パフェ ラズベリーソース、シリアル、パンナコッタで三段の層を作り、その上にはバニラアイス。その周りを真っ赤な苺がぐるりと囲み、鮮やかな赤の合間からは純白の生クリームが顔を出す。バニラアイスの天辺にミントではなくホワイトチョコレートが飾られているのが、カルナ的には嬉しいポイントだ。
細くて小さなスプーンでひと匙。はみ出すことも唇を汚してしまうのも気にせずに、苺とクリームを掬って口に入れると甘酸っぱい幸せが口一杯に広がった。
「美味い」
「お前は本当にパフェが好きだな」
「パフェは美味い。苺パフェも好きだが、チョコレートパフェも好きだ。プリンパフェも捨てがたい」
カルナにとって、パフェは幸せになれる食べ物である。
父は多忙で不在の日も多かったが、カルナとの時間を大切にしてくれた。時間がある時は色々な場所に連れ出しては遊んでくれて、レストランで食事をして、食後のデザートには必ずパフェを食べるのだ。
家の食器棚にはない背の高いガラスの器に、甘くて美味しい物がたくさん詰まっている。フルーツもアイスクリームも食べられる贅沢な食べ物を頬張ると、父の顔が幸せそうに綻んでいた。
父と一緒に食べたパフェはとても美味しかった。
アルジュナと映画を観に出かけて、カフェで感想を言い合う何気ないこの時間に食べるパフェも美味しい。しかし、1人でこの幸せを――悦楽とも言える甘さを貪るのは、本当の意味でカルナを満たしてはくれない。
なので、スプーンにバニラアイスをお供にした苺を乗せて、アルジュナに差し出したのだ。
「食え、アルジュナ」
「……いや何故」
「何故? 美味いからだ。このパフェは実に美味い」
所謂「はい、あーん」の状態である。カルナがこうしてスプーンを差し出すと、父は笑顔で口を開いてパフェを食べてくれた。お互いに「美味しい」と言い合うのはとても嬉しかった。
が、アルジュナは笑顔で口を開いてはくれなかった。戸惑ったような、苛ついているような、「こんな公共の場で何しているんだスカポンタン!」と言いたそうな空気を醸し出していた。
だが、このままではバニラアイスが溶けてしまうとカルナが急かすと、観念してパクっと食べた。
「甘い」
「そうか、そうか」
甘い苺とバニラアイスは、すぐにチャイティーのスパイスの刺激で流されてしまった。
カルナが苺パフェをペロリと平らげ、2人はカフェを後にする。さて、帰るかと、夕暮れの冷たい風に少し震えれば、アルジュナの手がカルナの手を絡まった。そっと引き寄せてれば、そのまま触れるだけのキスが降って来る。
「買い物をして帰るぞ」
「ああ、そうだな。ボディソープが切れそうだ」
何気ないいつもの会話。
繋いだ手のぬくもり。
与えたら同じだけ返って来る熱量。
甘い苺とバニラアイスとチャイのスパイスの味。
パフェは、2人で完璧になれる幸せの食べ物なのである。