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    m01211411o

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    一燐/うさぎのすむ星に宇宙海賊が漂着する話

    かつて月と呼ばれた ──前編 そのとき、白い大地に星が――星が降ってきたのかと思った。


    『あーーー。はいはいはい、マイクテストマイクテスト』
     ほとんど衝突のような勢いで不時着した飛行体の周辺には、未だ土煙が舞っている。飛行体から姿を現した奇妙な出で立ちの男は、土煙を割ってこちらへ向かってきていた。
    『はいは〜い、ハローハロー、グーテンモルゲン?』
     顔の大部分を覆ったマスクの向こうから、くぐもった声が聞こえる。口元に小型の拡声器でも付いているのか、機械を通した響きだ。
     男が話しかけてくる姿勢に敵意は感じなかった。しかし、警戒はしているんだろう。こちらが仕掛ければすぐにでも反撃ができるよう構えているのがわかる。
     さりとてそれは、お互い様だ。
    『それともコンニチハ、がいいかねェ、お兄さん?』
     言葉はわかった。けれど不思議な単語ばかり並べる彼が、僕に何を訊ねているのかはわからない。それでも。
     マスクから覗いた青い瞳を見た時。僕のなかのどこかで、何かが、音を立てた気がした。


     ◇


    「ほぉ〜ん?じゃあお兄さんはこの星の王子サマってわけだ?」
     トントンカンカン。小気味よく響く音のなか、男は船の修繕作業をつづける。
    「お兄さんじゃなくて名前で呼んでほしい。僕の名前は一彩だよ」
    「ン、さっきもきいたぜェ」
    「忘れてしまったかと思って」
    「忘れやしねえよ、いい名前じゃん」
     振り返る瞳にとくんと胸が弾む。この星の空気が合わない可能性を想定してつけられていたマスクは、必要ないと判断されて外されていた。全身を覆う長いコートも脱いで、白いシャツと黒のパンツを身に纏っている。シンプルな装いながら派手な印象を受けるのは、首元や指に幾つも付けた装飾や、開けすぎた胸元のせいだろうか。胸を開けたシャツはベルトで留められている。
     ともあれ、どうやら僕とこの人の――燐音の身体は同じ空気のなかで生きられるらしい。それがどうしてか少し、僕は嬉しかった。
    「にしても。やっぱり旅はいいもんだよなァ。よその星の王子さまに出逢えるなんて、生まれ故郷に閉じこもってたらありえねえ幸運っしょ」
    「あなたはこの船で旅をしてるの?」
    「そ。こいつが俺っちの可愛い相棒」
     リンネは船体を気安くパシパシと叩いて笑ってみせる。
     見渡す限りのほとんどが荒野で穴ぼこだらけ、特に何の資源もないこの星に、好んでやってくる者は少ない。だから宇宙船というものをまじまじと見ることはあまりないけれど、時々ここから見える宙に漂う船よりは幾分か小型のもののようだ。交易の為に定期的に訪れる船とは較べるべくもない。それに、この船は小さいだけじゃなくて……正直、ちょっとオンボロだった。事故同然に不時着したことを差し引いても。
    「ボロも一緒に数多の困難をくぐり抜けた思い出の証……ってなァ。こうやって、ちっと知らねえ星に漂着するくらいのことは何回もあったし。こんなの屁でもねえんだけど」
     船に触れる手は優しく、白く丸みを帯びた船体は、燐音に撫でられればまるで船のお腹のように見えた。それを見つめる遠い目が、これまでの旅路を物語っている。
    「だいぶガタが来てたんだろうな、このままおシャカってほどでもねえけど、今回は修理にもうちょい時間がかかりそうだわ」
     ついでにメンテナンスもしてやりてえし、と燐音は船を見て呟く。
     僕には宇宙航海について何の知識もないけれど、これも何かの縁だ。何か手伝えることは……そう言いかけたところで燐音がこちらを向いて、口の端をニヤ、と上げた。
    「ってことでさァ、王子サマ?」
     無防備に開いた白いシャツの胸元。そこに、リンネの手のひらがすっと潜り――
    「ちょいと人質になってもらおうか」
     僕の眼前に銃口が向けられ、笑みを貼り付けたまま、燐音は告げる。
    「俺っち、海賊なんで♪」


