22.9.15***
さて少し時間は戻るが2振が話していたその頃、南泉一文字は買い出し要員の一員として万屋街にいた。今日の目的は食料や日用品の調達だが、ついでに何か面白いものがないか見て回るのもいいだろうということで、いつもより多めの人数が動員されている。
南泉は鯰尾藤四郎と共に行動している。
「おい鯰尾、このメモの調味料どこの棚だ」
「なになに?えー、多分あともう2本向こうの通りです」
「分かった。ありがとよ」
「いえいえ、ただの慣れってやつですから。……ところで南泉さんって、よくお使い頼まれますよね?」
「んぁ?あ~……なんか知らんけどいつの間にか増えてるんだよな。お前こそ万屋街はよく使ってるだろ?」
「そうですね。俺の場合、割と頻繁に買い物に来るんで、店主の方々とは顔見知りになってきましたよ」
「ふぅん。ま、いいんじゃねえの?別に悪いことじゃないし」
「それもそうなんですけど、ちょっと気になることがありまして」
「あン?何がだよ?」
「いや、ここの店の主人とは結構長い付き合いなんですよ。でも最近、どうも対応が悪いというか……。前はもう少し愛想よかったような気がしたんだけど……」
「へぇ……?」
「最初はたまたま機嫌が悪かったのかなって思ったんです。でも他の店では普通に対応してくれるし、だからやっぱりおかしいなあって」
「ふぅん……。確かに言われてみると、オレらのこと避けてるような感じはあったかもしんねぇな」
「でしょう!?しかも最近は露骨に態度が悪くなったっていうか……!」
「まあでも、そんなこともあるだろ。気にしてもしょうがねえよ」
「そう言われると何も言えないんですけど……。う~ん……でもなんだろうなあ……」
その後も他愛ない会話を続けながら歩き回っていたが、やがて目的のものを買い揃えて店を出たその時だった。
「おい、そこの刀剣男士ども。お前ら×××本丸の刀だろう」
「は?」
「×××本丸の刀剣男士だろう?!」
「……何を言ってるかさっぱりだ、行くぞ、鯰尾」
「はい」
「おいしらばっくれる気か!!」
突っかかってきたものはそう言うが、×××の部分は実際南泉たちの耳には意味のある音として聞き取れないのだった。
「くそッ!俺を舐めると後悔するぞ!!覚悟しておけ!!!」
「……はぁ」
「なあにあれ」
「知らねぇ。とにかくもう行こうぜ」
「そうですね」
南泉とて別に喧嘩がしたいわけではないのだ。面倒ごとに巻き込まれる前に早く立ち去るに限る。
そう思ってその場を後にしようとした時、ふと視界の端に見覚えのある姿を見つけた。
(あれは……山姥切国広?)
国広は南泉たちに背を向けるようにして、少し離れた場所に立っている。その視線の先にいるのは、1人の審神者と思しき人間その護衛刀たちだ。
国広は、審神者の方を見つめている。
いや、正確には違う。
その人間の連れている、"彼"の姿を。
「…………は?」
思わず声が出た。
「どうかしましたか南泉さん」
「……あいつ」
「え?」
「あの審神者の護衛してるヤツ、あれ”うちの蜂須賀虎徹”だろ。どういうことだ」
「……」
蜂須賀虎徹は今日近侍で本丸待機のはずだし、どこの誰とも知れぬ審神者の下に自本丸の刀がいるなどあり得ない。誰でも理解できることだ。そして鯰尾藤四郎はこの本丸では脇差内2番目に来た古参の一角、南泉より遥かにかれとの関わりは深い。同じ本丸の刀の気配だって、古参の鯰尾の方がずっと鋭敏なはずなのだ。だが疑問を口にする南泉の横で、鯰尾は無表情のままただ押し黙っていた。
「……おい、鯰尾藤四郎」
振り向けてもなお鯰尾はこちらを向きもしない。
「お前、何を知っている?」
南泉の問いにも、やはり答えはなかった。