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    現パロのパーバソ(刑事×カフェの店主)
    後編できました!ハッピーエンドですやったーーー!!
    あと、今更ですがこちらはジュナカルと同じ工場で製造されていますので、微かに香りが立っています。
    支部に前後編まとめたのを上げています↓
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26106991

    #パーバソ

    【後編】キューピッド合戦~あるいはクソデカピーポポくんの功罪 実を言うと、バーソロミューの元には頻繁にキューピッドが出張してきていた。理由はそう、メカクレに出会ったからだ。
     素敵なメカクレに出会えばキューピッドによってハートが射抜かれる。当然だ、メカクレなのだから……などというよく分からん理由でキューピッドに射抜かれ慣れている(?)はずだったが、彼――パーシヴァルに出会った瞬間は、何かが違った。
     矢じゃなくて槍で射抜かれたような衝撃だったとか、そういう違いではない。強いて言えば、心臓の鼓動の動きが違ったのだ。
     パーシヴァルからの賛辞の言葉を受けて、あの事件が起きた日の光景がフラッシュバックした。心臓は忙しなく跳ね続け、頬は熱を孕み手で顔を覆っても隠せないほど紅潮する。メカクレを前にした際の興奮で起きる動悸・息切れとは違う症状が出た……まさか、いや、そんな馬鹿な。
     まさか、自分がメカクレにガチ恋をしたと……?

    「いらっしゃい。今日のランチも大盛りかい?」
    「こんにちは。ドバイ料理は初めてなんです。どれがおすすめですか」
    「そうだな。たくさん食べる貴殿には、チキンのマクブースをおすすめしよう。スパイシーな炊き込みご飯のような料理だ」

     自分がメカクレにガチ恋などありえない。と、バーソロミューは自身に言い聞かせた。
     メカクレとは推しである。メカクレは愛でて称賛するものであり、挟まれはしたいし自家用クルーザーに招きたいとは思うが、恋愛関係になりたいとかそんな感情は抱かない。メカクレは、美しい出会いをして幸せになるべきなのである。そこに、自分は存在しなくてもいい。
     イエス・メカクレ!
     ノー・タッチ!
     だから気のせいだ。それに、あの時のパーシヴァルは事故メカクレだった。いつもの彼は、いい感じの長さの前髪ではあるがメカクレではない。奇跡的にレアメカクレに出会ったからだ、きっとそうだ。
     インドカレーフェアの最終日以来、ランチでもティータイムでもパーシヴァルはよく『ロイヤル・フォーチュン』を訪れていた。彼が来店する度にバーソロミューは自分を戒めて、軽妙洒脱な伊達男として、カフェの店主としての範疇で接し続けた。

    「ドバイも訪れたことが?」
    「随分と昔にね。今は近代化が進んで、随分と様変わりしたようだ」
    「実は、私も旅が趣味でして。今は職業柄、あまり遠出はできませんが、大学時代はバックパッカーとして主にヨーロッパを旅していました」

