花見で一服陽が沈む前は鮮やかだった空が少しずつ色を失っていく。
その過程を見るともなしに空を見上げていると、今が盛りの桜が目に入る。
視界いっぱいを埋め尽くすそれらはまるで星のようで、時折ひらひらと去り行く様が空からこぼれる流れ星みたいだなあと思う。ひとひら、またひとひらとぼんやり見送りながら、煙をひとくさり吐き出した。
桜は本丸の中にあちこちあるけど、私はこの場所が好きだ。
本丸の外れ、居住棟から離れた本丸の端っこに、前任者の趣味なのか、簡素な茶室を備えた小さな小屋が建っている。
通称「西の屋」のあるこの一帯は、野点でもするつもりで切り拓いたのかちょっとした公園くらいの広場になっていて、そこを覆うかのように樹齢半世紀は過ぎていそうな高くて太い桜の老木が枝を広げているのだ。
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