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    #ジョジョ5部
    jojoPart5

    過去ログ23「自分のスタンドに自我を感じたことはあるか?」

    何も唐突に聞いたわけではない。何せイタリアでは多くのことがありすぎた。承太郎と連絡を取ることも叶わなかったその期間だけでも。少なくともその期間の間にポルナレフは肉体を失っていた。こうして亀の体を介して会話ができるのは幸いなことだろう。さらに亀のスタンド能力によって設けられた室内空間も失われていない。本体の死後にスタンド能力を残した強敵もいたとジョルノから伺ったが、そういう類のものがいるのであればおかしい話ではないのかもしれない。ありがたいことに亀の内部は大の男が二人足を伸ばしても窮屈さを感じることもない。皮肉にもポルナレフの両足は癒えることはなく義足のままだったが。

    「スタープラチナに感じたことはねえな」

    「ま、だろうとは思ったぜ」

    かつての戦友が死んだと思ったら亀になっていた。それを知りイタリアまではるばる向かってきたのだろうが、その事実を目の当たりにしても承太郎の表情は変わることはなかった。亀の内部に入れるんだぜと教えても怪訝そうな表情さえも浮かべず入ってきたあたり、彼は何一つ変わっていない。結婚して娘までできたと聞いたポルナレフの方が驚いたくらいだった。しかし亀の中のどこに電気が通っているのか。ご丁寧に電源コードが刺さる冷蔵庫から承太郎の分の飲み物を取り出そうと背中を丸めたが、やはり両足が動かないというのは不便だ。足だけではない。腰から下はマネキンを取り付けられたように何も感じない。痛みも感じない寒さも暑さも。
    伸ばした指が瓶を掴み損ねる。光を失った右目のせいで集中しなければ距離感も掴みにくいのだ。忌々しい怪我の後遺症は肉体を失っても逃れられないものかと微かな苛立ちが募る。

    「ジジイにでもなった気分だぜ。全くよぉ……」

    苛立ちのままにぼやきが出るのも久々な気がした。それほどに今まで常に気を張っていただろうか。イタリアで、一人で。

    「こっちのジジイも多少ガタが来ちゃいるがお前程じゃあねえな」

    「なんだとぉ〜……。テメー、あと20年後に同じこと言ってやろうか。俺はもう歳を取らねえからな。これからが楽しみだぜ」

    承太郎の親しみを含む暴言に噛みつきながらテーブルの上にコーラの瓶を置いてやる。同志にしか分からない穏やかな空気に知らず知らず10年前に戻ったような心地を覚えた。だが、心ばかりは癒されても肉体は戻らない。そしてレクイエムとなって姿を消したポルナレフのスタンドもだ。レクイエムとして滅んだ以上は当然だろうが、あれ以降シルバー・チャリオッツはどれほど念じようとも現わせることはできなくなっていた。
    ポルナレフが抱える肉体を失った以上の喪失感はそれに尽きるだろう。生まれてこの方、ずっと傍にいた相棒がいないのだ。そのことは承太郎には伝えている。ポルナレフが抱えた喪失感には気づいているだろう。しかし承太郎は慰めなかった。傷を舐めるような甘っちょろいことをしないでくれるのが彼なりの労りだと知っているからこそ、今はその沈黙が暖かかった。
    承太郎が瓶の栓を抜けば、パチパチと弾ける炭酸の音が静かな室内に響く。結露が伝い落ちるほどに冷えたそれを傾ける中、ポルナレフに視線を送る。お前は?と。だが肉体を失った身で何かを口にできることはできなかった。首を小さく横に振れば、流石に居た堪れなさそうに承太郎が視線を伏せた。そして不意に承太郎が口を開いた。

