MONSOON 小雨が降っている夜のビーチを、13と歩いていた。
つい数日前の日中には、辺り一面を覆い尽くすほどのミューモンが群がっていた。今は夏も終わりかけの夜の海であり、13とオレ以外のミューモンはいなかった。それもそうだろう。夜の海は昼以上に危険がたくさんだとか、雨が降ると昼間でも海水浴を楽しむ客は面白いほどに減るのだから。人混みや喧騒を嫌うこの男からすれば、今の状況は好都合なのかもしれない。
暗雲から降り注ぐミストを浴びて力を増す漆黒の波音を聴きながら、男の白い手を取って灰色の砂浜を歩く。うんざりするほどの日差しを受けてキラキラと輝いていた光景が、まるで嘘みたいだった。黒い服装である上に、黒い傘を差している13の表情は全く見えない。見えたところで何を考えているのか理解できたことはあまりないのだが。
「ン?」
「……日中よりはいくらか静寂だが、地上はやはり騒がしい」
「そうかァ? でもよ、水中だって何かしらの音はすんだろ。無音ってのはなかなかないんじゃねェか?」
相変わらず13が何を考え、何を言っているのかを一度で理解するのは難しい。だからこそ暴いてみたくなるのが151という男である。彼の隣に立って、顔を覗き込もうとしたその瞬間、唇に温かいものが触れた。
「ん……は、」
二人きりの海辺でキス。絵に描いたようなロマンチックな恋人の戯れに見えるだろうが、生憎背景は灰色の空と真っ黒な波、そしてひとつの黒い傘に成人男性二人が入っているのも異様だ。
唇に触れる温もりを感じている間は、一切の障害物がなかった。大きな音を立てる波も、真っ黒な背景も、黒い傘でさえも、もうどうでもよかった。男のくせに柔らかいそれと、愛しい男の吐息、溶け合うことのない胸の拍動。もやもやとした霧雨の中で、確かに聴こえる13の無機質な声がひどく優しく耳を蕩かす。飴玉の小さな破片のようだった。
夏にしては冷たい雨だったが、151の身体には既にぐるぐると熱がまわっていた。
——クソ、かわいいことしやがって。
151が目を閉じて、舌を差し込もうとした。
「性行為は後だ」
「Ah!? ンだよ、つれないねェ。そこはヤる流れだろぉ」
「夏風邪を引くのは本意ではない」
「折角エロい気分だったのによォ」
繋いだままの男の手は、少し力が籠っていた。