     パーシヴァルが話しかけてくる時は、決まってバーソロミューの手が空いている時だった。カフェが込み合っている時は挨拶と、「ごちそうさまでした。美味しかったです」の言葉だけで長居せずに退席する。実に良いお客なのである。
     何度か来店して、時には職場の先輩を連れてきて、カルナという共通の知人がいることが判明したりと、出会ってからそれなりの時間が経ち「常連さん」と呼んでいいほど会話を交わして数週間……パーシヴァルに食事に誘われたのだ。勿論、2人きりで。
     バーソロミューは身構えた。
     自慢であるが、バーソロミューはとにかくモテた。軽妙洒脱な伊達男は老若男女問わず多くの者の目を惹き、魅了し、引く手数多のより取り見取りだった。異性にも同性にも誘われはしたが、相手の様子を観察して上手く立ち回ることにより、すべての縁は布が触れ合う程度のスキンシップだけで後腐れなくサヨナラしている。
     会話も楽しく好感度が高い「常連さん」は、初手でどんな食事に連れて行ってくれるのか。パーシヴァルの選択肢によっては、これからの付き合い方も変えなければならない。そう思案していたところ、パーシヴァルが連れて行った店は大衆向けのスペイン・バルだった。
     気の知れない仲間たちとワイワイ騒ぎながらピンチョスを摘み、店内のテレビから流れるサッカーの試合に歓声を上げてビールで喉を潤すような、そんな店。タパスのメニューが豊富で、酒だけではなくモクテルなどのノンアルコールドリンクも多く、酒は軽く嗜む程度のバーソロミューにとってありがたいラインナップである。
     正直言うと、この日の食事はとても楽しかった。
     旅好きという共通点から話が弾み、美術館でやっている期間限定の展覧会の話題に花が咲き、テレビから流れるサッカーの試合に興奮し、更には同郷だったということまで判明した。お互いにビールを一杯だけ飲んで、まだまだ電車が走っている時間に解散した。非常に健全な食事会だった。
     二回目は、バーソロミューから誘った。先日のお礼という名目で、身体が資本の若い刑事にとシュラスコの食べ放題に連れて行ったのだ。
     前回の食事の時もそうだったが、パーシヴァルはその体躯に違わずよく食べる。気持ちのいいぐらい綺麗にたくさん食べてくれるから、見ていて楽しい。「貴方もたくさん食べてください!」とサラダバーのポテトサラダを山盛りにされた時は必死に抵抗したが、彼がよく食べる光景ずっと眺めていたかった……そして時々、「あれ?」と脳内で首を傾げるのである。

    「それってパパ活じゃないでつかヤダーwww おまわりさんコイツです」
    「残念だったな。そのパパ活の相手がおまわりさんだ!」

     これで、バーソロミューが全額奢ったならば、若者に飯を食わせるだけの健全な(?)パパ活になった可能性もあったが、そこは公務員。ごちそうにはなれないと、しっかり割り勘してその日も終電前に解散したのだった。
     若人に飯を食わせるパパ活おじさんならまだ良かった。問題は、首を傾げ続ける疑問点にある。

     駄目だ、ずっとトキメキっぱなしだ。

     パーシヴァルの前髪のメカクレ深度が上昇するベストアングルを見つけた訳ではない。彼がペロリと肉を食べる仕草や、グラスに口をつけて上下する喉仏や、空色の双眸を優しく細めると深くなる目元の窪みを見る度に胸がキュンと締め付けられる。メカクレが存在しない空間で、こんなにも胸がざわついて落ち着かないのだ。
     認めたくないが、やっぱりそうなのか……?

    「いっぱい食べる君がしゅき♡ それってさぁ! 恋、しちゃった……ってコト!?」
    「喜べクソ髭。Mr.ジョーンズのロッカーに優しくエスコートしてやろう」
    「やだトキめいちゃう! 駄目よ黒ひー! 今季と来季のアニメを完走するまで、アタイ生きなきゃなんないんだからァ!」