     ◇


    「ねえ燐音。これ、外してもらえないかな?」
     何を指しているか燐音にも見えるよう腕を顔の前まで上げると、ジャラ、と重たい金属音が鳴る。僕の両手首に嵌められた手錠、そこから垂れる鎖の音だ。
    「あァ?頼まれて人質の手錠外す悪党がどこにいンだよ」
    「こんなことをしなくても、僕はあなたの手伝いをするつもりだったのに」
    「うさちゃんに何ができるってんだ?」
    「わからないけど、あなたの望むことで僕にも可能なことなら」
    「会ったばっかりのおまえさんの言葉を信じられるだけの証拠がねえ。それよりこの星の大事な王子サマを人質にとりゃあ滞在中の食いもんと、ついでにこの星いちばんの宝物も手に入る――っつう寸法だったんだけど……」
     燐音はそこで言葉を切り、下を向いてわざとらしく眉を寄せた。
    「マァジでこの星、うさちゃんしかいねえのなァ……?」
     燐音のため息に呼応するように、足元でちいさなうさぎたちがブーブーと鼻を鳴らす。
    「うっせえうっせえ。取って食いやしねえよ、おまえらも、おまえらの大事な王子サマも」
    「ウム。皆、静かに。心配しなくても大丈夫だよ。燐音は嘘をついていない。そういう目をしていない」
     僕が声を掛けるとうさぎたちの合唱はピタリと止み、皆一斉に姿勢を正した。それでも少々、警戒心を露わにしている感じはするけれど。
    「あまっちょろい王子サマだなァ。ンな根拠で信じちゃっていいワケ?」
    「最初から、あなたからは邪悪な気配を感じ取れない。敵でないものと争うのは好まないし、見ての通りの寂しい星だよ。争いで何かを得るよりも、今あるものを守りたい……それが僕らの総意だ」
     燐音はうさぎたちが持ち寄った食糧をつまみながら、ふぅん、と鼻の奥を鳴らすような曖昧な相槌を返した。
    「それに何より……」
    「なんだよ?」
    「僕は強い」
     ちからこぶをつくって見せるとうさぎたちは前足を上げて立ち上がり、耳を立てつぶらな瞳を輝かせて賞賛を表した。そのなかで燐音はひとり、ぱちくりと瞬きをする。
    「ふふん、こう見えて鍛えているからね。それもこの星を守るため。王子としての使命だよ」
     だからたとえ燐音が、さっき僕に突然銃口を向けたように思いがけず牙を剥いたとしても、あなた一人くらいなら。武器を持っていることを考えれば少々手強いだろうけど、せめて相討ちには持ち込めるだろう……否、そうしなければならないのだ。僕はこの星を守る、王子だから。
    「アッハハハハ!そいつぁ怖ぇうさちゃんだ。怒らせねえよう気ィつけるよ」
    「ム。信じていないだろう?」
    「ンなことねぇよ。ま、見たところこの星にゃァおめえさんの言う通り大したもんはなさそうだしな。船が直るまでのあいだ、海賊サマの話し相手になってくれりゃァそれでいいぜ」
    「フム、承知した。今はこうして僕が捕らわれている状況だけど、実際、あなたは漂着者でもある」
     ここに辿り着いたときの様子を見ればそれが想定外の出来事だったことはわかる。それに、もし侵略するつもりならもっと大所帯で攻め入るだろう。
    「困っている者は救ける。それが僕の正義だ。必要量の食糧は用意するし、僕らに可能な手伝いはしよう。だから……」
     燐音と僕のあいだで、パチ、と視線が合わさる。
    「怪我がきちんと治るまでここにいるんだよ、燐音」
    「……気づいてんのかよ」
     ちいさくそうこぼしたリンネは苦い顔でそっぽを向き、汚れた口の端を少し荒っぽく拭った。


