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    夜間科

    @_Yamashina_

    落書きをウォリャーッ!ってします。

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    夜間科

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    「生き急ぎ、浅き春」
    主さみと清光。

    加州から聞かされた。五月雨は頻りに「私は可愛いですか」と問うてくるらしい。
    この本丸最初の刀である加州は、さまざまな刀と交流がある。そしてしばしば頼られる。この本丸のことだけではない。刀づきあいのこと、買い物の相談、いわゆる恋バナまでその話題は多岐にわたる。

    五月雨は恋刀だ。しなやかで美しい、したたかさと儚さの同居する立ち姿。澄み切った感性。素直で健やかな心。揺るぎのない忠誠。冷徹さとぬくもり。好きなところを箇条書きにすれば、きっと余白と時間が足りない。
    顕現してもうすぐふた月。五月雨は概ね愛されていた。江の部屋、短刀の部屋、小規模なネイルサロンが形成された加州の部屋。いたるところに小さな居場所があって、呼びつけるたびに違う部屋にいる。
    そんな彼がこんな主人と契りを結び、夜伽までしてくれるのは、彼なりの忠誠の発露に違いなかった。

    「俺も聞かれるけど、そのたびに『可愛いよ』って返してる」
    「ホントぉ?」
    加州があからさまに訝るが、後から言い訳のように「いや、主のこと信じてないわけじゃなくてさ」と補足がなされた。
    「五月雨ってあれだから、すごく言葉に敏感なんだよね。言葉にこもった気持ちにも」
    それは明らかに推測ではなく、加州が五月雨との対話を重ねて得た、確かな知見だった。
    主人としてそんなことはわかっていたつもりだ。わかっていたが、本当に理解していただろうか?理解した上で、彼の豊かな感受性に寄り添うような触れ合いができていただろうか。自省する。
    「せっかくあれだけ愛してもらってるんだ、あんたもちゃーんと愛してやらないと」
    まるで母親のように深い慈しみの心を感じさせる口ぶりだったが、その前に聞きたいことがあった。
    「ちょっと待って。あれだけ愛してもらってるって何?」
    地鳴りかと勘違いするほどの加州の声が耳を痛めつけた。
    「あ、主!?ウソだろ!?何って何!?」
    続いて、肩を掴まれこれまた地震でも起きたかというほどの勢いで揺すられる。頭がくらくらする。
    「ばか、もう!主のバカ!」
    うら若き乙女のような台詞とは裏腹に、加州はおそらく本気で怒っていた。初期刀からバカ呼ばわりされることなどそうそうない。事ここに至り、漸く自らがいかに愚鈍であるか気付かされる。
    「俺の部屋来ても頭が頭がーってあんたの話しかしないんだ、そもそも俺の部屋に来るのもあんたのためだし。あんなに一緒にいるのに気づかなかったのかよ」
    「いや、あれは俺が命じるからなんだろうなって……」
    「ばーか。あいつ、主が思ってるほど優等生じゃないぜ?もっとワガママだって」
    加州は知った風な口をきいたが、あの小さな溜まり場で互いを彩りあう彼らにしか分からないことがあるに違いなかった。

    五月雨は縁側に立っていた。たまにこうして一人で外を眺めている。季語を探しているのか、物思いか。乏しい表情から読み取れることは決して多くない。
    纏っているのは、派手さはないものの仕立ての良い服だ。爪の色はいつもと同じに見えたが、目を凝らすと同じ紫でも色合いが少し違う気がした。この前とは違う装飾品。全てを加州に教えてもらった今、五月雨の身を飾るひとつひとつが彼の切な努力の結晶に見えた。
    こちらに気付くと、音もなく近づいてもはや恒例となった質問を投げかけた。
    「頭、如何ですか。今日の私は可愛いですか」
    「ああ、可愛いよ。これからもずっとずっと可愛いままで、そばに居てくれるか」
    愛してもらっているのだから、愛してやらないと。そんな言葉が記憶のうちに甦った。
    五月雨の頬が少しばかり緩んだ。
    「……はい、可愛い五月雨はいつでも、頭のお側に」
    冗談かと思うくらいに愛らしかったが、どうやら彼は本気だった。
    「頭が命じるのであれば、じゃあないんだね」
    「ええ、これは私の我が儘ですから。……さあ、行きましょうか」
    雨も雪も降らないうららかな日和に、繋いだ手のあたたかさ。たぶんこういうものが、春なのだった。
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    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555