     バーソロミューはパーシヴァルに恋をしている。
    「まあそうだろうね」と、レイヤーが違う世界を目にすることができる人物がいたのならそう言うだろう。
     比喩表現が具現化しているかのような世界では、キューピッドたちによるハートの獲り合いが何度も繰り返されているのだ。
     パーシヴァルの背後にいるかわいいシロクマのキューピッドは、出会ったその瞬間に手にした聖槍ロンギヌスでバーソロミューのハートを刺し貫いた。そして再会した時には、パーシヴァルの純粋な賛辞と同時に再びハートを貫いたのである。この時点で、既に二回もハートを奪われていたのだ。
     が、バーソロミュー背後にいる海賊のキューピッドも負けてはいなかった。顔を真っ赤にしてガチ照れしてしまったバーソロミューの砲弾はパーシヴァルのハートに着弾し、見事にハートの略奪に成功していたのである。
     つまり、どちらも恋に落ちていた。
     あとは、どちらが先に相手を討ち取って陥落するかである。
     会話をする度に、顔を合わせる度に、キューピッドたちの戦いは続いている。
     最近では、シロクマのキューピッドは自身の毛並みによく似た真っ白な馬に乗って機動力を上げてきた。投げ槍で穿とうとする時もあれば、接近して勢いのまま槍で貫通させようともする。
     一方、海賊のキューピッドは艦隊を組んだ。本艦と同じく天使の両翼が装着された小型の船が陣形を組んで取り囲み、一斉掃射で撃ち抜こうとしてくるのだ。
     戦況も佳境に入ると、シロクマのキューピッドと海賊のキューピッドの一騎打ちになったりもするが、勝敗は五分五分である。どちらも何度もハートを奪い、されども完全勝利は収めていない。
     バーソロミューは恋に自覚しつつある。そして、パーシヴァルも同じあろう。他人からの好意を浴び慣れているバーソロミューにとって、パーシヴァルが向けて来る感情はあまりにも分かりやすく、そして美しかった。
     勝負は大詰めだ……仕掛けて来るなら今夜だろう。今夜は、三度目の食事の約束をしているのだ。
     まずは、とっくに閉店時間を過ぎているのに居座るティーチを追い出した。先月も先々月も出禁にしたはずなのに懲りずに賄い飯を食いに来る腐れ縁は、いつか本当に海に沈めなければならない。お陰で時間がギリギリではないか。
    『ロイヤル・フォーチュン』は19時閉店だ。閉店作業を終え軽く身支度を整え、待ち合わせ場所である駅ビルに向かおうとしたところで、パーシヴァルからメッセージが届いているのに気づいた。会議が長引きそうで少し遅れると、丁寧なお詫びの言葉が届いていた。
     正直助かった。年上の伊達男としては、焦らず余裕を持って彼を出迎えたかったところだ。
     駅ビルのカフェで待っていると返事をして、バーソロミューが入店すれば、見覚えのあるメカクレを発見した。

    「おや? 無造作に結われて流された前髪の隙間から、中性的な白皙の美貌が見え隠れするメカクレは……カルナじゃないか」
    「バーソロミューか。相も変わらず口数の多い男だ」
    「メカクレを前にして黙っていることなど不可能に近い! 隣、いいかい?」
    「好きにしろ。逢引きか」
    「いや、ただの食事に行くだけさ」

     お言葉に甘えて、バーソロミューはミルクティーを片手にカルナの隣のカウンター席に腰を下ろした。
     カルナが譲った割引券がきっかけでパーシヴァルと再会したのだから、世の中とは奇妙なものである。

    「呆れて言葉もない。貴様らの目は節穴か」
    「確かに、逢引き……デートなんだよな、これって。そろそろ、本格的に交際を申し込まれそうな気配があるんだけど。ほら、私って一見するとアラフォーには見えない美男子だろう。でも、やはり年の差というのは感じてしまうものさ。特に胃袋の若さとかで」

     まさか、一回りも年下だとは思わなかったよ。

    「二十代と三十代って世代も価値観も違うだろう。時々まろび出てしまったアラフォー仕草で幻滅されているかもしれないし……」
    「そうか」

     バーソロミューの背後にいる海賊のキューピッドは、略奪してきたパーシヴァルのハートを大切そうに宝箱にしまい込み、勝利を祝って樽のグラスにラム酒を注いでカンパーイ!と祝杯を上げていた。少なくとも、幻滅されることはしばらくないと見込まれる。
    『ロイヤル・フォーチュン』で彼らの絡みを眺めてきたカルナのような外野からしてみれば、両者さっさと観念しろと叫びたい衝動に駆られているのだ。

