冬の朝「れおくん、まだ起きないのぉ?」
「うぅ、もうちょっとしたら起きる……」
「さっきからそればっかりじゃん」
朝の冷え込みとは別に、日に日にれおくんの起きる時間が遅くなっていくのを感じると冬が来たなと思う。寒いから布団から出たくない。それだけの理由で、彼はまだ顔の半分くらいまで布団に埋まっているのだ。
「部屋だいぶあったまったでしょ。早く起きてご飯食べなよ」
「ホットコーヒー入れてくれたら起きる……」
「はいはい」
「あと、セナがぎゅ~ってしてくれたら起きる……」
「……バカじゃないの?」
そう言いながら寝室の扉を閉めた。セナのケチ! とかなんとか聞こえたような気もするけど、そんなものは無視である。
コーヒーメーカーのスイッチを押して、ガガガガガというけたたましい豆の挽く音を聞きながらパンをトースターに入れる。フライパンに卵を落とせば、後は待つだけ。部屋の暖房もだいぶ訊いてきたから、何も言わなくてもそろそろ起きてくる頃だとは思う。
パンの焼けた匂い、淹れたてのコーヒーの匂い。それらを届けるべく寝室の扉を再度開けた。
「……いい匂いがする」
「でしょ。早く起きておいで」
痺れを切らした俺は布団の山に近づいて、勢いよく布団を捲りあげる。この世の終わりみたいな顔をしているれおくんに手を伸ばして、首元にぎゅっと腕を回す。
「ほら、早く起きな」
「……っ!? 」
一瞬ビクついたれおくんが、おずおずと俺の背中に手を回してしがみついてくる。自分から言い出した癖に、こういうの何回やっても慣れないね、あんたは。それがまた可愛いんだけど。
「おはようのキスもしてあげようか?」
「い、いいです! 起きます!」
折角の申し出を即答で断られたので、腹が立ってその唇に口づけてやった。
「セナぁ……」
「なぁに? なんか文句ある?」
「……ないです……」
冬の朝、春が来るのが待ち遠しいような、まぁ別に、そうでもないような。