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    Do not Repost・東龍

    作った画像の雑多投げ場。他者の利用禁止。
    創作中心(R18含)&版権(健全)ぐっちゃぐちゃ。
    リアクション、気まぐれでON/OFF。

    ◆活動場や連絡先などまとめ
    https://potofu.me/t3nww7fk

    ◆完結→https://tapnovel.com/stories/24978
    ◆続編→https://tapnovel.com/stories/31859

    盗作者とその擁護者の無様な様子は、
    家族知人友人職場で見世物にして笑わせていただきました。
    商品化・自費出版等しているものを含む”私の作品”を
    交流(FA等)以外の目的で故意に、執拗に参考・模倣し、
    私の健全な創作活動を著しく妨害する方、及び
    その賛同者は偽計業務妨害として法的措置を検討。

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    Do not Repost・東龍

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    改行無しな配慮ゼロで置いてます。

    画像版とイラスト付
    https://galleria.emotionflow.com/45784/711328.html

    #オリジナル
    original
    #ファンタジー
    fantasy
    ##小説
    #創作小説
    creativeFiction
    #大食い大会
    #大食い
    gluttony

    大食い大会に出るKさん(2015年作の未完成を今更終わらせてみる Bは激怒した。 
     たまたま寄った街での買い出し中に、こんなポスターがあちこちに貼られているのを見たからだ。
    《今日のお昼頃! 大食い大会開催! 参加者さま大募集! 興味のある人は街の中央広場へレッツラゴー!! 豪華景品もあるよ!》
     中央広場に行ってみると、そこには大舞台が設置されており『大食い大会!』という看板やら何やらの飾り付けのために、多数の人で賑わっていた。
     Bは今すぐにでも大舞台の上に上がって、誰か適当にスタッフをめった打ちにしながら「食い物で、遊ぶんじゃねぇ」と叫び散らしたい衝動に駆られたが、Bはそんなに軽はずみな行動をするほど幼稚ではなかった。
     深呼吸をして、荒らぶる気持ちを落ち着かせてから「くっだらねー……」と、ぼそりと吐き捨てた。
     Bは幼少の頃、食べる物にさんざ困らされた。
     両親の顔は知らず、姉だけと近所の住人に物乞いをしたりして細々と暮らしていた。治安が悪い村に住んでいたので、せっかく手に入れた食べ物を横取りされる事もあった。
     姉が死んでからは、1人あちこちでいろいろな仕事をしたり窃盗をしたりして飢えを満たした。
     今思えばなんであんなに飢えていたのかというくらい、貧しく、飢えていた。
     ……大食い大会? 何ソレ、なんで多く食べることを競うんだ そのぶん、どこか貧しい地域に食べ物を送れるよね?
     Bがそうぶすくれていると、荷物持ちとして同行していたKが「BさんBさん」とBを呼んだ。Kは、壁に貼られている大食い大会宣伝ポスターを指差した。
    「大会の優勝商品が『2年間、東大陸内での買い物半額の権利』ですって!」
    「!? えっ、何それ、すげぇ」
     さっきまでの怒りが、ヒョローイとどこかへ飛んでいった。現金な俗人である。
    「………つっ、ぶぁぁあ! だから、なんだってんだよっ! ムカつく事に変わりねぇよ!!」
     しかし、食物・輸入品などが豊富な東大陸で“半額お買い物権利”はお得である。
     Bは、ここ東大陸でいつか自分の店(メシ屋)を持ちたいと密かに計画していた。その「半額」の権利を使って、今のうちに土地の権利や備品なんかを揃えておきたいなぁ、と思った。
    「…………Bさん」
    「あ?」
    「僕が優勝して、この“お買い物権利”をあなたに献上して差し上げましょうか」
    「!?」
     Kの奇特な申し出に思わずBの顔がほころんだ……が、Bはすぐさま、その表情を曇らせた。
    「バッ……カヤロウ! こんな、食べ物を粗末にするお遊びに参加するとか、お前、軽蔑するぞ!」
     ぷんぷん怒るBを尻目に、Kは軽やかに歩き出し、大会の受付で参加手続きを始めた。
    「………! おい、K……」
     BがKを制止しようと手を伸ばすも、逆に腕をとられ、そのまま顔を近づけられた。
    「あなたが得をするのなら、軽蔑結構。……あなたが食べ物を大事に思う気持ちはわかりますが、しかし、たまにはいいじゃあありませんか」
     Kが切れ長の目を細めて、妖艶な笑みを浮かべる。
    「ちょっぴりその不快な気分を我慢すれば、それで“利益”を手に入れられるのですから。………ね?」
    「………おい。別にLが近くにいるワケでもねぇのに、顔が近いぞコルァ……」
     Kは時折、腐っているLへのサービスとしてBにやたら接近をしたり、同性愛的な言動をしてLを大層、悶絶歓喜させる。
    「おや、失礼。ついクセになっていまして」
     KがニヤつきながらBからすすす、と離れる。
    「そんなん、クセにすんじゃねぇよバカ野郎。きめぇ……」
     いろいろ超人的なKが「優勝します」と断言し、本気を出すと言うのなら、きっと彼は本当に優勝するつもりなのだろう。
     Bは「食べ物大事に!」の理念と『お買い物半額権利』を天秤にかけ、まぁ、たまにはいいか、と長年の理念を捨てた。
     この時、Bは『普段、飲み食いをしない胃袋の小さい奴が、どうやって大食い大会を勝ち残ろうとしているのか』、少し考えればわかりそうな事に全く気がつかなかった。
     優勝したら、どこに土地を持とうか・家具はどんな物を置こうか、取らぬ狸の皮算用に忙しかった。