    「取るに足らない戯言だが、耳に入れておけ」
    「うん?」
    「年下の男は、かわいいぞ」

     それは、最近になってめちゃくちゃ理解わからせられている。
     かっこよくて、誠実で、清廉で、かわいくて、しかもメカクレの素質がある。最高か、最高の物件か。
     やはり変に格好つけないで、欲しくなったから奪ってしまおうか……バーソロミューはあまり他人には見せられない顔をしながらぬるくなりかけのミルクティーに口をつけると、入り口付近から女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。

    「キャァ!?」
    「オイ! ここに花屋がいるはずだろ! あのクソ野郎、ただじゃ済まさねェ!」

     顔を向ければ、立派な出刃包丁を手にした治安の悪そうな男たちが乗り込んできている最中だったのだ。



     ***



     パーシヴァルは覚悟を決めていた。
     今夜は、バーソロミューと三度目の食事の日である。
     斎藤は「デート」と言っていたが、今夜の食事がデートになるか否かはパーシヴァルの行動にかかっている。そう、パーシヴァルは今夜、バーソロミューに交際を申し込もうとしているのだ。

    「同性も恋愛対象であることは、今までの食事での会話で把握済みです。彼の反応も好意的ですし、三度目の食事も快く了承してもらえました。……これは、所謂「脈アリ」と言っていいでしょう。年齢差、という点が多少の障害となる可能性はありますが、押し切れる算段はあります」
    「恋愛初心者なのにそこまで計画立てて動ける後輩くん、怖い」

     誰かが彼のことを「清き愚か者」とは言ったが、ただ愚直なだけじゃないのはコンビを組む斎藤も嫌というほど知っていた。特に事前のリサーチが念入りである。念入りに、誠実に対話を重ねてここまで来やがった。
     パーシヴァルの背後にいるシロクマのキューピッドは、刺し貫いたバーソロミューのハートを真綿がたっぷり入った柔らかいクッションの上に乗せ、とても幸せそうにそれを眺めている。パーシヴァルが真正面から押し続け、メカクレというちょっと狡い手段にも手を出せばバーソロミューが陥落する可能性は多いに高い。
    「後輩くんにも春が来たのかー」と、斎藤は濃いめの緑茶を口にした。会議が長引くと、精神的にも疲れるしガタついたパイプ椅子で腰も痛くなるのである。
     パーシヴァルはバーソロミューとの待ち合わせに向かうから、自分もさっさと帰ろうかと思った矢先、事件が飛び込んできた。

    「大変です! 最寄り駅のビルに入るカフェで立て篭もりです!」
    「え?」
    「え……」

     バーソロミューと待ち合わせをしているカフェで、刃物を手にした男たちが立て篭もっているという110番通報が入ったのだ。

    「なんだあいつらは……待て、今、花屋って」
    「……悪く思え。奴らの狙いはオレだ」
    「やはりそうか。何があったんだ?」
    「以前、女連れで花を買い求めにきた客だ。はした金で豪奢な花束を注文しようとしてな」
    「おっと、話が見えてきたぞ」

     恐らく、「そちらのご予算では、花の本数に限りがあります」的な言葉を通常運転カルナな語彙のチョイスで言ってしまい、怒りを買ったのだろう。もしかしたら、女性の前で恥をかかされたとでも思ったのかもしれない。
     興奮状態で叫ぶ支離滅裂な単語を拾って推測するに、間違いなさそうだ。女性が離れたのはカルナが原因だと責任転嫁している。なので、子分を引き連れて復讐に来たのである。

    「よく君の居場所が分かったな」
    「最近はここのチャイラテに凝っていると、客の前で話したことがある」
    「それで、閉店後はこのカフェにいる可能性が高いと踏んだ訳か。微かに頭が回るのが厄介だな」
    「巻き込んだことは謝罪しよう。終わらせる」
    「待ちたまえ」

