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    chiocioya18

    @chiocioya18

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    chiocioya18

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    タケ漣。おとぎ話にならない話。
    ロマンチックは壊す物なふたり。

    #タケ漣
    rippleOnBamboo

    「チャンプ。いるか?」

    男道らーめんのすぐ脇、チャンプが縄張りにしている路地裏を覗き込んでみる。見知った灰色の猫は居らず、建物の高い壁と陽の射さない暗い地面があるだけだった。
    せっかくエサを持ってきたのに。手にした袋の中の猫用ドライフードを見て小さく溜息をつく。まあ、あの野良猫の縄張りはここだけではないだろう。踵を返そうとした俺の後ろから、ニャアと耳に覚えのある鳴き声。振り返れば探していた姿がそこにあった。

    「チャンプ!」

    名を呼ぶ声にもつい喜色が乗る。ちょこんと座り込んでいたチャンプはもう一度ニャアと鳴くとすくっと腰を上げて俺に背を向けた。あれ、と思ったものの首だけ振り向いて顎で行き先を示してくる。

    「ついて来いって言ってるのか?」

    ゆらゆら揺れる尻尾に導かれ、俺はチャンプの後を追う。近道なのか回り道なのかもわからないルートの果てに、市街地に取り残されたような狭い空き地に出た。隣の建物は年季が入っていて、使われていないのか入口が暗く閉ざされている。その陰に隠れたこの空き地も手が入っていないようで、膝の高さまで伸びた雑草が生い茂り近づくのが躊躇われる印象があった。チャンプはその草むらにスイスイと入っていくので、戸惑いながら俺も足を踏み入れる。そこではたと、俺よりも前に草むらを踏みしめた足跡があることに気づいた。
    ニャアとまたチャンプが呼ぶ。そこに人が倒れていた。驚いてぎくりと体が突っ張ったが、すぐに緊張を解く。健やかな寝息が聞こえた。寝ているだけだ。

    ──コイツ、本当にどこででもよく寝るな。

    草むらの中にいたのは、見慣れたヤツだった。白銀の髪、白い肌。珍しく静かに行儀よく眠っている。緑の中で赤いジャージはよく目立った。背の高い、小さな白い花のついた雑草がコイツのまわりを縁取るみたいに生えている。ぴたりと閉じたまぶたに草の影が差して、どこか現実味のない光景だった。
    唐突に、かつて妹にねだられて読んでやった絵本を思い出す。森の中の城の眠り姫は、茨に囲まれた寝台に寝かされていた。ここにいるのは姫じゃなくコイツで、森の茨ではなく空き地の雑草だけど、目の前の景色と記憶の中の絵本が重なる。
    眠り姫は王子のキスで目を覚ます。眠るコイツの唇に視線が引き寄せられる。柔らかそうな、唇。
    その時ぴょん、とチャンプが寝ているコイツの腹に飛び乗った。

    「あ」

    うっかり声を出してしまって慌てて口を押さえた。うぅん、と唸りながらゆっくりまぶたが開く。太陽にも似た金色の目がチャンプを捉えた。

    「覇王…オマエ重たくなりやがって…。あ? チビ? なんでいンだよ」

    欠伸をしながらコイツはむくりと起き上がる。頭にも背中にも草の葉を引っ付けた姿に、さっきまでの神秘さは消え失せていた。そのことになぜか少しほっとする。

    「チャンプに連れてこられたんだ」
    「コイツは覇王だっつってんだろ。ほら覇王、メシだとよ」

    勝手に俺の手から袋をむしり取り、中身のフードを手ずからチャンプへ与える。チャンプはカリカリ音をさせながら食べて、機嫌よくコイツの指もぺろりと舐めていた。俺が持ってきたのに。

    「覇王もオレ様から貰う方が美味いって」
    「言ってないだろ、そんなこと」

    俺たちの言い合いなどどこ吹く風とばかり、チャンプはさっきまでコイツが寝ていた場所にごろんと寝転んでうとうと微睡みだした。どうやら俺はコイツの回収要員として呼ばれたらしい。

    「……帰るか」
    「……チビん家?」
    「嫌か」

    訊いてみてもなかなか返事をしない。手持ち無沙汰に手を伸ばして、コイツの頭に付いている葉っぱを払ってやる。まるで撫でてやってるみたいだ。コイツも、撫でられてるみたいに目を細めてこちらに身を預けてくる。やがて、ポツリと喋りだした。

    「……明日、撮影で朝早く出ねえと」

    撮影。コイツが出るドラマのやつだ。俺は今回共演してないから詳しいスケジュールは知らないが、ロケの都合ではそういうことも珍しくないだろう。何の気なしに「起こしてやろうか」と言えば、急にコイツはくく、と喉を鳴らして笑いだした。

    「チビはオレ様を起こすのヘタクソだろーが」
    「は? そんなことないだろ」

    これまでだって何度も起こしてやっている。そりゃ円城寺さんほどスムーズには出来てないかもしれないが、コイツの寝起きが悪いだけだ。不満を込めて否定しても、コイツはなおさら頭を振る。

    「いつもスケベなことして夜なかなか寝かさねえだろ」
    「し、してない!」
    「してる。だからチビん家で寝ると朝起きれねえ」

    しないなら行ってやってもいい、って、姫どころか悪者みたいにニヤリと笑う顔に、「しない!」と咄嗟に叫んだ。さっき唇に目を奪われたことは絶対に内緒だ。「じゃあ行く」って、コイツは身軽に立ち上がるとさっさと俺より先を歩いていく。

    「寝坊したらチビのせいな」
    「もうオマエ自分で起きろ!」

    まだ葉っぱが付いたままの背中を怒り紛れに叩いてやった。空き地を出たらすぐに景色はビルや見慣れたチェーン店ばかりになって、その中を足早に行く俺たちにやはりおとぎ話は似合わない。なにしろ自分で起きられるコイツは姫ではないし、起こすのがヘタクソな俺は王子にはなれないのだから。

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