ふるりと冷たい風がふいてジョーカーはひゅっとドゥエが持たせてくれたストールに顔を埋める。
今日はヴォースィミとカローリにあげる報告書を作成して、今からシックスのマンションに戻る予定だったのだが、夏から秋……といっても最近の異常気象のせいで突然寒くなりせっかくだから、とウーの店にでも顔を出しに行こうかと思ってそばを通ったのだ。
「あれ、おーい、ジョーカー!」
ウーの中華店の近くまでいけば、見知った顔がこちらに気付いたのかぶんぶんと手をふられ、ジョーカーはそちらに視線を移した。
「あれ、サンと……ヨン?」
店の中や部屋に居るのはよく見るが、こうして中華店の外にいるのは珍しく、少し裏手に入ったところにいるサンの姿を追うようにそちらに向かう。
近づけば足元には掃除でもしたのか落ち葉が沢山集められていて、ジョーカーはぽすぽすと山のように重ねているサンを見ながらヨンに「掃除?」と尋ねる。
「あぁ、ジョーカーは知らないのか。日本ではこうやって木の葉を集めて芋をやくんだ」
「お芋を、やく?」
きょとりとするジョーカーに、日本では芋を蒸かしたり揚げたりするだけではなくこうして秋の中頃に焚き火と呼ばれる、小枝や落ち葉を集めて火をつけそこにサツマイモを入れて焼くという行事があるそうだ。
「といっても、僕も数回しかしたことは無いけど。小さい頃に学校でやったんだ。その話をサンにしたら、やりたいって聞かなくてな」
「おーい、小枝こんなもんでいいか?」
丁度小枝を葉っぱの中に紛れ込ませていたサンがそう問いかけると、ヨンは確認して大丈夫だと伝える。それにサンはにかっと笑って近くに置いていた芋を取り出し片方はアルミホイルに、もう片方は新聞を巻いてからアルミホイルに包んでいく。
「ばらばらなの?」
「ヨンがいうには、味に違いがでるらしーぞ! せっかくだし、ジョーカーもたべてけよ」
「いいの?」
もちろん、と返され、ジョーカーはサンとヨンに教えてもらい塩をふってからサツマイモをくるくると巻いていく。
「サン、先に火をつけておかないと」
「よし、任せろ!」
言った瞬間、ぶわっとサンのナノマシンが発動して落ち葉と小枝はぶわりと火を纏わせ綺麗な赤色に燃える。しばらくすると火が段々と落ちつき、灰が徐々に溜まっていく。
そこに火傷しないようにと優しく芋をほりこんでいき、全ての芋を焚き火の中に入れた。
「あとはしばらく焼けるのをまつだけだ」
「焼き芋かぁ、美味しそうだし、この焚き火もポカポカするね」
先程まではふるりと震えてしまうくらいだったのに、今ではあったかく心地よい体温になってくる。
そしてしばらく二人と話ながら、時折上手く熱が全体に行き渡るようにくるくると芋を回した。
「そろそろいいかな」
ヨンが火ハサミで芋を取り出すと、熱に強いサンがそれを受け取りアルミホイルをぺりぺりと剥がしていく。
すんっと鼻腔に甘いいい匂いがして、ジョーカーはじっとサンの手元を見つめていた。それに気づいて、ジョーカーに見えるように芋を半分に割ってやれば、むわっと芋独特の甘い匂いがただよい、ついぐぅっとお腹が鳴ってしまう。
「ジョーカー、ほかのも順番にあげるから、先に食べていいよ」
ヨンに促されて「熱いから気をつけてな!」と渡された焼き芋をジョーカーはぱくり、と口に含む。
「美味しい……甘いだけじゃなくて、ちょっと焦げてる所が美味しいね」
寒いからほかほかと湯気を出す焼き芋は特別に美味しく感じられ、ジョーカーはほくほくと顔をほころばせ芋を口にふくんだ。
「あ、こっちも上手い! 半分こしような!」
ジョーカーがはふはふしてる間に今度は新聞を巻いた方の焼き芋も出来上がったようで、サンから半分手渡され、どう違うのか考えながらそちらもぱくりと口に含んだ。
「わ、こっちはさっきのより柔らかい。それに甘さが全然違う……」
同じ芋なのにこんなにも違うんだ、とジョーカーが感動していれば、焚き火から取り上げた芋をヨンもサンも頬張っており、寒い中の焼き芋に二人もふにゃりと顔を緩ませた。
「もう少し塩をかけてもいいかとおもったけど、これはこれで美味いな」
「こっちのは日本で食ったのに似てるなー!」
もしゃもしゃと三人で焼き芋を食べていれば、いつの間にやら芋は全てなくなり、すごく食べたな……と思わず顔を見合せて笑ったのだった。