     ◇


     燐音が漂着して二日。
     相変わらず僕は手錠を掛けられたままで過ごしている。
     僕の手首にある手錠は頑丈で、ちょっとやそっとでは外れそうにない。けれど、両手首を繋ぐ鎖には随分ゆとりがあった。じゃらじゃらと鬱陶しくはあっても、生活にはほとんど支障がない。その手錠にさらに長い鎖が繋がれ、燐音の座る玉座――元々これはこの星の王が代々受け継いできたもの、つまり今は僕のものだ――に括りつけられている。やはりこれも十分な長さがあって、捕虜にされているにしては些か拘束力に欠けるような……そんな印象があった。
    「なァ王子サマ」
    「名前で呼んでほしいと言ったはずだよ」
     お兄さんだの王子サマだのといった呼称が寧ろ、燐音の取り繕ったような軽薄な口調を助長させている。それが、その無理矢理に作られた距離感が、突き放されているようで少し嫌だった。
    「へいへい。一彩ちゃん」
    「何かな?」
     『ちゃん』というのにも違和感を覚えるけれど、名前で呼んでほしいという願いには応じてくれたんだ、そこは目を瞑ることにする。
    「この星にある食糧ってどうやって調達してんの?」
     明らかにこの星で作られてなさそうなもんもあるけどと、燐音が窓の外を見遣る。
    「ウム、ここで自給自足できるものもあるけれど、それ以外はほかの星と交易しているよ」
     僕はここから離れたことがないから知識としてしか知らないけれど、ほかの星々はそれぞれ環境がガラリと違うらしい。それは寧ろ燐音の方が実感としてよく知っているだろう。
    「こちらから輸出するものは砂とか石とか……そういったものが主だね。建築資材に使われたり、星によっては燃料として使うところもあるらしい。あとはほとんどがにんじん」
    「ふはッ。うさぎだもんなァ」
    「ここのにんじんは美味しいよ」
    「うん、知ってる。悪くねえな」
     燐音に渡すのはほかの星から得た食糧が多いけれど、何せ自慢の品だ。にんじんも毎食供している。
    「けどやっぱ、地球のとは違うんだろうなァ」
    「ちきゅう……?」
     聞いたことのない言葉だ。そこにもにんじんに似たものがあるんだろうか。
    「そ。遠い遠い昔にバラバラになってこの広い宇宙に散った、母なる星だ」
    「母なる、星……」
     遠くを思うように細められた燐音の瞼の奥に、深く透る青が揺らめいて見える。
    「今生きて活動してる、なおかつ栄えてる星のほとんどは元々地球だった星のいちぶだったり、地球から移り住んだやつらが祖先だったりって具合でな。俺っちの故郷もまァそんな感じ」
     燐音はきっと、物を語ることが上手だった。目を薄くとじて語り聞かせる声は深く、選ぶ言葉はさらさら流れる旋律となって、耳に心地好く響く。僕まで広い宇宙の遠い昔のとおくの星へ、ここにある肉体を置いて誘われるようだ。
    「地球にはなァ、海があったんだ」
    「うみ?」
    「うん。海ってのは広くて深くて、見渡す限りぜ〜んぶが水なの」
    「水?そんなにたくさんの?」
     水というものは知っている。この星にも随分昔、僕から数えて何世代も前の王が治めていた時代に導入されて、それ以来育てられる作物がうんと増えたのだとか。僕やここのうさぎたちはこの星に適応した生きものだから、本来ここになかった『水』がなくても生きていくことはできるけれど。あった方が『より良い』のだ。にんじん然り、水をつかって育てた作物の方がほかの星の者にも人気が高い。そして何より、目に見えるけれど形はなく、触れられるけれど掴むことのできない、透き通ったそれは、ほかの何かに喩えようのない魅力を持っていた。
     それにしても、ここでは農耕のごく一部にしか使わないそれが見渡す限りぜんぶ……なんて、想像するのも難しい。
    「地平線、ってあるだろ?」
    「うん」
    「地球には『水平線』って言葉もあったんだ。それくらい海は広くて、太陽に照らされた明るい空を映して青いんだって」
     広く深く、たくさんの水を湛えた海。見たこともない、想像もできない。けれど惹かれてしまう。燐音の口から語られたそれは僕のなかで、初めて逢ったときに目にした燐音の瞳に重なる。あの、青に。
    「俺っちはそれをさがしてんの」
    「それ、というと……海を?」
    「うん、海。海をさがしてる」
     そうして燐音の青は僕の前で煌めき、瞬きの後にはもう長い睫毛の奥に身を潜めた。もっと見ていたかったと、胸のうちで声がする。
    「俺っちの故郷はさ、すげぇ閉じた場所だった。宙はバカデカいシェルターの屋根に覆われて見えない、ホントウの歴史も自由な芸術も、その外側にしかなかった……『内側』はその星の、それもいちぶの人間の未来のために純粋培養されたものしか認められない。そういう、息苦しいとこだったんだよ」
     だから宙に飛び出してきたんだ、と。
     燐音は、少年のように笑った。
    「海のことは、『外側』で見つけた本に書いてあった。大昔にバラバラになった星の話だ、もう失われたものだってのはわかってるけどさ、どこにもないとは言いきれないっしょ?」
