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    pa_rasite

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    pixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに

    #Bloodborne
    #シモルド
    simoldo

    過去ログ10ここは地獄だ。そう独り言ちたのは帰る家を何年も前に無くしたような襤褸を纏った一人の男だ。目元は古びた包帯に巻かれ塞がれているが、不思議と視界に問題はなく岩場をゆっくりと降っていく。降る途中、目についたのは青白い肌をした巨人だ。その巨体に釣り合いの取れた大砲のような銃を構えている。
    こちらに気がついていないのを幸いに、シモンは静かに弓を引いて狙いを定めた。毛髪のない巨人の頭だ。狙いを定める時間は短いにも関わらず、矢の切先は巨人の頭部を貫き脳漿をぶちまけた。巨人の命を刈り取ったのを見届ければ、またゴツゴツとした足場の悪い岩場を降る。
    鼻につく血腥さはべっとりと張り付き、吐き気を誘った。
    シモンは口と鼻を覆うように襟を立て、袖口で顔の半分を抑える。血の川が流れるのは一際目立つ、壮大な教会だった。地面を埋めつく夥しい量の血は教会から流れている。本来であれば救い手になる為の聖域だ。そこから穢らわしい血が溢れかえっているのだ。その悍ましさに身の毛がよだつのを堪え、慎重にその足を進めていった。べちゃりべちゃりと靴底を鳴らすのは血だけではない。砕けた肉片までもがへばり付いているのだ。
    その肉片の正体は、鉄臭く生臭い血の流れに犇めく亡者のものだろう。腕を無くした亡者が呻き、助けを求めるようにシモンへと上半身を向けた。身体中の皮が剥がれ、終わりのない激痛と絶望に苛まれる亡者が一人、悲鳴を上げながら死体の山を這っていく。それを横目にシモンは血の川を進んでいった。血の濃度が濃くなるほど、死体の数が増えるほどに、その匂いは強くなる。
    血の香りに塗り潰しきれない程の、濃い獣の香りだ。
    血の川は教会の中にまで続いている。血の濁流で押し開かれたままの扉をくぐり、包帯に覆われた視線を向けた。その先にあるのは死体の山だ。苦痛に呻き、叫び、啜り哭く地獄の狂宴だ。その饗宴を一際、目立つ咆哮が破る。
    甲高く尾を引く咆哮は獣のそれだ。狩人であれば、見過ごすわけにはいかない哀れな罹患者の成れの果て。
    死体の山を蹴散らしながら、着実に足を進めていく先にシモンの目的があった。
    かつての同胞。過去の英雄、ルドウイークの成れの果てだ。
    悪夢を訪れて間もない狩人の手によって切り落とされたのだろうか。断裂した首は痛々しく、血が溢れかえっている。苦痛を感じているのか、蕩けた瞳孔を持つ瞳は瞬きを繰り返していた。

    「これが、英雄の成れの果てか……」

    憐れみと侮蔑が入り混じった声が苦痛に満ちた聖堂に響いた。
    意味のない言葉を繰り返す、ルドウイークの頭部の脇に膝を立ててしゃがみこむ。哀れな姿だった。人の為、世の為と聖剣を振るった英雄が悪夢で一人、醜い獣と化し死ぬこともままならないとは。

    「……もう、何も聞こえないかい?英雄……。いいや、ルドウイーク」

    返事はなかった。獣の病に侵された瞳はシモンを捉えてはいない。
    彼が見つめるのは、遥かに高い天井だ。太陽か月かもわからぬ光が差す天井を重篤な肺の病に冒されたかのようにその呼気は荒く、引き攣れている。自身の境遇を自嘲しているようにも、啜り泣いているようにも聞こえるその声はあまりにも痛々しい。
    憐憫さを誘う無力な泣き声だった。

    「やめてくれ……」

    壊れた笛のようにひゅうひゅうと空気が抜けるような啜り泣きなど、耳にして心地よいものではない。ましてや、かつての同胞。ヤーナムの英雄の痛みを帯びた悲しい叫びなど。

    「やめてくれよ……。なあ、頼む。聞くに耐えられないんだ……」

    耳を塞いでもその声は指の間を割って潜り込み、シモンの聴覚を甚振った。最もシモンの声を聞き届けることができないルドウイークにその意思はなかったが。ただただ、救いのない自身の運命に正気を失った啜り泣きだけが歪んだ口から力なく溢れるだけ。

    「ルドウイーク……」

    彼が正気を失った理由は分かる。彼が導きだと語った、青い月光の大剣が彼を狂わせたのだと理解していた。
    あれは導きでも啓示でもない。あれは……、人間の理解の及ばない遥か上位に位置する何かの戯れだと、シモンはルドウイークへと忠告をしたことがあった。それはルドウイークが病を患ってすぐのことだった。
    英雄でありながら獣の病に冒され、自分も狩られるべき獣に成り代わる。そんな皮肉な最期を迎えるだろう、ルドウイークを支えるように月の光は彼を照らしたのだ。彼の愛剣に取り憑いて。彼を欺くために。
    月光の導きの中でルドウイークの正気は果てた。そして、今、ここにいるのは死ぬこともできない無様で醜い獣だけだ。そんな哀れな獣の首を、真横に突き立てられた青い大剣が照らし出す。