     
    「う、ぉうぇぇぇぇえ……! ぇっ………!」
     現在、Bの目の前で細身の男性が大きな皮袋に向かって、こちらが不安になってくるくらい嘔吐を繰り返している。
     嘔吐が落ち着いたかと思うと、男……Kは自らの指を何の躊躇もなく、口内に突っ込み、再び嘔吐を始める。
     1回戦の『ホットドッグ対決』が終わった後の選手控え室内で、Bは後悔した。
     何故、もっと早く『普段飲み食いをしない、胃袋の小さいはずのKがどうやって大食い大会で優勝するか』という事に気がつかなかったのか。
     ……いや。薄々、気がついていたと思う。
     しかし「Kは自ら意識して消化を早く出来るのだろう」とかどうとか、BはKを「超人だから大丈夫」と楽観的に決めつけてしまった。
     ……結果。“超人”には変わりなかったが、勝ち抜き方がとんでもなかった。
     食べたら吐く。単純に、ただのゴリ押しでKは大会を優勝するつもりだったのだ。
    「お、あ、ぁあっ……! えぅ……」
     聞くに耐えない生々しい声と音で、現実に引き戻される。
     Kはしばらく皮袋に顔を突っ込んだまま肩で息をしていたが、ふぃっと皮袋から顔を上げ、Bの方を見上げた。
    「………ふふ……この調子でいけば、優勝は確実ですね……!」
     口から垂れる唾液を手でぬぐいながら、Kが不気味に笑う。
    「腹に容赦なく食いモンぶち込めて、ソレを容赦なくゲロゲロ出来りゃあ、そりゃあ……優勝間違いねぇわな……」
     ちなみに、大会関係者に「試合後に吐くのはOKですか?」と訊いて一応「OK」とは言われているが、まさかこんな容赦なく毎回毎回吐き続けていくつもりの捨て身人間がいるとは、誰も予想だにしなかっただろう。
    「………K、棄権してくれ」
    「?! なんでですか」
    「オレが見てられないから。……あと、やっぱり食い物がもったいない……」
     青ざめた顔のBが、悲痛な声で訴える。
    「そんなぁ……! せっかく、Bさんを喜ばせるチャンスだというのにぃ……! ………あ」
     Kが何か思いついたのか、懐から小さな皮袋を取り出した。
     そして、大きなほうの皮袋内にある自ら吐いた汚物を手ですくい、その皮袋にべちゃべちゃと詰め始めた。
    「ちょ、何してんの?!」
     Bが泣きそうな顔でKを引き止める。
    「いえ……『もったいない』と、おっしゃるのなら後日“これら”を再度、食べればいいかな、と……」
    「やぁめぇてぇよぉぉぉぉ~~~~!」
     BがKから皮袋を奪い取り、その中身を大きい方の皮袋の中にベチョベチョと捨て、その口を縛った。
    「見てらんないよぉ~! やめてよぉ~! オレが悪かったよぉぉお~~!」
     BはKの肩を掴んで、ガクガクと揺さぶった。
    「でもっ、でもでもBさんっ!」
     Kが、真面目な顔でBを見つめる。
    「優勝したら、100ベルのモノが50ベルで買えるんですよ……?」
    「う」
    「500ベルのモノが250ベル!」
    「何をそんな得意げに当たり前の事を……」
    「お得ですよ! チャンスですよ?! “気持ち悪い、どうしようもない男”を犠牲にするだけで、その“お得”が手に入るんですよ?! ……お役に立たせて下さいよぉ~」
     一気にまくし立ててから、Kがしょげる。
    「不器用で無知で何も出来ない役立たず野郎が、唯一お役に立てるのが“体を張る事”なのですから……だから……」
    「いや……そんなコトはない……ぞ……」
