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    とこ*

    @tokotangtang

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    とこ*

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    大曲先輩お誕生日おめでとうございます!
    曲種/ちょっとだけ木手甲斐
    大曲・種ヶ島・亜久津・真田・木手・跡部

    #曲種
    songType

    ハッピーバースディ☆キッス「……おい。いつまでそうやって廊下の真ん中突っ立ってんだ。どけし」

     夕飯を終えて食堂から部屋へと戻る道すがら、目付きの悪ぃ中坊がふらりと現れ俺の進路を塞ぐ。まっすぐ俺にガン垂れながらスウェットのポケットに両手を突っ込み仁王立ち。先輩に対して取る態度じゃねぇし何より廊下は公共の場所。皆の迷惑になるのがわかんねぇのかこのクソガキは――。
    「聞いてんのかコラ亜久津。何か気に入らねぇ事があんなら聞いてやっから、早よ言えし。お前らガキと違って俺は忙しいんだよ」
    「……俺に、指図すんな」
     チッと舌打ちひとつ洩らし、ずぃ、と距離を詰めて来る。少しばかりタッパが上だからって、見下ろして来る事で威圧感を与えようなどと幼稚にも程がある。一歩も下がらず見上げてやると、意外にも亜久津の瞳には全く敵意がこもっていなかった。
    「……?何だし。何か用かっつーの」
    「……」
     よくよく見ると、頬に赤味が差している。コイツ色が白いから顔色変わると丸わかりなんだな……。何だ?こんなチンピラに至近距離で頬染められてもまったく嬉しくねぇんだけど……。
    「……ケッ!」
     鼻と鼻が触れ合うほどの距離まで顔を近づけたかと思うと、プイ!と身を翻して亜久津はさっさと歩き出してしまった。は?わからん。どうすれば正解だったんだ……?
    「大曲先輩」
     ひょろりとした背中を茫然と見送っていると、背後から落ち着いた声がする。振り向けば真田が生真面目な面持ちでこちらに歩いてくる所だった。
    「……おう、真田」
    「夕飯はもう済まされたのですか」
    「ああ。何か用か?」
     真田はただでさえ真っ直ぐな背筋をさらにピッ、と伸ばして直立の姿勢を取った。何だ何だ。果し合いでも申し込みに来たのか。
    「今日は、大曲先輩のお誕生日と伺いました。先輩、お誕生日おめでとうございます。この合宿で先輩とひとつ屋根の下、切磋琢磨出来ることを改めて嬉しく思います」
    「あ~……」
     誕生日。家族や地元のダチから祝いのメッセージは貰っていたが、はしゃぐような歳でもねぇし何より今は合宿中、それどころじゃねぇ。大した感慨もなく頭の片隅に追いやられていたものの、こうして後輩から祝いの言葉を掛けられるのは素直に嬉しいモンだ。ちょっと照れくさかったが、ありがとよ、と柄にもなく微笑んで踵を返した。あ、もしかしてあのチンピラも俺を祝ってくれてたんか……?ンなワケねーか、アイツに限って……。
    「大曲先輩っ」
    「ッ、んだよ。声でけーし……。まだ何かあんのか?」
    「あ、失礼しました。その……」
     デカい図体をもじ、とよじり頬を染める。何だ何だ、コイツもか?中坊たちの間で変な病気でも流行っているのか。
    「あの、せ、接吻は、たとえ頬とはいえ……将来を誓い合った大和撫子と、と心に決めていますので……」
    「せっぷ……ハァ?」
    「ではこれにて。良き一年となりますよう、お祈り申し上げます」
     ポカンとしてる俺を尻目に、真田は武士のように両手を腿に添え一礼して去った。頭にハテナマークをいくつも浮かべながら、俺も自室へ向かって歩き出す。何だしコレは……嫌な予感がする。俺の知らないところで何かが進行しているような、「おふざけ」の匂いがプンプンするぞ――。
    「大曲先輩」
     部屋のドアノブに手を掛けたところで背後から呼び止められる。またか。不本意ながらギクリとして振り返ると、キテレツがスンッと澄ました顔で立っていた。
    「ンだ、キテレツ、お前もか……?」
    「何がです?」
    「いや……」
    「先輩、今日はお誕生日だと聞きました。とぅしびーかりゆしやいびーん、おめでとうございます」
    「おう……」
     祝いの言葉を掛けるなり、キテレツは両手を広げてふわりと俺に抱きついて来ようとする。とっさにその両手を掴んで避けようとしたが、武道の心得があるキテレツは易々と俺の防御を解いて、それでも俺が拒否の姿勢を見せたのを尊重してピタリと動きを止めた。
    「ちょ、待て、待て待て」
    「何です?大曲先輩、もしかして照れておられる?かわいい所がありますねぇ」
    「ナマ言ってんじゃねぇッ……。キテレツ、俺が誕生日って誰に聞いた?」
    「ああ、種ヶ島先輩にお聞きしました。先ほど食堂でお会いした時に」
    「やっぱり……」
    「それなら何かお祝いを、とそこに居た中学生たちで話していたところ、種ヶ島先輩が」
    「……何て?」
    「りゅ~じは帰国子女だから、ほっぺにチュー☆してあげれば喜ぶで、と」
    「修二~~~~」
     なるほど、亜久津と真田の挙動不審にも合点がいった。つーか何だしアイツら、ウブな感じで頬染めんなし!
    「頬にキスくらい、いくらでもして差し上げたいのですがねぇ。生憎ワタシには嫉妬深い番犬がおりますので……」
     ちらり、と振り向くキテレツの視線の先、廊下の角からチラッ!と覗くふわふわした頭が見えた。毛並みから察するに恐らくコッカースパニエルだろう……ンなワケあるか!
    「そういう訳なので、せめてハグでお祝いさせていただきますよ。大曲先輩、お誕生日おめでとうございます。今後ともご指導ご鞭撻のほど……」
     しゃーない、今度は俺もキテレツのハグを受け入れて、頬と頬を軽く触れさせる。「では」とクールに去って行くキテレツを見送り、俺は自室のドアを開けた。元凶はここにいる。

