宿伏
2021年
伏黒生誕祭
ぽこん、ぽこん
枕元に置いていた携帯からの通知音で意識が浮上する。
12月に入ってから寒さが増していく朝は肌寒くて温もりを求めて布団の中で脚を擦る。
その間にもぽこぽこと音を鳴らして早く見てくれと催促してくる携帯に手を伸ばす。
「んぅ…るせぇ」
瞼が持ち上がるにはまだ重すぎて震えるだけで視界は開かない。
手探りで携帯を探してシーツを撫でていれば冷たい感触があってそのまま携帯を手繰り寄せる。
うっすらと開いた視界に携帯の画面を入れようとしたところで隣から大きな手がぬっと伸びてきて携帯が奪われる。
「あ…っ、おい」
放り投げんばかりの勢いで男の背後にあるサイドテーブルへと置かれた携帯がかしゃんっと音を立てる。
どうにか取り返そうと巨漢が横たう上を乗り越えようとすれば男の腕が身体に巻き付いて抱き締められ抵抗すらも押し込められる。
「っ、ぐ、ん…すくなっ、携帯」
「必要ない」
「はぁ?任務の連絡かも知れないだろっ」
「それはない」
「っ何を根拠に!」
抑え込まれてしまえば体格差から今の状況をひっくり返すのも難しくて宿儺の気まぐれだかなんだか知らないが言い寄る。
勝手に取り上げられたんだ、文句も言いたくなる。
そうして噛みついてみれば小さな溜息が聞こえて顎が掴み上げられて宿儺と目が合う。
「…おい?」
ジッと見下ろされたかと思えばいきなり後頭部を掴まれて宿儺との距離がゼロになる。
「んんっ!?」
ガブリと食いつかれるようなキスに驚いていれば直ぐに舌が割入ってきて口腔内を舐めあげられる。
手は胸元で宿儺の体と俺との間に挟まれていて、蹴り上げようとした脚は宿儺の脚が絡み付いて来て失敗に終わる。
「ん…ふ、ぁ…」
「は…」
抵抗を続けていれば息苦しくなり、昨日抱かれたばかりの身体は快感を欲し始める。
俺の限界を感じたのかゆっくりと口が離れて髪の毛を梳くように撫でられる。
「…はぁ、も…急になんだよ」
「今日はお前の生誕の日だろう?めぐみ、お前に祝福を」
ちゅっと柔らかい音と共に宿儺の唇が額に押し当てられる。
ああ、もうそんな日か…
ここ最近忙しくて自分の誕生日なんて忘れていた。
ゆっくりと名残惜しげに離れていった唇を追って、宿儺をみれば小さく笑ってどうせ忘れていたのだろう。なんて言われる。
「携帯は返すぞ、俺がいの一番に祝えたからな」
「…ありがとう」
戻された携帯に目を向けて画面をみれば虎杖や釘崎から祝いのメッセージが、五条先生からはスタンプが鬼のように届いていて呆れと共にあの人らしさに小さく笑ってしまう。
てっきりベッドから早々に出ていくと思っていた宿儺がベッドに肘をついて俺を眺めていて珍しいなと思う。
いつもは直ぐに起きて朝食を作りにいくのに…
「宿儺?」
「出来るならばもう少し俺に独占させてはくれまいか?」
あっさりと携帯を返してくれたからもう満足したのだろうと思っていたけれど、そんな事は無かった。
宿儺にしては少し伺うような表情を浮かべて控えめに聞いてくる。
その様子に心がくすぐられて携帯を離せば宿儺に向けて手を広げてやる。
「もちろん。…愛してくれるんだろ」
「ケヒッ、ああ」
挑発する様に笑って見せれば宿儺の目に熱が篭るのが見えて胸元に入り込んでくる。
背中に回った太い腕が俺の身体を締め付けて首元へ擦り寄ってくる宿儺の吐息につられて息が漏れる。
「めぐみ」
身体を弄(まさぐ)られながら低く甘い声が響く。
性感帯を煽るような触り方ではなく心地良くて暖かいそれに瞼が落ちてきそうになる。
「ん…」
「めぐみ、寝るな」
腕の中にあるふわふわとした髪の毛の手触りが良くて撫で回していれば胸元から宿儺の声が聞こえる。
「寝てない…」
「ふ、そうか」
俺の言葉にくつくつと笑うと同時に宿儺の体が揺れて振動が伝わってくる。
仕方ないなぁと呟く宿儺の髪の毛を好きなだけ触っていれば首筋にちくりと痛みが走る。
「ん…宿儺、痕つけるな」
「後でいくらでも治してやる。知っておるだろ」
首筋のつぎは鎖骨へ
何度も治したのを忘れたかとそんなニュアンスを含めた言葉に何も言えなくなる。
俺のはいくらでも治すくせに快感で訳が分からなくなって俺から宿儺へつけた傷や痕はご丁寧に残す。
そんなところも意地悪い
気付いた俺が騒いで一悶着あるまでを面白がっているきらいがある。
「んっ、ん…っ」
気付けば宿儺に覆い被さられ頬を撫でられ、ゆるっと熱を持った身体が震えて視線を向ける。
「めぐみ、お前は誰よりも多くに愛されているなぁ…分かってはいたがどうにも腹立たしい…けれどそれ以上に悦ばしくもある。心というものはどうにもままならんな…」
困ったような言葉の癖に少し嬉しそうに笑う宿儺。
頬に大きな手が添えられて指の腹で何度も肌を撫でられる。
「俺は一等お前を愛している」
「…知ってる」
少し伏せられた瞼から紅い瞳が徐々に覗いて最後にはしっかりと見つめられる。
宿儺の意志のこもった強い視線に微笑み、付き合ってからというもの一身にその愛情を受けている身としてはっきり言い切る。
どれだけお前に愛されているのか。
不安のかけらさえ出来ないほどに長く愛されて自覚した。
「俺を愛してくれてありがとう」
俺なんか、なんて言わない。
満足そうに笑う宿儺に軽くキスされてまた抱き締められる。
ベッドでごろごろとしながら肌や唇を好き勝手に啄まれて同時に何度も甘い言葉を浴びる。
「めぐみ、今日はどうする?何処か行きたいところはあるか?」
緩やかな朝の時間帯。
宿儺と触れ合いながら時間が過ぎていき、そろそろ動き出そうかと思っていたところで宿儺が聞いてくる。
遠慮せずなんでも言えと付け足された言葉に少しだけ考える。
「ここが良い…。今日はここで、あんたと俺で…2人で居たい。」
なかなかに恥ずかしい言葉を言った。
じわっと赤くなる感覚が広がって、隠すように宿儺の胸元へ顔を押し付ければすぐに大きな溜息が聞こえてくる。
「はぁ…お前は俺をどうする気だ?」
全く大きな独り言だ…
どうする気だなんて分かりきっている事だろう。
宿儺を翻弄できているならば上々だ。
「宿儺」
「なんだ」
「宿儺にも祝福を…」
愛してくれてありがとう。
その気持ちを込めて、宿儺の頬を両手で包んで顔を引き寄せ、額にキスをする。
宿儺の体がピクと跳ねて、固まる。
「お前は全く…一日中ベッドの中にいるつもりか?」
「それも悪くないな」
ぐうっと小さな唸り声と低い声で脅される。
やれるものならやってみろ。
お前と一緒にいられるならそれも悪くない。
end.