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    おたぬ

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    おたぬ

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    壊れていても(オメガバ🍁❄)

    ⚠️注意⚠️
    ・嘔吐
    ・独自設定

    この世界には性別の他に第2の性というものがある。支配階級のα、平凡な中間層のβ、被支配階級にして最下層のΩ。この3つである。これらが発現するのは主に10代。早い者もおり個人差はあるが、俺に関して言えば、親の意向によりまだ10にも満たない歳の頃に専門機関にて診断を受けた。

    「青柳さん、ご子息ですが……Ωでした」
    「そうですか……」

    実に残念そうに、申し訳なさそうに医師が告げる。その後の父との会話は幼い俺にはよく理解はできなかったが、ただ、自分が父の期待に添えられるような存在ではなかったのだと、それだけは理解できた。

    「お前にヒートを起こしている暇はない。わかるな?」
    「はい」

    父はまず俺にそう言った。たとえΩであっても青柳家の人間として恥ずかしくない演奏をお前はしなければならない。そのためにはΩの本能など不要である、と。

    「冬弥、今日からこれを毎日飲みなさい。お前のΩを抑える薬だ」
    「はい」

    手渡されたのは、小さな錠剤。父の言葉が絶対であった当時の俺はそれを何の疑いもなく受け取り、言い付け通りに毎日欠かさず飲み下した。

    その薬が、俺と彼との幸せを壊すものであるとは知らずに。

    そして時は進み、現在。

    『私、子供ができたの』

    彰人と2人で暮らす自宅のリビングに設置されたテレビの中で、Ω役の女優がそう言って幸せそうに笑い、α役の女優がΩを抱き締めている。よくあるラブロマンスのよくあるワンシーン。運命をテーマにした映画だ。なのに、どうしてこんなにも羨ましく感じるのだろうか。

    彼女が運命に出会えたから?
    彼女がαに愛されているから?
    違う。俺だって運命と思えるαに出会って十分すぎるほど愛されている。だから違う。

    (……彼女が、Ωとして役目を果たしているからだ)

    発情期を迎え、番のαと交わり、子を孕む。Ωならば誰しもが当たり前にできるそれらを、画面の中の彼女がやって見せたからだ。

    (俺も、本当なら……)

    できるはずだった。やれると信じていた。家を出て、父と縁を切れば、彰人と自由に愛を育めると。いつかは彼の子供をこの腹に宿せると。だが、現実は違っていた。どれだけ時を重ねようと俺の体に発情期は訪れず、来るのはヒートの残り香としてのホルモンバランスの乱れによる吐き気と、煩わしい頭痛のみ。未成熟なうちから服用し続けた強力な薬により俺の体は、もうまともに機能してはいなかった。

    今から薬を断ったとしても、Ωとしての機能が元に戻るかはわからない。それが主治医の見解である。

    (……………どうして)

    何も、特別なことを望んたわけではなかった。ただ愛する人と普通に愛し合いたかっただけだ。なのに、それすら俺にはできない。それを彼に言うと、子供を産むのがすべてじゃない、と、Ωじゃなく冬弥が好きなんだ、と彰人は抱き締めてくれるけれど、それでもとんだ欠陥品を掴ませてしまったようで申し訳がなかった。

    「………ぅっ、……ぐっ……」

    映画を流し見ながら思考の海を漂っていると吐き気が強くなり、胃液がせり上がってくる。俺は身を預けていたソファから立ち上がってフラフラと廊下を壁伝いに歩き、トイレの扉を開けた。

    「…………ぉえ、けほっ……」

    倒れるように便座にしがみつき、口を開けてすべてを吐き出そうとするが、どうしてか何も出てこない。しかし吐き気だけは増していき、生理的な涙で視界は歪んでいく。先ほどまであんなにも吐き出しそうだったのに。

    「なっ……んで……」

    吐いて楽になりたいのに、上手く吐けない。終わりの見えない気持ちの悪さに、生理現象とは違う何かが瞳から零れそうになった。何度も何度も吐こうとするが、体力が減るばかりでやはり、何も出ない。

    「冬弥!?」
    「……っ、……ぅ、おぇ……っ、あき、と?」

    閉める余裕もなく開けっ放しにしていたトイレのドアから入ってきたのは、彰人だった。彼は俺の傍らにしゃがみ込むと、壊れ物に触れるような優しい手つきで俺の背中を摩ってくれる。

    「どうした、上手く吐けないのか?」

    その言葉に俺は意識が朦朧とし始める中、こくりと頷いた。



    天気の良い昼下がり。本心を言えば断りたかった雑誌のインタビューを愛想良く笑って乗り切り、誘われた食事をすべて断ってトンボ帰りした自宅のトイレのドアが半端に開いているのを見た時、心臓が止まるかと思った。狭い個室の中で蹲り、上手く吐けずに苦しんでいる彼の口に指を突き入れて、無理やり吐かせてやる。これをやるのも、もう何度目だろうか。

    今日は食欲がなかったのか、胃液だけを何度も吐き出した冬弥は乱れた息を嗚咽でさらに乱しながら、うわ言のようにそれを繰り返す。

    「………ごめ……なさ……、ごめん、なさい……あきと」

    お前は何も悪くない。謝る必要などどこにもない。そう言ってやりたいが、そんな安い言葉では彼の心は救えない。それがわかっているから、オレは彼の心が少しでも軽くなればと項を甘噛みした。

    オレは冬弥に出会った頃、彼のことをβ、ないしはオレと同じαであると思っていた。そう見えてしまうほどに、冬弥にはΩ特有のフェロモンがなかったのだ。

    「薬を飲んでいるから、俺はヒートなど起こしたりはしない。迷惑などかけないから、安心してくれ」

    そう言った昔の冬弥に、もしも「その薬は飲むな」と言っていたら何か変わったのだろうか。彼は泣かずにすんだのだろうか。今さらそんなこと、考えたところでどうしようもないとはわかってはいる。けれど、知り合いのΩが妊娠するたび、子供が産まれたとハガキが届くたびに、怯える目でこちらを見てくる彼を見ているとどうしても考えてしまうのだ。

    頼まれたってもう離してなんてやれないというのに、ただ発情期が訪れず、子供が作れないというだけで冬弥はオレに捨てられる可能性に怯え続けている。

    どうしたら、オレは冬弥を救えるのだろう。
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