    「……悪いが、さっきの質問の答えは撤回するぜ」

    「なんだって?」

    スタンドの自我の件だ。ミスタやトリッシュのスタンドを目の当たりにしても、承太郎の口から康一と呼ばれる少年の話を聞いてもどこかポルナレフには他人事でしかなかった。そしてスタープラチナは承太郎によって完全に制御され、そこに自我があるように感じたことはない。その承太郎が撤回すると口にしたのだ。心臓があったとしても動きを止めているはずだ。なのに嫌な脈拍を胸から感じた。足が動かないのであればこんな胸の圧迫感も感じなければいいのにと切に思った。

    「それこそ、スタープラチナが発現してすぐのことだ。チョロチョロとネズミみてえに動き回ってたぜ」

    ポルナレフにも身に覚えがあった。自分が5歳に満たないかくらいの頃だっただろう。自分の精神が育ち切っていないうちはシルバー・チャリオッツも何か鳴き声らしきものを発していたような記憶もうっすら残っている。あれを確かに自我と呼ぶのであればあったのだろう。
    そして、彼は死の直前のポルナレフに矢で貫かれたことをどう思っただろうか。考えないように努めていたが、もう逃げるべきではないような気がした。肺に溜まった重たい鉛は溜息を零しても消えない。

    「アイツに悪いことしちまったなあ……」

    大事なときに行動を起こせば必ず後悔が付き纏う。承太郎らとエジブトを目指したときから自分の浅はかさは全く変わっていない。自己嫌悪のままに右手で額を抑える。この発言をポルナレフがどう受け止めるかは想定していたのだろうか。承太郎の表情は涼しげだ。静かに瓶を机に置けば、緑がかった澄んだ瞳を真っ直ぐ向けた。だが、やはり決して慰めるような言葉は投げかけない。

    「あんなに偉そうに騎士道とか言っていたが、俺は……背後から矢を刺したんだ」

    懺悔のような言葉を続けるポルナレフの言葉に静かに耳を傾ける。先を急かさぬ沈黙だった。今はそれに甘え、胸のうちに留まる重たい鉛が溶解していくままに言葉を続ける。

    「……俺は最後の最後で裏切った」

    自分の半身でもあるポルナレフに刺されたシルバー・チャリオッツは裏切られたと感じただろうか。背後から刺されたのが自分であればその衝撃は計り知れない。怒るだろうか。それとも悲しむだろうか。それさえも分からないほど、ポルナレフはシルバー・チャリオッツを信頼していた。ポルナレフだって望んで刺した訳ではないが、刺されてこの世から姿を消した身からすればいい訳でしかないだろう。膝の上で拳を握る。小さく震えるのは久々に弱音を吐いたことだけが理由ではない。どこか恐れていた。自分の短絡的な行動が招いたことを懺悔することも。
    決して不快ではない重い沈黙が続く。空調の音も響かぬ室内に炭酸が弾ける軽やかな音だけが聞こえる。先に沈黙を破ったのは承太郎だった。

    「俺はスタープラチナの手で心臓を止めたことがある」

    なに?と反射で聞き返しかけたがそれを呑み込む。その真意を探れば腑に落ちた。スタープラチナの手で心臓を止めた。ポルナレフからすれば状況が全く分からないが、承太郎は承太郎で自殺めいた行動の片棒を担がせかけたことがあると言いたいのだろう。少ない言葉の中で傷に寄り添うものを感じれば、強張った表情がゆるりと解けた。こんなに慰め下手で、言葉不足で、どう家族と接しているのだろうかと。少なくとも娘が思春期を迎えたときに苦労するだろう。そのことを考えれば、込み上げる笑いを堪えることができず口元を手で覆った。あの鉄仮面のような表情が困惑を浮かべる日が来るのかと思えば。