     これまでずっと、この荒涼とした星のことしか知らず、それ以外を考えたこともなかった僕だ。燐音の星のことさえ想像がつかない。それなのに、かつてどこかにあった星の海という神秘なんて、絵空事か寝て見る夢か何かのように思える。あるかないかもわからない。そんなものに恋い焦がれ、追い求められるこの人はとても逞しくて、眩しい。そう思った。
    「いくら安全な環境でも、それを守るために決まりきったことしか存在を許さないチンケなシェルターのなかより、予測不可能で危険ばっかりでも果てのない宙の方が、俺っちは好き」
     今のこの星に、ヒト型の生きものは僕しかいない。時折訪れるほかの星の者のなかにはヒト型の者もあったけれど、こんなふうに……この人みたいに笑う人を、僕ははじめて見た。感情豊かで目が離せないこの人に、心を奪われていくような。その感覚がすこしこわくて、だけどそれ以上に、心が跳ねていた。うれしそうに、愉しそうに。ああ、海に焦がれたこの人ももしかしたら、こんなふうに。
    「ねえ、燐音」
     慣れないリズムで心臓が脈打つのを隠しながら、燐音の傍らに寄る。繋がれた鎖が重く音を立てた。
    「身体に、触れてもいい?」
    「からだ?」
     聞き返す燐音に頷きながら、はだけた胸元へ手を伸ばす。
    「おい、まだ返事してねえっしょ?」
    「大丈夫。悪いようにはしないよ」
     胸のベルトを外し、解いて、留められているボタンも一つ二つと外していく。
    「おいコラえっち。急に脱がしてんじゃねえ」
    「ム。思ったより酷い怪我じゃないか……」
     左半身を庇うような動きをしていたから多分肋骨だろうとあたりをつけていたのだけど。
    「折れてる。よく平然としていられるね」
    「な……。触るだけでわかんの?」
    「うごかないで」
    「いやおめえもう少し説明を……」
     シッ、と小声で制するとようやく燐音は口を噤んでくれた。僕も燐音の胸に当てた両手のひらに意識を集中させる。
     僕の手のひらと燐音の胸と。接したそこが、ポオ……と淡い光を放つ。
    「……!」
     白い光。その発光がピークを迎えたのを見届けてから、口を開く。
    「この星には見ての通り、純粋なうさぎと、僕のようなヒト型のうさぎがいる。ヒト型のうさぎは代々この星を統治してきたんだけど、そのなかでも生まれたときに白い光を宿していた者――生きものを治癒する能力を生まれつき備えている者が統治者、王として選ばれてきたんだ」
     当代では僕が、それにあたる。
    「ほんとうは、ほかの星の者にはあまり見せないようにと教わっていてね。出来れば内緒にしておいてほしい」
     僕の話を、燐音は微動だにせず静かに聞いていた。
    「……ふう」
     発光が止んで、辺りには元通りのやさしい闇が戻る。
    「終わったよ」
     僕が肩の力を抜くのに続いて、燐音も詰めていた息を吐き、さっきまで僕の手が触れていた胸元に手のひらを当てた。
    「痛みが、ない……」
    「ウム、上手くいったようでよかった。でもまだ完全に元通りとはいかないし、急激な変化に身体が追いつかずにほかの異常が起きる可能性もある。せめてあと二、三日は安静にしていてくれ」
    「なんで……」
    「ウム?」
     僕を見る燐音の切れ長の目は、静かだった。
    「なんで治したんだ?」
     静かに僕の目を、その奥を覗いている。
    「ほかのやつに見せちゃダメなんだろ?こんな見ず知らずのどこの誰かもわかんねえ、それどころかおめえのこと拘束してる人間に、そんな力使ってよかったのかよ?」
     向かい合う二人のあいだに静寂が訪れる。僕を推し量る燐音の表情は、凪いでいる。
    「……ふ、ふふっ」
    「あァ?何がおかしいんだよ」
    「ふふ、ごめん。あなたはきっと、心根の優しい人なんだね」
    「はァ?」
     つい溢れてしまった笑みに、凪いだ空気はすっかり崩れて、燐音は眉をしかめながらもどこか呆れているようだった。
    「僕の推測だけど。ほんとうに悪い人間は、きっとそんなことを訊かないはずだよ」
    「そうだとしても。おまえさんはちょっと迂闊すぎるっしょ。星の主がそんなんで大丈夫なんですかァ?」
    「心配してくれてありがとう。僕はね、燐音。あなたに……」
     燐音は片側の眉をくいと上げる。ほら、呆れたふうでもこうして僕の言葉に耳を傾けてくれるあなただから。
    「あなたに海をみつけてほしいと思った」
     燐音の言うように、僕が迂闊だというのも一理あるかもしれない。だけど僕なりに、僕の目で、敵か味方か相手は見極めているつもりだし、それに。この人を信じることは僕にとってどんな理屈をも超える、自然なことだと思えた。
    「だからあなたの傷を癒したんだ」
     広い宙を自由に航海して、どこかにあるかもしれない海をさがすあなたに、僕は惹かれたから。


