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    おたぬ

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    おたぬ

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    貧乳低身長❄♀が不安になる話

    私は自分の体に不満を持ったことはなかった。今でこそ他の同年代の女子と比べれば背が低いことを知り、人混みの中に行けば流されてしまうこともままあったが、それでも、外に出ることも人と交流することも許されずに生きてきた私は、自分の発育状態を気にしたことはなかった。人より低い身長も、薄っぺらいばかりで凹凸の少ない肉体も、歌う上で欠点ではなかったし、女性的な魅力なんて私には不要だと、そう考えていたのだ。

    彰人に告白されるまでは。

    生まれて初めて人と喧嘩をしたすぐ後だったと思う。一度は辞めようとした歌をまた彰人の隣で歌える喜びを噛み締めて、練習に励んだある日のことだ。もう遅いから帰ろうと簡単に荷物をまとめた私の手を掴んで、彰人がポツリと零す。

    「好きだ」

    いつも言いたいことははっきりと言うのに、そう言った彰人は俯いていて、その表情は読み取れない。声も、「好き」と言っている割には震えて、何かを怖がっているような、そんな印象を受けた。だから……。

    「……何をだ?」

    唐突に言われたそれがどういう意味なのかをわかりかねた私は、思わず首を傾げてそう返したのだが、彰人はおそらく途轍もない覚悟を決めてその言葉を言ってくれたのだろう。今ならそうとわかる。しかし、その時の私は本気で彰人の意図が読めず、私の返答に悔しそうに唇を噛む彰人を見守ることしかできなかった。

    目をあちこちに泳がせた彼は数度深呼吸をして、今度は私を真っ直ぐに見つめ、言う。

    「お前が好きなんだ、冬弥……だから……」

    歌にどこまでも真摯な彼のとても真剣な声は、決して聞き慣れないものではないけれど、でも、その時の彼のそれは歌について話しているのとはまた違った音色をしていて、不思議と胸が高鳴ったのを今でも鮮明に覚えている。と、この話は今回とはあまり関係がないのでこれ以上は割愛するが、こうして、私達は互いの関係を表す肩書きに相棒の他に恋人を追加した。

    生まれて初めての本気の恋愛。
    生まれて初めての男性との交際。

    何もかもが初めてで右も左もわからない私は、彰人に教えてもらいながらデートをしたり、手を繋いだり、キスをしたりと、順番に恋人らしいことを重ねていった。その交際の仕方が世間から見てどうなのかは比較対象が身近にいない私に判断はできないが、そんなことが気にならないくらいには彼の愛をヒシヒシと私は感じていた。

    人に愛されることの喜びと、人を愛することの幸せ。
    それに私は夢中になって、だからこそ失念していた。愛を勝ち取るにはそれ相応の資格と能力が必要だということに。

    彰人はとても器用である。要領がいいからある程度のことは簡単にできてしまうし、ずっとサッカーをしていたというだけあって運動も得意だ。そして、それに付け加えて見た目だってカッコよく、身嗜みにも気を使っており、身につけるものも、衣装も、親の言いなりになっていた私と違って自分で自分に合う服をササッと選んで着こなしてしまう。

    だから何を言いたいのか?
    ……彰人はとてもモテるのだ。

    この前も一緒に帰ろうと彰人のクラスに行ったら、彼に「用があるから少しだけ待っててくれ」と言われて待っていたところ、「また東雲が告白されていた」という風の噂が聞こえてきた。彰人を好きになる人は多い。それはそうだろう。彼は魅力に溢れた人だから。

    ……それに比べて私は……?

    私は、どうなのだろうか。
    私は女として、彰人に見合っているのだろうか。



    授業開始のチャイムが鳴り、教室内で思い思いに雑談していた生徒達が自身の席に着席していく。みなが席についたあたりでドアがガラリと開かれ、次の授業を担当している数学教師が顔を覗かせると最も出入口に近い生徒に何かを渡し、教室全体を見て言った。

    「悪いけど今日はプリント用意したからそれで自習なー。プリントは次の時間に答え合わせするから、ちゃんとやるように」

    サボるなよ!
    と、それだけ言うと、数学教師はどこかに行ってしまい、一度静かになった教室内はまたザワザワと賑やかになる。プリントを託された生徒が面倒くさそうに席から立ち上がり、それを配り始めるのを視界の端で確認した私は机の上に広げていたノートを閉じて、出された課題を解く準備をした。

    「なぁなぁ、お前らどれがいい?」

    プリントが私の手元に来るのを静かに待っていると、背後からやたらと弾んだ男子の声が耳に届く。おそらくこの騒がしくなった教室では聞き取れないくらいに声量の押さえられたその声を、私の耳はなんの問題もなく拾い上げてしまった。しかし、盗み聞きはよくないし、聞く気もなかったので回ってきたプリントを受け取り、私はシャープペンシルを手に目の前の問いに集中する。

    カリカリカリ。

    特に難しいわけでもないそれを、これといって躓くこともなく解き進め、何度か見直しまでを終えたあたりで、それはまた聞こえてきた。先ほど話していた男子達。彼らは私の耳と記憶が正しければ、澱みなく何かについて熱く議論を交わすばかりで、プリントには手をつけていない。まぁ、答え合わせは次の時間に、と先生も言っていたので後からやるつもりなのだろう。それは個人の自由なので別にいいが、問題なのは聞こえてきた内容だ。

    楽しそうにヒソヒソと談笑する3人の男子。そのうちの1人が誰も聞いていないだろうと思って、放ったであろう言葉。

    「えー、でもほら、青柳みたいなのって、3日で飽きるって言うじゃん?」

    それを無意識に耳が拾ったのは、多分自分の名前が含まれていたからだ。それはどういう意味だろうか、とよくないと思いながら耳をそばだてれば、なんてことはない。彼らはどんな女性と付き合いたいかということで盛り上がっていた。それは年相応の話題……だとは思った。だが、それよりも。

    (私みたいなのは3日で飽きる……?)

    脳裏に今交際している彼の姿が過ぎり、思わず痛んだ胸を押さえる。本人に聞こえていることに気がついていない男子達は楽しげに笑い、「まぁたしかに!」と交際相手として青柳冬弥は満場一致で「なし」であると判定が下されていた。

    (……な、なぜだ……?)

    私は自分に自信があるわけではない。歌であればその限りではないが、容姿や愛想で言えばまったく自信なんてものはない。しかし、そんなのはどうだってよかった。彰人だけが私を人として、女として、愛してくれればそれでいいと思っていたのだ。だが。

    (……3日で、飽きる……)

    今、それすら揺らいでしまうことを私は聞いてしまった。いつか彰人に飽きられてしまう可能性。そんなことがあるとは想定していなかった。バクバクと不安と恐怖で胸が変に脈を打つ。

    どうして、私は飽きられてしまうのだろうか。
    もう交際して数ヶ月経つが、彼らが言うように、彰人も私に飽きてしまうのだろうか。

    (……彰人……)

    彰人に会いたい。会って、「そんなことあるわけねぇだろ」と、この不安をどうか否定して、吹き飛ばして欲しいと、そう思った。けれど、チラリと時計を見ても針が休み時間を指すまではまだまだその道のりは長い。

    「付き合うならやっぱ巨乳がいいよな」
    「ないよりはあるほうが色々できるしな!」

    あぁ、胸……胸か。
    なら、飽きられても仕方がないな。

    なおも続く彼らのそれに、心へ刺さるトゲがひとつ、またひとつと増える。その辺の壁と大して変わらない膨らみしかない自身のそれをひと撫でして、私は初めて自分の発育の悪さをほんの少しだけ呪った。
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