    「慰めありがとうよ。だが、承太郎。 お前、絶対娘の育て方に苦労するぜ」

    女の子は小さなことでも気づいて声かけないとなんて続ければ、流石の承太郎も思い当たる節があったのかポルナレフの車椅子を軽く蹴った。

    「死んでなおやかましい男だな」

    「なんだぁ?惚れ直したか。だが妻子持ちはご免だね」

    再び車椅子の車輪が蹴られる。今度は車体が浮き上がるほどに強い力だった。こんな冗談まじりのやり取りも久しく感じる。エジプトまでの移動は二ヶ月にも満たなかったのに、こうも事あるごとに久しく恋しく感じてしまう。死の間際に思い出すほどに。だが、あの顔ぶれが揃うことは二度とない。あちら側に逝き損なったと感じるのも、未だ痛む喪失感のせいだろうか。
    油断すれば頭の中を霧のように満たす物憂げな感情に身を預け、車椅子の背を預けた。ぎしりと鳴る音も背中に伝わる軋みも生身だった頃と全く変わらない。
    たわいも無い話をしていれば時間はすぐに経っていく。この部屋には時計はない。正確な時間の経過は分からなかったが、すっかり瓶は温くなり結露も乾き始めている。時間さえ許せばこのままダラダラと過去話でもなんでも花を咲かせていたかったがそれも叶わない。時は平等に過ぎているのだ。

    「ポルナレフ。聞こうと思ってたんだが、イタリアに残るのか?」

    ポルナレフはそのつもりだった。実際、この体だ。戻る家はあるかもしれないが以前と同じように暮らすわけにもいかないだろう。
    家族と暮らした故郷を離れるのに抵抗がない訳ではないが、イタリアで地縛霊になったと諦めるしかないだろう。流石に感じる苦々しい思いから小さく頷いた。おおよそ承太郎は共に来ないかと言うつもりなのだろう。カイロの空港で別れたときのように。そして予想通り、そう問いかけた。既に答えを知っているような低い落ち着いた声で。あの時と同じように共に帰りたいのは山々だった。だが、できない。

    「一緒にいたら死に際を見せることになるだろうからな」

    だから敢えて口にした。今は姿を残すが、いずれ消える残留思念でしかないのだ。花京院も、アヴドゥルも、イギーも、二人は失っていた。だからこそ、ポルナレフは承太郎の前で死ぬことだけは避けたい。その一心だ。お互い失うことを知り過ぎてしまった。
    そして、半身を無くした喪失感を抱えた今、ポルナレフはそれ以上の答えは用意できない。だがその答えに納得したように、大きく静かに頷けば寂しげに溜息を吐いた。承太郎ももう学生ではない。忙しい時間を縫ってイタリアに来てくれたのだ。生きていても別れ際は寂しさを感じる。

    「おい、ポルナレフ」

    「……お?」

    承太郎が立ち上がればその巨躯に圧迫感を感じる。その太い腕を左右に広げれば余計に。

    「日本人はシャイだって言ってたじゃあねえか」

    「やかましいぞ」

    車椅子から立ち上がれないポルナレフのために背をかがめてハグだった。ぎこちなさが目立つし、背中に回す腕も乱雑だ。照れ隠しも含んでいるのだろう。ポルナレフが抱き返す前に腕に力が込められる。その力強さに息が詰まりかねないほどだったが、やはり暖かい。ひとときでも喪失感を忘れられるほどに。友愛を込め、承太郎の背中に腕を回す。がっしりとした背中を軽い力で叩いてやればそれを合図に承太郎の体が離れた。

    「負い目を感じて生きるなよ」

    初めて慰めらしい慰めの言葉をかけられた。しかしポルナレフは未来がないに等しい死人だ。
    欠けた指の目立つ右手をひら、と振れば

    「娘さんにもその調子で接してやりなよ」

    無粋なことは突っ込まない。それも友情の一つの形だ。

    「お前は長生きしろよ。承太郎」

    承太郎の姿が亀の内部から窺うこともできなくなった頃、その右手を膝の上に下ろした。
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    pa_rasite

    DONEブラボ8周年おめでとう文
    誰かが見る夢の話また同じ夢を見た。軋む床は多量の血を吸って腐り始めている。一歩と歩みを進める度、大袈裟なほどに靴底が沈んだこの感触は狩人にとって馴染みのものだった。獣の唸り声、腐った肉、酸化した血、それより体に馴染んだものがあった。

    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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