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    pa_rasite

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    pa_rasite

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    クレタス誕生日おめでとうね
    生まれてこなければ死なずに済んだ人も大勢いたけれど

    #カーネイジ
    carnage
    #クレタス・キャサディ
    cletusCassady.
    #ヴェノム(エディ)
    venom

    バタークリームで彩られたバースデーケーキが床に落ちて、無惨に砕けていた。カラフルなチョコチップやチョコスプレーがクリームと共に散って、ひどく甘ったるい匂いが一室に充満していた。割れた風船。散り散りになった紙吹雪。全てが煩わしくクレタスの気分を害していた。そのベタつく香りを上塗りするかのように感じるのは鉄っぽい生臭さだった。赤、ピンク、青、黄、緑とクレヨンの箱を開けたようなカラフルなケーキの残骸に、ねっとりとした血が流れていく。
    小さな薄い掌で握ったナイフは不釣り合いな程に大きく、柄に指が回りきらない。血と脂で滑るそれはうっかりすると手から滑り落ちてしまいそうだった。幾分と低くなった己の視界より更に下に位置する、今し方ナイフで鳩尾を刺した相手を見下ろした。男か、女かさえも分からないほどにその存在は不明瞭だった。ぼんやりとした影にしか見えないそれの肉を切り開き、内臓を刺し貫く感触はしっかりと感じていたのに、その相手が誰であるかも分からない。
    素足がひたりと足音を立てて、疼くまる相手に近づいた。ナイフを掴んだままの手で相手の髪の毛を掴み、顔を持ち上げる。常に心にある残忍な欲に駆られての行動だった。
    そして、これがベッドの中で見る夢だと確信した。掴んだ指に絡みつく短いブロンド。視線が絡んだ青い瞳。苦痛に歪み、汗を滲ませているが無骨な顔立ちをしている。その顔立ちに見合うだけの筋肉に包まれた、大柄な肉体。全てが鮮明となってクレタスへと情報として流れ込む。流れる鮮血は黒く染まり、目前の男の肌を染めるように包んでいった。ただでさえ巨躯である体は黒い寄生体に包み込まれより大きく見えるかのようだった。猛禽類のような爪が並ぶ黒い手がクレタスの首へと伸びる。

    「ぐ……っ」

    夢であると理解しながら、気道を押し潰されて息が詰まる。幼い子供の背丈ではまともな抵抗さえできず、容易く両足は宙へと浮いた。握ったままのナイフで首を掴む腕を突き刺したが、まるで鋼だ。ナイフの切先さえまともに刺さりはしなかった。酸素を失い、肺が潰れそうな苦しみに喘ぎ、両足をばたつかせるが相手の胴を蹴り付けるにも及ばなかった。無情にもゆっくりと握り込まれていく掌の感触に頸椎が軋む。酸素を取り入れようと大きく開いた口のせいで、顎関節までもがギシギシと不穏な音を立てていた。

    「エ、……ディ……」

    表情の読めない黒い寄生体のスーツに身を包む男の名前を呼んだ。声変わりをしていない幼い声は掻き消されそうなほどに弱々しく掠れている。だが、その声に反し怒りと憎悪は胸中に激しく犇き、苦悶と共に顔が歪む。何もできない無力さを思い知らされてひどく不快だった。
    鋭い牙の並ぶ口が動き、蛭のような肉厚な舌が覗いた。行き場を失った血液が引き起こす耳鳴りで外部の音を聞くことはできない。だが、ヴェノムが何を口にしたのかだけは口の動きだけで十分だった。
    聞かずとも、何度も、耳にしてきた言葉。クレタスを、カーネイジの誕生を恨み、悔やみ、呪うばかりのものだ。

    「テメエも、っ……だろ……」

    ディランという我が子を成しまともな父親にでもなったつもりかと、嘲笑おうかと口元を歪めるが視界が徐々に薄暗くなっていく。何人もの人間を死に追いやり、楽しんできた。そして死ぬのも初めてではない。それ故に理解する死への近さに頭の中が静かになっていく。混沌とした邪悪さが、潮が引くように音を失っていった。そのことが無性に神経を逆撫でた。夢の中であっても、死の感覚は変わりようもないということに。
    軋んだ頚椎が限界を迎えたのか。ゴキ、と枯れ枝を踏み折ったような音が体の内に響いた。喉の奥が詰まり、鈍い痛みが全身を駆け巡っていく。意志で抑えきれない痙攣に体を震わせていれば、ぐるりと視界が回っていった。これで目的は達したとでもいうのか、依然として緩められなかったヴェノムの掌が首から離れ、重力に従いクレタスの小さな体が地面に落とされた。
    うつ伏せに倒れ込み、酸欠で充血した瞳で目と鼻の先にあるケーキを見る。霞む視界で読むHappy Birthdayの文字の白々しさに胃が痙攣するほどの怒りを感じた。だというのに、虚に光を失いゆく瞳から涙が流れた。

