また、モクマは逃げた。
どこへ逃げた、など探す気も失せた。
駒共は私に媚び諂い、モクマなど弱虫だ、モクマは逃げ足だけは速い、など姦しい。
モクマは私に背を向けること無く、いつも忽然と、その場に初めから居なかったように、消える。
それがやけに腹立たしい。
奴は私の姿を察した瞬間、消える。
なんといじらしいことか。あぁ、憎い。貴様が憎い。
捕まえようにも消えてしまう貴様が、憎い。
モクマ。
モクマ。
モクマ。
いずれ貴様をこの手で捕まえて。
傅かせ。
フウガ様、と呼ばせ。
その目に涙を流させ。
忠誠を誓わせてやる。
私や駒共に何をされても泣かずに逃げるお前を。
この手で、私が、必ず!
「……」
大樹の上に、モクマは一人。
その木は大きく枝を伸ばし、モクマをすっぽり自らの内に取り込んでしまう。
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