     奴らのお目当てであるカルナが自主的に出ていっても、大人しく出ていくとは思えない。むしろ、店内で殺傷沙汰を起こす危険があるし、他の客や店員に危害を加える可能性だってある。
     幸いにも、奴らはお目当ての花屋の店員を探し出せていない。今のカルナは髪をポニーテールに結っていてユニセックスな服装をしているので、一見すれば女性にも見える姿をしている。バーソロミューの後ろにいれば男女のカップルと誤魔化せるはずだ。
     少しでも時間を稼ごう。誰かが通報すれば、すぐにおまわりさんが……最寄りの警察署の刑事が現場に駆けつけるはずだ。

    「“白髪の細い男”がいません!」
    「今日はいないんじゃ……」
    「店の奥も探せ! オイ、裏口とかないだろうな。そこから逃がしたとかじゃねェか!」
    「そ、そんなことしません!」

     立て篭もり犯たちはカフェのバックヤードにも押し入り、男性客の顔を1人1人じっくりと検める。女性客や老人は基本的に放置していたが、スマホを手にすると出刃包丁の切っ先を向けて恫喝した。
     カルナを探す主犯の男がカウンター席にもやってきたので、バーソロミューは咄嗟にカルナを背後に隠した。しかし、ばっちり目が合ってしまい、主犯の男はバーソロミューに向かって近寄ってきてしまったのだ。

    「やめてくれないか。彼女が怯えている」
    「キレイな顔してンなァ。キレイな顔で、青い目をした男がタイプって、俺の女が言っててよォ~~! 俺はタイプじゃねェって出て行ったンだよ! テメェみたいな男のせいで!」
    「わぁ、八つ当たり」

     完全なる八つ当たりで、出刃包丁の切っ先がバーソロミューの頬に触れた。背後で殺気を飛ばそうとするカルナを必死に宥めながら、相手を刺激しないようにポーカーフェイスを崩さない。
     このまま、八つ当たりとして傷の一つでも付けられそうな気配だな。と、いくらかの負傷を覚悟したところで、カフェの入り口から再び悲鳴が飛んできた。入り口を見張っていた手下の悲鳴だった。
     主犯格の男だけではなく、店内の者たち全員の視線が入り口へ集中すると……もれなく全員が恐怖した。
     そこにいたのは、よく見る警察のマスコット――2mを超すクソデカピーポポくんだったのである。

    「どうしてそうなった!?」
    「な、何だコレは!!?」

    「な、何だコレは!!?」と訊かれても、「これはクソデカピーポポくんです」としか答えられない。
     おまわりさんと一緒に町の安全を守るマスコットキャラクターが、入り口を見張っていた手下をシバキ倒して入店してきたのだ。絹を裂くような女性の悲鳴が飛んだ。
     乱入してきたクソデカピーポポくんは、刃物を持つ立て篭もり犯たちをちぎっては投げ、逃亡しようとすると首根っこを掴んで締め落とす。そして、バーソロミューの正面にいた主犯格の男を見下ろすと、唖然として動けないでいるそいつを床に叩きつけて確保したのである。
     あっという間だった。
     そして、このクソデカピーポポくんの着ぐるみを着こなせる者は、非常に限られていた。クソデカピーポポくんが頭部を脱ぐと、中から出てきたのはバーソロミューの想像通りの人物だった。

    「バーソロミュー!」
    「デスヨネー! どうしてそうなっているんだい、パーシヴァル?!」
    「これがあれば、ワンチャンスピード解決できるかもしれないと、斎藤先輩が」
    「茶番か」

     このクソデカピーポポくんの着ぐるみ。やっぱり使い勝手が悪すぎると処分されることが決定し、明日の朝一で業者に回収してもらうために警察署の廊下に置かれていたところ、斎藤が発見してパーシヴァルに勧めたのだ。
     現役刑事たちが太鼓判を押す威圧感と恐怖は絶大であり、立て篭もり犯たちが恐怖を抱いて何が何だか理解できない内にスピード制圧できたのだった。ついでに、巻き込まれた客や店員たちも滅茶苦茶怖かった。クソデカピーポポくんが。

