しとしとと優しい雨が降る、そんな日の昼下がり。
今日は久しぶりに宝石商が来ていて、目の前には今度の催事に向けて用意されたアクセサリーがところ狭しと並べられていた。
「こんなにたくさんあると悩みますねっ」
「そうね、どれを選んでいいか迷っちゃうわね」
隣にはティアラも一緒で、煮詰めた蜂蜜のような濃い金色の宝石がついたネックレスを手に取りながら難しい顔で眺めている。
「ティアラはそれが気に入ったの?」
「えっ⁈ そ、そんなことありませんっ! 綺麗だなと思ってちょっと手に取ってみただけですっ」
パッ、とこっちを振り向いて目を丸くしたかと思うと、一瞬で顔を赤くしてアクセサリーを元の場所に戻す。違いますからねと頬を膨らませる姿に、なんだか悪いことをしてしまった気がして宥める様に頭を撫でた。
「それよりもお姉様は? どれか気に入られたものはないんですか?」
「うーん、どれも本当に素敵なのだけれど……」
パタパタと手で頬を冷ましながら聞いてきたティアラに、視線をアクセサリーへと向けながら曖昧な言葉を返す。
目に映るどのアクセサリーも細かいところまで細工が施されているし、凝った意匠のものもあればシンプルで目を惹くものもあるのにどうしてもこれ、というものを決めきれない。
宝石商の人もにこやかな笑顔に少し汗をかいていて、優柔不断でごめんなさいと申し訳ない気持ちになってきた。
「もし良かったら、私がお姉様に似合いそうなものをいくつか選んでみてもいいですかっ」
ぐいっと上半身を伸ばしてきたティアラの有難い提案に、即座に頷きで返す。きっと自分だけでは決められないままだったからとても助かった。
きらりと嬉しそうに瞳を輝かせると、じーっとアクセサリーを見回していくつか手に取っていくティアラ。心なしか青系統の色が多めの選択に疑問を感じて少し首を傾げる。
私ってそんなに青色が似合っていたかしら……?
「どうですかお姉様っ」
目の前に分かりやすいよう並べられたのは青、群青、紫紺、薄紫、蒼、碧、青。意匠は全く違うもので、どれも私好みではあるのだけれど、その偏った色のチョイスに疑問を持たずにはいられない。
「ありがとうティアラ。少し青色が多いみたいだけれど……」
「はいっ、最近のお姉様は青系のものを身に着けられていることが多いので!」
「へ?」
「え?」
全く予想していなかった言葉が返ってきて思わず気の抜けた声が漏れる。それはティアラも同じだったようで、二人揃って目をぱちくりさせながらお互いを見つめた。
「そんなに青色ばかり着けていたかしら……?」
「そうですね……、昨日は紺色の髪留めでしたし今日もピアスが碧色ですよっ」
指摘されてから改めて振り返ってみると、確かに思い当たることが多い。そういえば数週間前にロッテにも「最近のプライド様はこの系統がお好きですよね」と言われたばかりだった。
「アーサーもエリック副隊長も気付いていらっしゃいましたよねっ?」
くるりと後ろを向いたティアラが問い掛けたのは、近衛任務に当たってくれていた二人。急な質問に一瞬虚を衝かれたように固まったがすぐに答えが返ってくる。
「確かに青色が多かったっすね」
「自分もそう記憶しています」
考える素振りもなく返答した二人に今度は私が固まった。どうやら気付いていなかったのは私だけらしい。
「もしかしてご自覚がなかったのですか?」
「えぇ、全く……」
口元に手を当て驚くティアラ。私も自分に吃驚だ。
前まではそんなことなかったのに、いつから青ばかり身に着けていたのかしら。
何かきっかけがあったのかしらと目を閉じ記憶を振り返る私の背後で、エリック副隊長とティアラが意味ありげに視線を交わしていたことには気付かなかった。