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    遊兎屋

    @AsobiusagiS

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    遊兎屋

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    【虎伏】現パロ
    2人が消防士で昔の思い出を語らうお話

    ワンライお題【振り返る】
    消防士虎伏



    「なー、ふしぐろぉー」
    「ん…?」

    起きてすぐ声を掛けられて隣で枕を抱き込み携帯を眺めている虎杖に目を向ける。
    なんだ?と言葉には出さず目で訴えかければ、携帯の液晶画面を向けられる。
    横向きになって画面に顔を向ける

    「これ、めちゃくちゃ懐くない?」
    「…?いつ撮ったやつだそれ」

    画面には虎杖と俺と釘崎
    紺色の活動服に帽子を被って、泥だらけで満面の笑みを浮かべている写真
    写真を見て、いつのものだったか思い出す。

    「地獄の土嚢搬送訓練」
    「あー…」

    虎杖が声を震わせておどろおどろしく言う。
    なんだその言い方、まあ、分かる

    「あれほんっとキツかったー、パンツまでびしょびしょだし、滑って泥だらけでさー」
    「お前他の人の分まで運んでたもんな」

    台風や地震などの自然災害、その時馬鹿にならないのが土嚢
    土嚢の組み方や隙間の消し方など結構奥の深いそれは土を掘って土嚢袋に詰め、口を縛る。
    それを目的の場所まで持っていき形を形成する。
    やり方を説明すれば簡単に見えるが、実際にやったらそれはもう大変だ。
    土は水を吸って重くなるし、足場は悪い中土嚢を搬送、スコップで土を掘り起こす作業もなかなかキツい。
    しかもだ…何事もキツいことは良いことだと、負荷を掛ける教官が気まぐれに教育生に放水してくるのだ。

    「伏黒、教官に放水されてぶっ飛んでたよなー」
    「思い出すな」

    ケラケラと面白そうに笑いながらまた画像を漁り始めた虎杖を見つめる。
    勤務明けで、2人で睡眠不足分を昼寝という手段で補って起きたばっかりだが、この様子だと虎杖はもっと前に起きてたのかもしれない。

    「あ、これなんてどうよ」
    「……おい、お前馬鹿にしてんだろ」

    次に出された画面に写っていたのは逆さ吊りの俺の写真
    なんでそんなん持ってんだよ馬鹿

    「伏黒ロープ渡るの苦手だったもんな」
    「これ、自主練の時のだろ…」
    「あ、思い出した?俺が伏黒をいっぱい助けてあげたんだよなぁ」

    苦手な救助訓練
    コツが掴めず毎度ロープから落ちる俺と、力尽きた俺を救助に来る役目の虎杖
    ロープで痣をいっぱいつくった今になっては良い思い出
    途中からおふざけで、助けを求めるためには虎杖にお願いをしなければならない。なんて屈辱なルールまで追加されたのを今でも覚えている。

    「助けてもらうはずの伏黒がスゲェーがら悪くてさぁ、釘崎めちゃくちゃツボってたな」
    「あいつの発案にいい思い出はいっこもねぇ」

    写真を見返して楽しそうに昔を振り返る虎杖をじっと見つめる。
    髪の毛は少し伸びたか?
    体格も一回りでかくなったか?
    人たらしな性格は昔も今も変わらず健在
    俺は会ってからずっとこいつのブレない正義感が好きだった。
    初めて会った時のことを憶えてるのか知らないけれど、俺がこいつを初めて見たのは試験日の時
    目の前を歩いて会場に向かっていたのが虎杖だった。
    試験の前なんて出来れば余裕を持って会場に行きたいし面倒ごとには巻き込まれたくないだろうに、こいつは迷子で泣いている女の子に声を掛けた。

    迷子なんて交番に案内すればいいし、最悪何もしなくても親と再開する。
    親は必死こいて探してるんだから放っておいても大丈夫だろう。そう思う俺は冷めてるのか。

    その時はこいつが同じ試験を受けると思ってなくて、こいつは善人なんだな、なんて横目に見て会場に向かったのを覚えている。
    そのあと試験会場に駆け込んできた虎杖に呆れたと言った方がいいかもしれない。

    「どうした?伏黒、まだ眠い?」
    「いや…思い出してた。憶えてるか?俺が過呼吸で倒れた時のこと」
    「あー…」

    じっと見つめ過ぎたのか虎杖が不思議そうにこっちを見てくる。
    苦虫を潰したように渋い顔を作って見せれば、虎杖も苦い顔を浮かべる。
    2人1組での救助訓練
    真っ暗なフィールドに障害物があり、それを避けながら要救助者を検索、救助するといった内容の訓練
    連れて行かれそうな変な恐怖があってもともと暗闇が得意じゃなかった。
    防火服を着て空気呼吸器を背負い虎杖が先頭に立ってフィールドに進入
    簡潔に言えば要救助者は設定されておらず、俺の空気呼吸器の残圧は半分以下だった。