    「すまなかった……」

    薄々、彼も月光が何者か気がついていた筈だ。
    そうでなければ、こうも妄信的に月光に執着することもなかった。彼は弱かったのだ。いいや、そうなるまでに心を消耗していたのだろう。
    英雄であり続けるための重圧、続いた不治の病に浸け込んだのは医療教会だ。誰もルドウイークを止めはしなかった。それどころか、彼に発破をかけ獣狩りへと向かわせた。ルドウイークの善意と責任感に付け込み、重圧だけを背負わせたのだ。それを見ておきながら、何もできなかった無力感にうな垂れた。
    偽善者。誰に対した言葉ではない。自分へ向けた言葉だった。
    ルドウイークなら、英雄である彼ならばきっと耐えられるだろうと図らずも考えていた結果がこれだ。
    ならば、偽善者らしいことを報いてやる他、シモンには道は残されていない。
    獣に悟られぬよう、静かに素早く弓を引くことをまずシモンは覚えた。
    そして今、ルドウイークを前に弓を引くこの瞬間もそうだった。張り詰めた銀の糸に月光の青い光が反射する。目も眩むような美しい……、けれど、あまりにも欺瞞に満ちた蠱惑的な光だ。

    「……ああ、シモン……かね?」

    どうして今になって自分を見留めるのか。
    そうも歪んで蕩けた獣の瞳で、何故。と叫び出したいのを堪え、シモンは弓を射った。
    射った一矢はルドウイークの瞳へと突き刺さる。砕けた巨大な角膜からどろりと粘ついた水晶体が溢れる。白濁したそれは彼の妄執を物語るように粘着質だった。シモンの放った一矢は脳まで貫いたことだろう。何せ、この至近距離だ。
    その瞳はもう光を捉えることはない。彼を導いた月光も。彼の人生を物語るような死体と血に満ちたこの場所も。

    「やはり、君か……。シモン……」

    視界を奪われた痛みは相当なものに違いない。だがルドウイークは痛みに悲鳴さえもあげなかった。最早事切れる間際なのだろうか。ビクリと首の筋肉が痙攣し、小刻みに震える。

    「俺だよ……」

    断末魔の痙攣を前にシモンが答えた。
    痛々しい生命の蠢きに、吐き気を覚え顔を抑える。
    そんな彼の仕草も見ることが叶わないルドウイークはなおも言葉を続けた。

    「……君の手を穢してすまない。だが……、ありがとう」

    涙のように流れる水晶体の動きが止まった。足元を流れる血の川も勢いを失う。
    事切れたのだ。医療教会の英雄は。今、まさに。
    たった一人の狩人の一矢によって死んだのだ。
    ああ、ああ……と震えた声が知らずに口から溢れていた。心をかき乱すその感情が何であるかは分からない。戦友であり英雄を殺した罪悪感か、それとも彼を穏やかに送ってやれたことへの安堵か。まさか、獣を狩った狩人の喜びではあるまい。だが、どの感情に支配されているのか分からない程、シモンは掻き乱されていた。
    事切れたルドウイークの頭部からふわりと何かが舞い上がった。それは綿毛のように軽やかで、蝶のように宙で踊る。
    それは糸のように細く、青く気高く輝いていた。シモンにもその青い輝きには見覚えがある。

    「導き……、か。皮肉なものだ」

    月光の輝きの中、小さなカレル文字が踊る。
    ルドウイークの最期を嘲るようにも、餞をするようにも捉えられる動きで宙を舞った。

    「あんた……。本当に、導きは……見えたのかい?」

    シモンの問いかけにルドウイークは答えることはない。
    終わらない悪夢が一つ幕を下ろしただけ。達成感もなく、ただ痛みと失望を伴うだけの幕引きに相応しい血の香りの中、カレル文字が舞っていた。
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    pa_rasite

    DONEブラボ8周年おめでとう文
    誰かが見る夢の話また同じ夢を見た。軋む床は多量の血を吸って腐り始めている。一歩と歩みを進める度、大袈裟なほどに靴底が沈んだこの感触は狩人にとって馴染みのものだった。獣の唸り声、腐った肉、酸化した血、それより体に馴染んだものがあった。

    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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    こちらに気がついていないのを幸いに、シモンは静かに弓を引いて狙いを定めた。毛髪のない巨人の頭だ。狙いを定める時間は短いにも関わらず、矢の切先は巨人の頭部を貫き脳漿をぶちまけた。巨人の命を刈り取ったのを見届ければ、またゴツゴツとした足場の悪い岩場を降る。
    鼻につく血腥さはべっとりと張り付き、吐き気を誘った。
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