも?ひどい、そんなのあんまりだよ……!勇気を出して背後を振り向こうと顔を横向けた瞬間、肩に置かれたタイガの手が目に入って俺は大きく息を吸い込んだ。俺の大好きなタイガのゴツゴツした手は、いつの間にやらフカフカの、まぁるい形の、さしずめ「なべつかみ」みたいな――
「おもちちゃんの、手……」
びくっ、身体が跳ねて心臓がドキドキと激しい鼓動を刻む。半開きの唇からよだれが零れそうになって、俺は居眠りしてたのだと悟った。
「まじで疲れてんだな、おめぇ」
フッ、と優しく微笑む吐息が頭上に掛かって、俺は今度こそ勢いよく振り返った。そこにはおもちちゃん――が居るはずもなく、いつものタイガが困ったように眉を下げて笑っていた。
「た、タイガぁ~~~~!」
「居眠りとかウケる。そんなに気持ちよかったかよ」
「おれ、どのくらい寝てた⁉」
「首がカクってなってすぐ起きたから、一瞬じゃね」
「一瞬……」
茫然と動けないままの俺の隣に、タイガはよいしょと背もたれを越えてピタリくっついて座ってくれた。すかさず肩を抱き寄せて、熱い首筋に顔を埋める。タイガの匂いを胸いっぱいに吸い込んで俺は落ち着きを取り戻した。
「……風呂、いっしょに行くか」
「ん……」
「んで、うめぇメシ食ってよ」
「うん……」
「ちょっとだけ酒呑むか」
「ウン」
「んで、ベッドだ」
「ハイ」
「ふふっ」
「へへ……」
形の良い後頭部を片手で引き寄せて、そっと唇を重ねた。ああ~~夢でよかったぁ~~。そうだよこんなにカッコよくて、かわいくて、俺のことを世界一愛してくれるタイガが夢なんかでたまるもんか――。絶対に絶対に、何があっても俺はこの幸せを離さないと、改めて強く胸に誓った誕生日になりました。俺、やっぱ相当疲れてるみたいねぇ。少し休みを増やさなきゃ……。
その後ふたりで広いバスタブに浸かりながら、こんなこわい夢だったんだよとタイガに話すと、タイガは「馬鹿じゃね」と言って楽しそうに笑った。そう、いつでもクレバーで完璧なおれっちだけど、タイガの前でだけは、かくもおバカになってしまうのです。そしておバカになれるというのは幸せなことだって、そう思う。
浴室の外、ちいさく「もちっ」と聞こえた気がするが、疲れすぎると空耳のひとつも聞こえる様になるのだろう。明日にでも長期休暇の申請を出すかぁ。俺は空耳を気にすること無くタイガを膝の上に抱えて、激しく唇を貪った。
♡♡♡
「まったく こうでもしねぇと にんげんの おめぇは ちゃんと やすまねぇからな」
「タイガキュ やさしい おとこまえ〜」
「うるせ〜」
「もちっ」
「もちちっ」