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    Unyanyanganyan

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    つかさ誕生日再掲

    誕生日前日譚/類司

    慎ましく君に贈りたい気持ち 五月十七日。

     それは、天馬司の、そうオレの誕生日である。皆がそれぞれにオレを祝おうとしてくれているのは、分かってしまっている。申し訳ないのだが、気付かずにいてやりたいのだが、祝ってもらえる事に自信があるのだ。

     家族の揃った明るいリビングには、もう綺麗に花が飾られていた。その中に混じった珍しい形をしたものを、何という花なのか母に尋ねる。それはフクシアっていうの、と教えられ、まるで人形が踊っているようだと返した。昔、ショーのまねごとをしてくるくる回っていたあなたに似ているわね、と母は笑った。

    「お兄ちゃん。今日は日付けが変わるまで眠らないでいてね」
    「なんだ、咲希。まさかオレの誕生日を祝うためにお前まで夜更かしする気か?」
    「いいじゃない、誕生日くらい」
    「だーめーだ、身体に良くないぞ。朝起きたら一番にお前の部屋に行ってやるから」

     もー、お兄ちゃんってば。と言って頬を膨らませる妹を撫でる。スマホのグループチャットが動いて通知音が鳴った。オレの都合の良い時間に合わせてみんなでセカイへ集まろうという内容だ。放課後ならば問題ないだろう。夕飯に間に合えば良い。

     そう、つまり隠す気がないものを気付かないフリは出来ぬという事だ。こういうことはサプライズ、とかするのがセオリーではないだろうか。だがオレは、そんな出来事の数々がどれも腹の底から笑いたいほどに嬉しかった。

     びこんと通知バナーが下りて、類、の名前が見えた。グループチャットとは別に、個人チャットにメッセージが届いたらしい。

    『司くん、少しいいかな』

     わざわざ動いているグループチャットから外れて、何かあっただろうか。

    『どうした、類。構わんが』

     送信ボタンを押すと、すぐに浮かぶ既読の文字にどきりとした。

    『ひとつだけ、僕の願いを叶えてくれないかな』

     二分後に届いたメッセージ。あ、類にも既読がすぐに届いてしまったな、なんて考えてしまった。類の願いとはなんだろうか。また無茶なことを言われたりはしないか? さすがにオレの誕生日だぞ。爆発なんかは無いだろう。

    『内容によるが?』

    『ああ、そうだよね』

     そう言ったきり、類は沈黙した。五分間、類の画面とにらめっこをして、長そうだなと画面を閉じた。

     そもそも、オレの誕生日に類の願いを叶えろなどと、可笑しな話しをするやつだな。普通なら逆じゃないか。普段だって、散々叶えているつもりだがまだ足りないか。欲張りで困る。
     それでも、オレはどうにも類には甘い。ヤツの喜ぶ顔を見たいと思ってしまう所がある。きっと今度の事だって、オレはうん、と言ってしまうだろう。そう認めればなんだか面白おかしくなった。ダイニングテーブルで踊るフクシアの花のように、類の垂らした釣り糸に引っかかってくるくると踊っているようだ。

    「それもこれも、オレが選んだことだが」

     はあ、とため息をひとつ溢したタイミングで、類から返事が来た。やっと来たか、三十分も待たされたぞ。しかめ面しながら開くメッセージ。


    『明日、君は沢山の人たちから誕生日を祝われるだろう。君が大切にして来ている人たちが、君への感謝を伝えられる日だから。
     無論、僕もその中の一人だ。みんなと共に、セカイで君に感謝を伝えたいと思っている。君の周りに、どれほど君を慕い、どれほど君に助けられて、元気付けられている人がいるか。明日はきっと、一日中君は忙しいのだと思うよ。
     ただ、もし、許してくれるのなら。僕は、一時間だけ君を独り占めしたい。
     明日の二十三時。疲れて眠たいかもしれないけれど。二十三時。日付けの変わるまでの最後の一時間を僕と過ごしてもらえないだろうか』


     読んだまま、スマホをソファに投げてしまった。ああ、なんだこれは。なんだ、これは。

     まともに家族と顔を合わせることも出来ない。まずいぞ、まずい。非常にまずい。まずは深呼吸しよう。スマホもちゃんと拾って。既読にしたからには、返事をせねば。ああ、どうしよう。なんと返そうか。
     顔が熱い。絶対に見られてはいけないような顔をしている気がする。落ち着け、落ち着こう。返事をして。なんと書こう。

     結局、返事をしたのは、それから三時間も後のことだった。
    『いいぞ』
     とだけ綴られた、悩みに悩んだ返事だったが、類からはすぐに『ありがとう、嬉しいよ』と返ってきた。

     このままでは、丸ごと一日中この胸の騒がしさと過ごさねばならなそうだ。
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    Replies from the creator

    Unyanyanganyan

    MEMOなんのカップリングでもない小説でもない独り言です。
    無題 一年前の夏。景色はあまりに鮮やかだった。絵の具を零したような彩度で飾られた風景と、全てが物語の一部のような日々だった。私は、彼女が好きだった。彼女が好きで、自分自身も好きになろうとしていた。自分を受け入れようとして、自分を許せる気がしていた。

     きっと上手くいくと思っていた。ゆっくりと、ゆっくりと、新しい何かが生まれてくるような心地に生きていた。

     それを、全部、捨ててしまおうと思ったのはいつからだったか。頑張って、努力して、我慢して、我慢して、我慢して、まだ頑張れて、まだ平気で、進み続けているうちにもうダメな場所にいる事にも気が付けなかった。
     鮮やかだった夏の景色は色褪せた。風に揺れる木の葉の音色が好きだった気がする。でももうそんなものは聴こえてこなかった。鉛玉を舐めているような毎日だった。人を憎んだ。憎くて、憎くて、この世界が消え去って欲しいと願った。何もかもがつまらなかった。くだらなかった。好きではなかった。そんな腐った感情を飲み下して笑った。人と会話を交わした。全ては嘘ばかり。何一つ興味もなくて、何もかもがどうでも良くて、私はただの嘘吐きになった。嘘が嫌いだった。自分も嫌いだった。自分が憎くて憎くて、殺してしまいたかった。つまらないくせに、楽しそうに過ごす自分が憎かった。
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