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    おたぬ

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    おたぬ

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    猫🍁とハム❄が一緒に暮らしてる話

    月が爛々と輝き、夜の帳がしっかりと下りた頃。一戸建ての住宅にて家族がリビングで談笑をしている、その屋根裏。暗く、人ひとりが住むような空間もない狭いそこで、くぁ……と欠伸を漏らし、丸まっていたために凝り固まった体を伸ばしたのは、1匹の雄猫だった。もふもふとした橙色の毛は長く、伸ばした前足はスラリとして、一見優雅そうな見た目とは裏腹に実はかなりの健脚である。そんな彼は寝起きで乱れている毛並みを手早く整えると、傍らの青い毛玉に声をかけた。

    「起きろ冬弥、飯取り行くぞ」
    「……ん、朝か……」

    冬弥と呼ばれた雄猫と比べれば極々小さなその毛玉はもぞもぞと動いて、ゆっくりと起き上がる。青い毛並の生き物はくしくしと毛繕いをし、頬袋からひまわりの種をひとつ取り出すと、眠たげにそれの殻を剥き始めた。

    「彰人は朝ごはん食べないのか?」
    「オレはもう食ったからいらねぇよ」
    「そうか」

    殻の端っこを器用に割り、中から出てきた白い種を小さな手で持ってポリポリと食べる。そんな小さな物がどれだけ腹の足しになるのだろうかと猫は彼の食事風景を見るたびに常々思うが、食べている本人も同じくらい小さいのできっとあの種くらいの大きさがちょうどいいのだろう。種をすべて腹に収め、消費した分を屋根裏の片隅に備蓄してあるものからまた頬袋へ補充して、青い毛玉――ネズミの冬弥は彰人と呼ばれた雄猫の長い毛をよじ登り、その橙色の中へと身を潜ませた。

    「ん、じゃあ行くか、冬弥」
    「あぁ、頼む、彰人」

    人間の住む家にあった僅かな穴。そこを以前冬弥が彰人も通れるようにと齧って広げたそれに彰人は体を滑り込ませ、穴から飛び降りて、庭にある背の高い木へ。そこからさらに塀へと飛び移り、2匹は夜の町へと食糧を求めて繰り出した。

    「今日は天気がいいな」
    「たしかに寒くもねぇし、暑くもねぇけど、あんま顔出すと他の猫に見つかっちまうぞ」
    「……そうだな、すまない」

    ひょこりと橙から顔を出して、無警戒にも辺りを楽しげに見渡す冬弥を窘めつつ、彰人は尻尾をピンと立てていつもの食糧調達ポイントを目指す。まずは近くの飲食店にあるゴミ箱だ。ほとんどの店は漁れないようになっているが、たまに詰めの甘い店もある。そこがダメなら、次は公園。そして最後に確実に食べ物が置かれている特定の民家。それが2匹のお決まりのルートだった。

    彰人はすでにボランティアが毎日くれる餌にありつけているため必死に食べ物を探す必要はないのだが、ネズミの冬弥はそうはいかない。彼本人は「ひまわりの種があれば生きていける」なんて自信満々で言っているが、たった1日食糧が見つからないだけで命を落としてしまう可能性もある彼には、きちんと栄養のあるものを食べさせてやりたい。それがたとえ今自身の背に乗っている青いネズミへの押し付けでしかなかったとしても、猫は彼にそうしてやりたいと思っていた。

    塀を降りて住宅地を抜けると、変な色の光があちこちで瞬き、まだまだ人間で賑わっている飲食店の立ち並ぶ通りに出る。ギューッと首の辺りの毛を掴み、丸まって隠れているネズミの温かさを妙に心地よく感じながら、彰人はそこの脇を植木で身を隠し、目的地までの道を進んだ。



    毎日の冒険を終えて、また塀の上を歩く彰人の足取りは重く、はぁ……と吐き出される吐息もすっかり消沈したものである。それを聞いた冬弥は彰人の毛並みから顔を出すと、そのまま頭の上に移動して、相棒である猫の顔を覗き込んだ。

    「大丈夫か、彰人。ひまわりの種食べるか?」
    「……いらねぇ……つうか、食いもんにありつけなくてやべぇのはお前だろうが、冬弥」
    「それはそうだが……あの家に行けばひとまず飢えることはないからな」

    飲食店のゴミ箱も、公園のゴミ箱もあてが外れて漁れず、トボトボと歩く彰人だが、今日1日新たな食糧にありつけていない当の本人は特に気にした風もなく猫に渡そうと取り出したひまわりの種を頬袋にしまって、再び橙の中へ戻って行く。

    彰人が向かっているのはいつも最後に行っている、冬弥の食糧を確実に手に入れられるとある家。そこは昼間は決して冬弥が近づくことはできない危険地帯だが、夜も更けた今ならば彰人の力を借りて簡単に侵入でき、さらにはひまわりの種を取り放題なネズミにとって夢の場所である。

    目的の家に到着し、住処から出てきた時同様、高い木を伝って家の敷地内に入り込むと、彰人は庭の中央に設置してあるそれ――鳥用の餌台、その屋根部分へ軽やかに着地した。手馴れたように猫の背から降り、冬弥は屋根から下に垂らされた彰人の長い尾をロープ代わりにしてスルスルと餌入れに向かう。

    「あんま取りすぎんなよ?」
    「わかっている」

    カサカサ、ポリポリ、と備蓄分を頬袋へ、食事分を胃袋へ。それぞれ詰め始めた音に耳をピクンと跳ねさせた彰人は散歩中の野良猫が近くに来ていないか、周囲に気を配る。

    まったく、本当に。本当にこの無防備な青い毛玉は、自分と出会うまでどこでどうやって生きてきたのだろうか。

    初めは非常食にでもしてやろうかと捕まえたはずなのに、いつからどうして、このネズミとこんな関係になったのか。すっかり食べる気などなくなって、むしろ今は少しでも長く生きて傍にいてほしいなんて思い始めている自分がおかしくなり、雄猫はフルリと上機嫌に尻尾を振った。

    暫くして、下から「彰人、そうされると尻尾が掴めないんだが……彰人!」と控え目に、しかし必死に訴えるネズミの声が聞こえてきて、その彰人が自分を食べるはずはないと信頼しきった声に、また猫は笑って動かしていた尻尾を来た時のように垂らしてやる。

    「お前、オレが猫だって忘れてるだろ」

    ひまわりの種をお腹いっぱいに食べてふっくらもちもちになった体でまた背に乗ってきた冬弥にそう言えば、彼はきょとんとした顔で首を傾げた。
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