    「バーソロミュー。お怪我はありませんか?」
    「大丈夫。今度は、掠り傷一つないよ」
    「良かった……」
    「……ク、クソっ!」
    「っ!」
    「む、ガッツ持ちだったか」

     どうやらガッツ持ちだったらしい主犯格の男が、痛む身体で這いつくばりながら逃亡したのだ。
     パーシヴァルが飛び出そうとしたその刹那、よく通る声が船長の如く指示を叫んだ。

    「パーシヴァル! 入り口の動線を開けろ!」
    「っ! はッ!」
    「カルナ!」

     逃亡した主犯格の男を捉えられる一直線の動線が開かれる。バーソロミューはカルナに声をかけると同時に手にしたクソデカピーポポくんの頭部を放り投げると、カルナがそれを蹴り飛ばす。サッカーボールの如く蹴り飛ばされたクソデカピーポポくんの頭部は、強烈なシュートとなって一直線に突き進み、逃亡する主犯格の男の背中にクリーンヒットしたのだ。
     背中を強打した主犯格の男は見事にすっ転んだ。勢いをつけて顔面スライディングして辿り着いたその先で待ち構えていたのは、斎藤を始めとした刑事さんに機動隊の装備を着た隊員だったりと、完全武装の警察官たちだった。

    「はーい。話は取り調べ室で嫌っていうほど搾るから」
    「チクショーー!!」

     こうして、立て篭もり事件はスピード解決した。
     パーシヴァルはバーソロミューの三度目の食事はキャンセルとなり、犯人の逮捕に貢献したクソデカピーポポくんは頭部が衝撃で割れてしまい、殉職となったのだった。



     ***



     あれから――立て篭もり事件によって、パーシヴァルとバーソロミューの三度目の食事がキャンセルになってから、1週間が経った。あれ以来、パーシヴァルとは会っていない。
     やはり、勝手に乗り込んだのが警察内部でも問題になったようだ。大きなお咎めはなかったようだが、後始末で忙しくしていると、クッキーを買いに来た斎藤からちらりと聞いた。
     バーソロミューは本日最後のお客を見送り、時計を確認する。ラストオーダーの時間は過ぎていた。日曜日とは言え、もうお客は来ないと踏んで早めに閉店支度を始めていると、入り口のドアに大きな影が差し込んだ。

    「いらっしゃい。先週ぶり、パーシヴァル」
    「こんばんは。謝罪もできずに、こんな時間に……もう、ラストオーダーは過ぎてしまいましたよね」
    「ついさっきね。でも、プライベートなお茶はいかがかな。良い茶葉が手に入ってね、一杯、付き合ってくれないか」
    「喜んで」

    「カルナが大変ご迷惑をおかけしました」と、前髪が重めの褐色の美丈夫から差し出されたのは、王室御用達の高級茶葉だった。小さな個人経営の店では出すことは到底叶わない高級品である。
     お詫びの品を携えて来た白ランの美丈夫とカルナの関係性は不明だが、カルナが言っていた「年下の男」は、もしかしたら彼なのかもしれない。まあ、それは横に置いておいて。
     封を開けた茶葉を熱湯に泳がせて、香りに満たされるまで十分に蒸らす。蒸らしている間、カウンターを挟んだ2人の間に会話はなかった。てっきり、再度の食事の約束をしてくれるかと思ったが、パーシヴァルは口を開かない。
     結局、二杯の紅茶を淹れてそれぞれが半分以上を味わうまで、沈黙が続いてしまった。

    「うん。やはり香りが違う!」
    「本当だ。爽やかなマスカットフレーバーが、こんなにも芳しく」
    「良い貰い物をした」
    「……バーソロミュー」

     パーシヴァルがカップをソーサーに置いた。遂に口を開くか。
     先日の謝罪か、それとも次のお誘いか……彼の唇の動きを凝視しながら、バーソロミューは再び紅茶に口を付けた。