    目の前が暗く虎杖の姿を追うことでさえ難しくて、必死になって後を追っていた。
    時々声が聞こえてきて虎杖の存在を確かめていたのに、急に残圧の少なさを知らせる警笛が鳴り始めた。
    一瞬のうちに、どっちの警笛が鳴っているのかを考えばっと自分のメモリを見る。
    残圧0まで数分の数値を示しているそれに焦る。
    なんでだ?漏れてる?残圧が元から無かった?
    警笛の鳴っていることを虎杖に伝えようと、目の前にいるはずの場所に手を伸ばした瞬間、手が空気を掴む。
    それが駄目だった。
    焦りから呼吸は早くなる。
    それに合わせて残りの残圧はいつも以上に減りを早くする。
    残圧が少なくなると警笛が鳴るのを止める。
    供給される空気が止まれば、息は出来ない。
    それすら頭から吹っ飛びグッと詰まった息に余計にパニックを起こす。
    呼吸が出来ず引き攣る声が溢れバタバタと手を上下させる。

    「伏黒ッ!伏黒!落ち着けっ!」
    ガッと腕を掴まれ、面を外される。
    「ひッ、ぁ、、はっ、はぁッ、ひ、」

    力強い声と目が俺にむけられて、目の前に滲んだ虎杖の顔が浮かび上がる。
    過呼吸
    知識があっても呼吸を意識して落ち着かせるのはなかなか難しい。
    ひゅっひゅっと喉が音を立てて過剰に酸素を吸おうとする。
    目の前が霞むし手足も痺れる
    虎杖の手を握り締めて苦しさをどうにか抑えようと躍起になる。

    「伏黒、大丈夫、俺がいるから、大丈夫、息吸って、吐いて…そ、ゆっくり」

    徐々に落ち着いてくる俺を虎杖はずっと声を掛けて支えてくれていた。
    ああ、こいつは俺の傍に居てくれるんだと、心配を払拭させるための声掛けだったとしても嬉しかったのを覚えている。
    暫くしてバチっと音がして、フィールド全体が明るくなり教官が駆けつけた。
    訓練に負荷をかけるのは成長のため
    俺と虎杖は訓練生の中でも成績が良く、少し強めに負荷をかけられたと後で知った。
    ただ、その一件があってから暗闇は余計に苦手になった。夜道ならまだなんとか歩ける。

    「あの時、お前に惚れた」
    「えっ!急に、そういうのぶち込んじゃう?」

    俺の話を聞いていた虎杖に手を伸ばして今まで言ったことのないそれを伝える。
    目を開いて驚く虎杖にしてやったりと笑ってやる。
    伸ばした手は絡め取られてにぎにぎとなにかを確認するように握られる。

    「へへ、そっか、そっかぁ、あの時かー」

    嬉しそうに顔を緩める虎杖に急に恥ずかしくなって枕に顔を埋める。
    グッとベッドが傾き虎杖の温もりが近付くのに気付く。

    「俺も伏黒のこと好き。俺のこと見てくれてるところ。」

    ちゅっと頭にキスが落ちてきてぎゅっと抱き締められる。
    体温の高い虎杖の温もりと力強さにふっと笑って顔を寄せる。

    「お前この間訓練中に吐いたんだってな」
    「え、なんで知ってんの!?」
    「先輩から聞いた」
    「えー!恥ずかしっ、伏黒には言わないでって言ったのに!」

    なんだよそれ
    くすくすと笑い合ってお互いの距離を縮める。
    するりと擦り寄ってくる虎杖の頭を撫でて、刈り上げられている後頭部の手触りを楽しむ。
    振り返って見れば俺はこいつに助けられてばっかりだ。
    無性に伝えたくて、虎杖の顔を両手で挟み込み固定し、驚きで固まる虎杖の目を見つめて息を吸う。

    「好きだ、お前が居るから頑張れるし、お前が居るから俺は俺でいられる。ありがとな」

    らしくない。
    それは自分が一番思っているし、羞恥心で顔が赤くなってきているのも自覚している。
    ただ、目を離したくなくて、綺麗なまんまるい瞳を見つめる。

    「ああ、もう、なんでそんなに可愛いことすんの?」

    両手に虎杖の手が重なる。
    握り締められた手が頬から離されて虎杖の顔が近付き柔らかく唇同士が当たる。
    ちゅっと音を立てて離れた唇にこくりと喉が鳴る。

    「伏黒、俺も好きだよ。誰よりも伏黒に頼られるのが1番嬉しい。俺を必要としてくれてるって思うと幸せだし、俺が居ても良いんだって思える。愛してる」

    ちゅっと握り締められた左手の薬指に唇が当たる。
    へらりと照れたように笑った虎杖にこっちまで恥ずかしくなる。

    「あーーー!恥ずかしい!なにこれ!恥ずっ!」

    ガバッと起き上がった虎杖が体をくねらせ気持ち悪い動きをしながらベッドから降りる。

    「めぐみちゃんに辱められたっ!」
    「おい、なんでそうなるんだ」
    「きゃーー!襲われるーッ」

    照れ隠しなのかなんなのかバタバタと部屋を出て行った虎杖が可笑しくて思わず笑ってしまう。
    なんなんだ全く
    身体を起こしてくわりと欠伸を一つ
    まだ夕暮れ時だけれど、昼ごはんを食べていない身体は素直に空腹を訴えてくる。
    明日もまた仕事だ
    良く食べて良く寝る
    仕事中には出来ないことをしっかりと休みの日にしなければ身体が保たない。
    それは2人とも知っている事だ。
    ゆっくりと起き上がって虎杖の後を追う。



    「調子乗ってコケるなよ、また鼻血出すぞ」
    「もーー!なんでそんなことまで知ってんの!?」







    end
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