     ◇


     燐音が漂着して、四日。
    「今日も修理をしてきたの?」
     燐音は僕とうさぎたちとで用意した夜ご飯を、大きく開いた口に入れる。燐音の身振りや仕草のひとつひとつは、少々大袈裟に思えるほど大振りで豪胆だ。食べる一口も多いのか、飲み下すときに上下する喉仏の動きも大きい。
    「ンー、なかなか手間取っちまってなァ。ま、あともうちっと手加えりゃなんとかなりそうって感じ?だからあと数日間だけよろしく頼むわ」
    「フム。僕はいつまでいてもらっても構わないよ」
    「おまえさんはなんでそんなに俺っちのこと気に入っちゃってんだよ。ちっこいうさちゃんたちにはめちゃくちゃ嫌われてんだけどォ?」
    「警戒心が強いんだよ」
    「どっちかってェとヤキモチっしょ」
    「うん?」
     燐音はつぎの一口を頬張りながら、おまけに普段よりいくらか小さい声だから聞き取れない。聞き返すと燐音は、「なんでもねえ」とミートソースのパスタに手を伸ばした。
    「通信機が使えりゃァ救援も呼べたんだけどなァ」
    「救援?」
    「仲間に」
     道具が足りないからああだとかこうだとか燐音が話す内容が、耳に届くもそのまますり抜けていく。
    「仲間が、いるのか……」
    「んァ?あー、一応なァ。仲間っつうか利害の一致で偶然寄り集まったっつうか……って感じ。だから揃いも揃って自分勝手な連中なんだけど」
     でもそれがちょうどいいんだと、燐音は笑う。
     燐音にとって心地好い仲間と居場所があることは、とてもいいことだ。そのことに安心しながら同時に悟ってしまう。燐音はすぐに、ここを去る――考えてみればそれは、至極当たり前のことだった。もう少しで修理も終わるって、さっきだって話していたはずなのに。
     ――燐音の居場所は、僕じゃない。
     燐音が帰るべき場所に帰ること。それを無事に見送ること。それがこの人を救けると決めた僕の使命で、だから。
     僕のこの感情は、正しくない。


    (続)
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