    朝日を心地よいと感じた記憶はあまりなかった。悪夢を見た今日こそはと思っても、そんな日は決して訪れはしない。
    清潔な白い朝日も、聞こえる人間の営みも、小鳥の鳴き声も、全てを切り刻んで血で塗り潰したいと思うばかりだった。夢見の悪さにふらつく頭を抱え込みながら上半身を起き上らせれば溜息を一つ。額を手で抑えれば汗で指が濡れた。

    「クレタス」

    「……なんだ」

    名前を呼ぶのはクレタスの中に巣食う寄生体だ。愛しい相棒の呼び声さえ、今は鬱陶しく再びベッドへと体を横たえる。幸いなことにここは刑務所の独房ではない。空き家になった郊外の一軒家だ。空き家になる以前は仲睦まじい夫婦が住んでいたが、それを殺して空き家にしてやったのはカーネイジ他ならない。脱獄して身を潜ませている窮屈な状況に違いはないが、誰が来ようと首を落としてやればいいと悠然に構えながら、流れる血を眺めるかのように掌を目の前に翳した。

    「……お前が生まれてきてくれたことを喜ばしいと思っているよ」

    寄生体に隠し事はできない。思考も心境も全てを把握されるだろうことは理解していたが、まさか夢の中まで筒抜けだとは思いもよらず舌打ちを響かせた。

    「そりゃありがてえ話だな……」

    寄り添おうとしてくれている寄生体に愛しさを感じる気持ちはあれど、あんな夢を見たばかりだ。今に限ってはただ神経がささくれ立つばかりで、苛立ちを隠そうともせず拳をマットレスに打ち付けた。
    父親に愛されたいと思うようなまともな感性を持って生まれた訳ではないだろう。幼い頃から殺意と暴力に取り憑かれていた自覚はある。だからこそ、感傷めいた夢を見たこと。それがただ不快で仕方がなかった。そして夢に見た父親の姿がヴェノムであったことが。自分自身が何もし得ない、幼い子供の姿であったことが。

    「クソがよ……」

    ベッドの脇の窓は開け放たれている。春の陽気を纏った柔らかな風がカーテンをふわりと持ち上げ、青い空が覗いて見えた。何者にも染まっていない一日が己の誕生日であることに、理解し難い怒りを募らせるばかりだった。
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    Replies from the creator

    pa_rasite

    DONEブラボ8周年おめでとう文
    誰かが見る夢の話また同じ夢を見た。軋む床は多量の血を吸って腐り始めている。一歩と歩みを進める度、大袈裟なほどに靴底が沈んだこの感触は狩人にとって馴染みのものだった。獣の唸り声、腐った肉、酸化した血、それより体に馴染んだものがあった。

    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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    pa_rasite

    DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに
    過去ログ10ここは地獄だ。そう独り言ちたのは帰る家を何年も前に無くしたような襤褸を纏った一人の男だ。目元は古びた包帯に巻かれ塞がれているが、不思議と視界に問題はなく岩場をゆっくりと降っていく。降る途中、目についたのは青白い肌をした巨人だ。その巨体に釣り合いの取れた大砲のような銃を構えている。
    こちらに気がついていないのを幸いに、シモンは静かに弓を引いて狙いを定めた。毛髪のない巨人の頭だ。狙いを定める時間は短いにも関わらず、矢の切先は巨人の頭部を貫き脳漿をぶちまけた。巨人の命を刈り取ったのを見届ければ、またゴツゴツとした足場の悪い岩場を降る。
    鼻につく血腥さはべっとりと張り付き、吐き気を誘った。
    シモンは口と鼻を覆うように襟を立て、袖口で顔の半分を抑える。血の川が流れるのは一際目立つ、壮大な教会だった。地面を埋めつく夥しい量の血は教会から流れている。本来であれば救い手になる為の聖域だ。そこから穢らわしい血が溢れかえっているのだ。その悍ましさに身の毛がよだつのを堪え、慎重にその足を進めていった。べちゃりべちゃりと靴底を鳴らすのは血だけではない。砕けた肉片までもがへばり付いているのだ。
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