    「おっ、おかえり~☆なんや、キテレツはチューしてくれへんかったん?」
    「……誰が帰国子女だし……生まれも育ちも群馬だし」
    「知っとる~☆」
     ハァ、とため息ひとつ洩らしベッドに腰掛ける。修二が何やらおふざけを仕掛けてくるのはいつもの事だ。
    「……怒っとる?」
    「別に……。てかくだらねぇこと中坊にさせんなし。亜久津も真田もポッ!と頬染めてたぞ」
    「アイツら一応やろうとはしたんやな!かわええなぁ〜」
     自分のベッドでダラダラ寝そべっていた修二が、俺の隣によいしょ☆と腰掛ける。ベッドメイクした掛布団に他人が腰掛けるなんて俺は許せねぇタチだが、修二だけは特別だ。何つーか、もう慣れた。
    「かわいくねーし……。野郎のキスなんざ……」
     言いかけた俺の言葉が止まる。修二の瞳の奥に、ちょっとだけ傷ついたような、臆病な色がよぎったのだ。いくらおちゃらけて見せた所で、ダブルスパートナーの心の機微は手に取るようにわかってしまう。アイツにとってもまた同じ。長年連れ添った夫婦のように。
    「……お前よ、もしかして、」
    「……」
     フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いて見せる。誰よりも大人びて振舞いたがる癖に、お前、俺の前でだけはよくこんな風に子供じみた仕草をするよな。唇が尖っている。頬が赤い。何も隠せていねぇ、今、お前は何も――。
    「……あのなぁ」
    「……ちゃい」
    「茶化すな。正直に言えや。お前が、俺に、チューしたいんだな?」
    「……」
     ウン、と小さく、しかしハッキリと頷いた。素直かよ……。あ~あ。ついに言っちまったな。互いに、とっくに気づいてた。いつ言うか、どっちから言うか、歳を経るごとに慎重になってなかなか言い出せなかった。築きあげて来た今のこの関係が大切だったから。壊したくなかったから。だけどそろそろ頃合いだ。二人して覚悟キメて、前に進むか!仕方ねぇ~。
    「修二」
    「……何やッ」
    「逆ギレすんなし……。ま、言いづれぇけど言ってやる……嬉しいよ。誕生日だから、祝いに、その、チューしてくれんだろ」
    「ウン……」
    「誕生日だから、お前の気持ち、くれんだろ」
    「ッ、……せやで」
    「んじゃ、俺の気持ちもお前にやんなきゃな……ちょ、修二、待てしッ」
    「何やッ!チューすんで。ほれ。話は決まったやろがい」
    「何だしその言い草……待てって!その前に……。お前、だったら何で中坊共をけしかけたりしたんだよ」
    「……アイツらが、ノリでイったら、俺も流れで、イけるんちゃうかって……」
    「もしお前の前に中坊共が散々チュッチュチュッチュして来てたらどーすんだよ」
    「それは、イヤやな……」
    「んじゃ何でそんな事焚きつけたんだって。誰もしてこなかったから結果オーライだけどよ、最初っからお前だけがしてくれりゃいーだろが」
    「……わからん……。何か、ワケわからんように、なってしまって……」
     ふざけてんのか、と一瞬思ったがコイツはマジなのだ。日本代表No.2、知将とも呼べるこのクレバーな男がこうも「ワケわからんように」なってしまうのだから、マジ以外の何物でもない。マジだ。コイツはマジなんだ。そして俺も――。
    「……わかったやろ、俺、お前がいるとおかしなるんよ。いつもの俺じゃいられんくなるんよ。だから……」
    「……ほっぺで、いーのかよ」
    「ッ、竜次……」
     挑発するようにグ、と顎を突き出してやると、修二の目にもようやくいつもの鋭い光が甦った。
    「来いや。好きにすりゃぁいい」
    「……後悔しても知らんで」
    「するかよ。……俺も、好きにさせてもらうからよ」
    「……さよか」
     試合の前とはまたちょっと違う胸の昂り。俺と修二の心臓が同じほどの激しさで鼓動を刻む。唇と唇が触れ合う寸前、コン、コン、と無粋なノックが俺たちを引き離した。
    「チッ……」
    「は~い☆誰や〜?」
    「跡部です」
     大人びた声音でドアの向こうの跡部が応える。中学生代表として、ヤツが修二に連絡事項を伝えに来るのは初めてでは無かったから、「今いいところだから後にしろ」なーんて事は言えるはずも無い。あっという間に対・後輩用のしっかりした面持ちになった修二が可笑しくて、俺は思わず吹き出した。
    「笑うなって……しゃあないやん」
    「ん、あとでな……。跡部、鍵は開いてる。入れし」
     声を掛けるなりバァン!とド派手な音を立ててドアが開く。スッと部屋に滑り込んで来た跡部が、「ハァーッハッハッハ!ハァーッハッハッハ!」と高笑いを始めたので、俺は冷静にヤツの横をすり抜けてぱたん、とドアを閉めた。
    「うるせぇ!ドアの外と内で温度差エグいなお前……」
    「自律神経どないなっとん?」
    「ヘェァッピィヴァースディ、大曲先輩」
    「さすが発音ええな☆」
    「……待てし。跡部、お前まさか俺にチューしに来たんじゃねぇだろうな」
    「話は聞かせてもらいましたよ。中学生たちは今その話で持ち切りです」
    「何でだしッ」
    「あ~祝いにチューとか、外人ぽくてカッコええもんなぁ。中坊が憧れんのもわかるでぇ」
    「お前が撒いた種だしッ」
    「そう、放っといたら皆がこの部屋に殺到して大変な事になりそうでしたので。そこで中学生を束ねる主将である俺様が代表して、大曲先輩にKISSを届けに参上したってワケですよ。特別に、ね」
    「……」
     ちらり、修二の方を伺う。「どーぞご自由に☆」の風情でそっぽを向いてはいるが、組んだ脚の先が落ち着きなくソワソワとリズムを刻んでいる。やめろ、チューすな、早よ出てけ、とそのリズムが物語っていた。
    「……跡部よ」
    「はい?さっさとしましょう、俺も忙しいんでね」
    「……忙しいところ悪ぃんだがよ、昨日、鬼の誕生日だったのは知ってるよな?」
    「ええ、もちろん」
    「実はアイツも帰国子女なんだ。先にアイツにチューしに行ってやってくれ」
    「オゥケィ!」
    「理解、早すぎん?」
     バチッ!とウィンクひとつ残し、跡部は華麗に踵を返して部屋を出て行った。マジでものすごく理解が早ぇな……。まあこういう判断力、行動力も統率者の器、といったところかも知れねぇな。知らんけど……。