    「好きです。貴方を愛しています」
    「っ!? なっ……!」
    「本当は、先日の食事の席で告げるつもりでした。次の約束をして、またきちんとした場を設けようとも思いましたが、待てません」
    「えーと……」
    「年齢の差なんて些細なものです。刑事という私の仕事を断る理由とするならば、どんな手段を使っても貴方を守りましょう……いや、貴方は強く賢い人だ。私が守らずとも、逆に守られてしまうかもしれない。バーソロミューがどんな壁を作っても、私はそれを破壊してでも乗り越えます。一生、貴方を愛し続けます。この愚かな私と、一緒になってください。頷いてもらえるのなら……今夜、一緒に過ごしてくれませんか」

     まさか、色々すっ飛ばしてプロポーズ紛いの告白をされるとは予想すらしていなかった。
     嗚呼、駄目だ。と、バーソロミューの頬に紅が差す。ありとあらゆる返しを想定してシミュレーションしていたが、脳内のシナリオは全て吹っ飛んだ。
     今夜、パーシヴァルと一緒に過ごす……どこに連れて行かれるのか想像すると、胸の奥が甘酸っぱく絞めつけられた。それでも、微かに残った理性が拒み、断る理由を必死に探し出す。
     唯一、咄嗟に浮かんだ台詞を、やっと喉の奥から搾り出すことができた。

    「あ、明日も店があるから、今夜は……」
    「明日は月曜日です。月曜日は、定休日ですよね」

     とんでもない凡ミスだった。パーシヴァルが初めて来店したその日に、自分の口から定休日を教えていたではないか。
     もう打つ手はない。ああ、そうさ……降参だ。
     バーソロミューはカウンターから身を乗り出すと、パーシヴァルの首元のネクタイに掴みかかった。ちょっと強引に彼の頭をこちらに引き寄せれば、紅茶で潤った唇へ噛みつくようにキスをしてやったのだ。
     短いキスを終えて唇が離れると、今度はパーシヴァルからキスをする。大きな両手でバーソロミューの頬を包み、たどたどしくも、しっかりと唇に吸い付いてきた。

    「……どこに連れて行ってくれるんだい? 君の部屋が良いかな。それとも、私の部屋に来るかい」
    「貴方が望むなら、どこへでも」

     仕方がないのさ。パーシヴァルと出会って助けられたあの日から、バーソロミューのハートは彼に奪われたし、バーソロミューはパーシヴァルのハートを奪っていたのだから。
     本当に、恋のキューピッドとやらは良い仕事をするものである。
     その日は、閉店の19時を待たずに『ロイヤル・フォーチュン』の電気が消えた。
     そして、シロクマのキューピッドは背負っていた天使の羽を脱いだ。一方、海賊のキューピッドも取り付けられていた天使の両翼を海賊船から取り外した。彼らは戦友たちと言葉を交わすかのように「お疲れ」と手を振り合い、どこかへ帰って行く。
     競い合った両者の恋の戦いはドローで決着がついたのだった。
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    支部に前後編まとめたのを上げています↓
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26106991
    【後編】キューピッド合戦~あるいはクソデカピーポポくんの功罪 実を言うと、バーソロミューの元には頻繁にキューピッドが出張してきていた。理由はそう、メカクレに出会ったからだ。
     素敵なメカクレに出会えばキューピッドによってハートが射抜かれる。当然だ、メカクレなのだから……などというよく分からん理由でキューピッドに射抜かれ慣れている(?)はずだったが、彼――パーシヴァルに出会った瞬間は、何かが違った。
     矢じゃなくて槍で射抜かれたような衝撃だったとか、そういう違いではない。強いて言えば、心臓の鼓動の動きが違ったのだ。
     パーシヴァルからの賛辞の言葉を受けて、あの事件が起きた日の光景がフラッシュバックした。心臓は忙しなく跳ね続け、頬は熱を孕み手で顔を覆っても隠せないほど紅潮する。メカクレを前にした際の興奮で起きる動悸・息切れとは違う症状が出た……まさか、いや、そんな馬鹿な。
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