「見つけた。轟雷斗」
視界に入るなりダッシュで駆け込んできた男に、雷斗はうんざりした視線を向けた。そんな雷斗の態度を気にも留めずに男は深い青色の瞳を爛々とさせている。
「俺と戦え」
「うぜー…」
この会話も何度目かわからない。この、土門作真という男は雷斗が学園へ潜入した当日からこの調子だ。雷斗の左右に控えていた双子がにこやかに作真に答える。
「おはよー作真」
「おはよう。光楓さん、走汰さん」
「今日もめげないね。どっちが先に根負けするかな」
この光景を面白がっている光楓と走汰はすでに作真に勝負を吹っ掛けられた後らしい。公安側に引き入れたのもその時だと、話半分に聞いていたのを思い出す。
「轟雷斗。俺と戦え」
「お前な…俺たちが公安の人間だって知ってんだろ。超能力使って暴れるなら捕まえんぞ」
「強い奴としか戦わないなら問題ないだろ?」
きょとんと、至って平然とそう言い放つ作真に雷斗は渋面をさらに険しくする。「危険思想じゃねえの」と双子に視線を投げるが呆れたように首を振られた。
「うーんギリセーフかな。一応事前に相手の承諾をとってるわけだし」
「不意打ちや見境無くだとアウトだけど。試合みたいにルールがちゃんとしてるならいいんじゃない?」
双子は作真の味方らしい。チッと舌打ちをすると雷斗は踵を返した。
「どこ行くんだ」
「調査だ調査。こっちは遊びに来てんじゃねーんだよ」
「あれ? 雷斗がそんなにやる気なの珍しいな?」
「うるせえ」
「あ、待った!単独行動禁止!」
去っていく雷斗をなおも追いかけようと踏み出した作真を、光楓が止める。「ごめんね」と前置きしてから、
「あんなんでも雷斗は公安の切り札だからさ。あんまり堂々と能力使わせちゃだめなんだ」
そう告げると、光楓も先を行く二人に合流する。角を曲がって三人の姿が見えなくなる間際、作真は声を張った。
「事件が終わったら!…全部終わったら、相手してくれるか!?」
雷斗が立ち止まる。ひたすらに見つめてくる作真とは視線を交わさないままぽつりと零した。
「……終わったらな」
「! 言ったな。約束だからな!」
「うるせー……」
振り返らず、雷斗はその場を後にした。着いてくる双子が後ろを気にしながら雷斗に話しかける。
「いいのか? 約束なんかしちゃって」
「今回の件がいつ終わるか、そもそもちゃんと解決するかもわからないのに」
「あんなもん、守る必要も守られる保証もねえだろ」
雷斗は吐き捨てる。現に守られなかった約束を知っているとでも言うように。影が差す雷斗の横顔に気づいて光楓は口を噤んだが、走汰は気づかないふりをして口を開いた。
「──それでも、作真は約束を破らない…ううん。破らせない、と思うな」
なんとなくね、と続いた言葉に雷斗は何も答えない。出会って日は浅いが作真のしつこさは嫌という程知ってしまっている。
今回の案件は決して安全な任務ではない。その果てに雷斗の身がどうなっても、どこへ行ってしまっても……あの爛々とした青色の目は、雷斗を必ず探し出す。そんな確信にも似た予感がして、雷斗は再び渋面を作るしかなかった。