    「フッ」
    「あははっ」
     部屋に静寂が戻り、俺も修二の隣に戻ってぽすん、と腰掛けた。何となくそんな空気じゃなくなっちまったけど、(続き、するか?)と目で問いかける。(どないしょーか☆)と目で答える。また二人でうふふ、と笑い合って、自然に、ごく自然に、俺は修二の頬に口づけていた。
    「あ?俺からしちまった」
    「ええよ……。ヒゲ、こそばいな……へへっ」
    「ほれ、俺にも……祝いだろ」
    「わーってるって☆」
     頬に触れる柔らかな唇。ちゅ、と小さな音を立ててすぐに離れる。互いに照れくさかったけど、目と目が合ったまま離れがたい。

    これ以上、イっとくか?
    うーん、どないしよ?
    お楽しみに、取っとくか。
    せやね……りゅーじ、おめでとさん
    ……あんがとよ

     再び目と目で語り合い、そっと手を繋いで寄り添う。穏やかな時間が過ぎて行く。かわいいかわいいガキみたいなキスを贈り合って、俺の誕生日は無事に終わった。
    ――と言いたい所だが、その後舞い戻って来た跡部に「ウソつくんじゃねぇ」とタメ口で怒られてしまい、これは完全に俺と修二が悪いので二人して「ゴメンナサイ」と謝った。デカ勘弁しろし。


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