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    sayutaba18

    @sayutaba18
    ライハを愛してる女。

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    sayutaba18

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    蛇辻の死ネタ。
    来世で会いましょう系です。

    「なぁ、セナ。まだここにいる?」
    「いるよ」
    「そっか」
     レオが安心したように微笑むから、瀬名は、レオの隣に腰掛けて、痩せこけたレオの頬を指でするりと撫でた。
    「何かして欲しいことある?」
    「あるよ。たくさん。でも選んでる時間はなさそうだなぁ」
    「そうだねぇ。早くしないと。時間は限られてるから」
    「じゃあ、手、握って」
    「うん」
     言われた通りに右手を握った。手のひらを握って、それから、少しだけ皺の寄ったレオの指に、自分の指を重ねて……恋人のように手を繋いだ。
    「恥ずかしいな。この繋ぎ方」
    「久しぶり、だもんね。俺は嫌いじゃなかったよ」
    「そうなんだ。もっと手繋いでおけば良かった」
     弱々しくレオが握り返してきたから、少しだけ自分も力を入れる。壊さないように。大切に。
    「れおくんが後悔なんて、珍しいね」
    「後悔だらけだよ。セナを独りにしたくない」
    「バカだなぁ。あんたがいなくなったら、俺もすぐ追いかけるから。待ってて」
     こつんと頭をレオにぶつける。並んで座っているレオが、こちらに体重を預けてきた。
    「セナの肩あったかい……」
    「れおくんの肩もあったかいよ」
    「わはは。今なら曲が作れそう。でも筆はもう持てないな。悔しいな」
    「じゃあ唄って。俺が最期まで覚えていられるように」
    「セナの頼みなら、しかたないな」
     ラララ、とレオがか細く唄って、途中で噎せる。最期の歌かもしれなかった、温かくて優しいメロディがが途切れる。
    「あぁ、もう声も出ない。刀ばっかじゃなくて、もっと筆持てば良かった」
    「そうしたら、俺達出会えなかったかも」
    「……それもそうだな。蛇神のお前を殺しに行かなかったら、セナに出会えなかったから……やっぱ今のなし」
    「もう信仰してくれるのも、れおくんだけだけどねぇ」
     だから、消えるのだ。レオが居なくなったら、自分も消える。二人で一緒にその時を迎えられるのだから、これ程幸せなことはない。
    「俺は数百年生きてきたけど……あんたといる数十年が、一番目まぐるしくて、楽しくて、毎日飽きなくて……好きだったよ」
    「わは。セナが素直だ。明日は雨に違いない」
    「最期くらいはねぇ。俺だって後悔したくないし。明日が雨でも槍でも関係ないから」
    「おれも大好きだよ。ずっと一人だったけど、セナと刀を交えたあの日から、おれの人生は変わったんだ」
     クスクスと笑うレオ。何を思い出しているのだろうか。妖怪だと思って斬り込んだら瀬名が神様だと知って驚いた時のことだろうか。レオに渡されて、初めて食べたお団子が美味しくて、瀬名が目をまん丸にした時のことだろうか。瀬名を信仰していた村がなくなって、瀬名が消えかけた時に、レオが「生涯に誓ってお前のことを信仰するから消えないで!」と言ってくれた時のことだろうか。その後も、その後も、そのずっと後も、レオは伴侶も持たず、家も持たず、ずっと瀬名と一緒に居てくれたのだ。
    「ふふっ」
    「どうした、セナ?」
    「俺、結構れおくんに愛されてたんだなって、思い出してたの」
    「今さらすぎない? おれはこんなにもセナのこと愛してるのに」
    「ごめんね。人間の世界に返してあげられなくて」
    「謝るなっていつも言ってるだろ~? おれは、セナが居てくれれば、それだけで充分なんだから」
     レオが笑った。彼の笑顔は幾度となく見てきた。心がぽかぽかする。神ということも忘れて、一人の人間にこんなに固執してしまうことがとても恐ろしかったのに、今ではこんなにも心地が良い。
    「なぁ、セナ」
    「なぁに? れおくん」
    「おれのこと、抱きしめて、口づけして? そうやって、最期はお前の腕の中で終わりたい」
    「うん。おいで」
     レオを抱き寄せる。もたれ掛かってくる軽い体重、痩せ細った身体。浅い呼吸、暖かい体温、頬に触れる橙の髪の毛。レオの全てを包み込んだ。まだ、逝かないで欲しい。
    「…っ、」
    「ん、」
     カサカサのレオの唇に瀬名の唇を合わせる。呼吸すら奪ってしまいところだけれど、ぐっと堪える。レオが口を開いたので、舌を入れて、軽くレオの舌と絡めて、吸い上げて、レオの唾液を飲み込んだ。愛しい、彼のすべて。
    「わはは。おれがあと10年くらい若かったらなぁ。セナは姿が変わらなくて、羨ましい」
    「まだ枯れるには早いでしょ~。毎日こうして口づけはしてるんだし。抱いてあげようか? 腹上死もいいかもしれないよぉ?」
    「それもいいかもしれないけど、間抜けそうだから止めとく」
    「ふふ、それもそうだねぇ」
     レオの目を見る。澄んだ緑。彼にはもう自分は見えていない。ここにある温度と感触がすべてだ。
    「なぁ、セナ。約束してよ」
    「なにを?」
    「生まれ変わっても、こうして一緒にいてくれるって」
    「俺もそうしたいけどねぇ。俺、うまく生まれ変われるかなぁ」
    「約束! 指切りげんまんな!」
     子供っぽくレオが笑って、震える手を出して、小指を立てる。それに応えて、セナの小指も絡める。
    「……神に誓って、れおくんの元に現れるね」
    「どの神に誓うんだよ」
    「俺?」
    「わはは☆おれも蛇神様に最期の誓い、を……」
    「れおくん……?」
     レオの小指が離れていく。腕が力なく下がる。レオの身体がずっしりと、重くなった。
    「ん、セナ……ねむい」
    「そっか。よく頑張ったね」
    「おれ、しあわせ……だっ、た」
    「俺も、幸せだったよ」
     もう一度、レオに口づけをする。レオの瞼がゆっくりと下りていく。ぎゅっとレオの背中に腕を回す。細胞ひとつ残らず彼を感じていたい。最期の一秒まで。
     嗚呼、彼の肉体を置いて消えてしまう。もっとレオの傍に居たかった。肉体が朽ち果てて、土に還るその時まで。でも、もう、意識が遠退いて、いつまでもここにいられない。
    「生まれ変わったら、必ず迎えに行くからね」
     何百年かかるかわからない。でもきっと巡り会ってみせる。次に出会えた時は、殺し合いからじゃなくて、どうか、友達として、隣で唄えますように――。

    「うわっ! お前、すごく綺麗だな……! 沸いてきた沸いてきた霊感が! 名前、名前は!?」
    「はぁ? なんでいきなり名乗らなきゃいけないわけぇ? 俺の名前は……」
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