植物園の片隅で学園の植物園の少し奥まった場所。
部活動に励む生徒も昼寝に勤しむどこぞの王子もいない静かなガゼボで開かれる小さなお茶会
多忙を極める二人が合間をぬって今日も逢瀬を重ねる。
先に着いたトレイは持ってきたバスケットからクロスを取り出しテーブルに敷いた。バスケットには拡張魔法を施してあるので見た目よりも物が入る。
「これで良し。後はアイツが来てからでも大丈夫だろ」
リドルに何度も眼鏡を買い替えろと言われたが俺の気持ちは変わらなかった。
オクタヴィネル寮のジェイド・リーチ
自分から告白をして早数カ月、このお茶会ももう何度目になるだろうか
― ジェイドが好きだ 俺と付き合ってくれないか? ―
― 勿論 喜んで ―
こんな普通の自分と付き合ってくれると思っていなかったからか随分と浮かれていた俺は最近ある事に気がついた。それはジェイドに『好き』だと言われたことがないのだ。告白の返事にしたって「喜んで」だったし
本当にジェイドは自分を好いてくれているのだろうか?兄弟のフロイドじゃないがその時の気分やタイミングで今の今まで付き合ってくれていたのなら申し訳ない。今日こそ聞いてみるか?そんな事を考えながらフォークや取り皿などを準備していたらジェイドが来た。
「遅くなってしまい申し訳ありません。準備は終わってしまいましたか?」
約束の時間よりも十分程早く着いたにも関わらず申し訳なさそうに眉をハの字にする。
「お疲れ。大丈夫だよ 丁度カトラリーなんかを出し終えたところだ」
「ではお茶をお淹れ致しますね。今日は先日手に入った極東の国のお茶です。野バラの蕾を使用していてとても香りがイイんですよ。」そう言いながら空間魔法で出したガラスのティーポットにお湯を注ぐ。
「玫瑰紅茶と言うそうです。」
ジェイドの言っていた通りバラの香りが強い紅茶だがほんのり甘く飲みやすい。
「香りが良くて上手いな。」
俺の故郷の薔薇の王国は其処かしこにバラが咲いているせいか常に花の香りを感じる。おかげで外に席があるカフェで紅茶を飲むと自ずとローズフレーバーになってしまう。まぁ地元の人間は慣れているのであまり感じることはないが故郷を離れているとそこそこ感じる。そんなことを思っていたら
「まるで貴方の故郷にでもいるかのようですね。」
びっくりした。自分と同じことを考えていたなんて
「このお茶を知ってから貴方に会えなくて寂しくなったら飲むようになったんです。少しでも貴方を感じたくて」
いつもの笑顔で言うジェイドだが耳が赤くなっている。照れているのか?
こっちまでつられて顔が熱い。
「っそんな風に思っていたなら電話でもメールでもくれればいいのに。直ぐに出れなくても折り返すぞ」
なんとか返すがジェイドが伏し目がちに言う。
「寮生の頼れるお兄さんな貴方はお忙しいでしょ?だからいいんです。」
仕方がなさそうに諦めたかのように言われた。俺は馬鹿だ…こんなんじゃ好きだなんて言ってもらえるわけないじゃないか。
「ごめんな こんなんじゃ恋人失格だな…」
「いいえ。僕が勝手に気をまわしているだけなのでお気になさらないで。貴方の事が好きだから手を煩わせたくないだけなんです。」
初めて聞いたジェイドからの『好き』だけどもう少し違う形で聞きたかったな
でもジェイドも好きでいてくれていた事がわかったし結果さえ良ければいいか。
「お詫びにもならないかもしれないが、いっぱい作ってきたから食べてくれ」
そう言いながらテーブルにクッキーやマフィン、パウンドケーキにタルトと出していく。
トレイのスイーツとジェイドの紅茶
今日も植物園の片隅で恋人たちの小さなお茶会が行われる。