     Kは一切間違った事を言っていないのだが「そうだな」と、あっさり肯定するのも可哀想なので、Bは適当に言葉を濁した。
    「お前が生きているだけで……その、えーと……こう、癒やされてる、から……大丈、夫、だぞぉ……」
    「……気遣って下さっているのがバレバレで、こちらの方が悲しくなってきますのでやめて下さ……あ」
     Kはパッと瞳を輝かせた後、おぞましい事を口にした。
    「じゃあ、究極の選択です。……僕にフェラ●オされるのと、このまま大会を優勝されるの、どっちがマシですか?」
     ────この人、何を言っているんだろう。Bはあまりの不可解さに意識が飛びかけた。
     ……いや、実はこういう“無茶苦茶な2択”を提案されたのは、初めてではない。しかし、それが何度目だろうが、言われたら気分は果てしなく悪くなる。
    「僕があなたのお役にたてる事といえば、あなたのために体を張る事か、性的欲求を満たす事しかありません……どちらが、まだマシですか?」
     嘔吐物の欠片を口の端につけたままのKが、穏やかに微笑む。………微笑みながら、Bに近づく。
    「僕、最近は歯を立てずに奉仕できるようになったんですよぉ……どうです? Bさんも僕の頭をわしづかんで玩具のように扱ってみませんかぁ……?」
     Kの笑顔が怖い。目が怖い。……ちょっと待て。寄るな。うわ、ちょ。
    「……待て! 待て待て待て! なんでその2択しかないの?! バカじゃねぇの?! 無理!」
     青ざめた顔のBが、部屋の隅に後ずさりする。背後には壁があり、これ以上はもう下がれない。
    「……あ、“殺す”という選択肢も追加して構いませんけど……」
     Kが妖艶な笑みを浮かべながら、じりじりとBの方に向かう。
    「あなたのお役に立ちたいのですよぉ……ねぇ、Bさん……」
     唇を奪われるのではないかと思えるほどに顔を近づけられ、同時にするりと自然に指を絡まれた。本能でBは「ひぃ」と小さく鳴いた。
    「だぁ! わかったわかった! た……“大会で優勝”のほうでお願いします! 頑張って、Kさん!」
     Bが観念して“息も絶え絶えのエール”を送ると、Kはニコッと笑った。
    「はいっ! 不肖K・L、Bさんのために優勝してまいります!」
     そのままヒャッホーイ、ワーイとKは控え室を出て行った。
     ………こんな、押し付けがましい親切なんていらねぇよ、こんにゃろう………。
     泣く寸前だったBだが「あれ? 今アイツが握ってきた側の手、って口に突っ込んでゲロゲロしていたほうの手じゃね?」と気がついた瞬間、控え室を飛び出し、廊下にある流しでKに握られたその手を真顔で洗いに洗いまくった。
     手を洗いながら、Kが以前にもこんな感じでBに2択を迫った時の事をふと思い出す。
     忘れてしまったが『何か』の選択肢と、もう1つは今のと同じ『僕に性的な行為をどうぞ』系であった。
     その時のBは多少の酒が入っており、何回も提案してくるKのその無茶な選択肢にイラついた感情のそのまま、微笑むKの鼻っ柱を殴った。
     Bは床に倒れたKの上に馬乗りになり「じゃあ、ただの性欲処理として穴という穴全部、“道具”として扱わせてもらおうかなァ」と顔を近づけ、胸ぐらを掴んでKを脅した。
     すると、Kの自虐的な微笑みが一瞬で崩れ、恐怖・嫌悪・焦りの入り混じった、泣きそうな表情に変わった。
     が、すぐさま先程までの自虐的な微笑みを作って「はい、よろしくお願いします」と、のたまった。嫌ならば、そんな自虐奉仕行為など提案しなければいいものを。
     Bは、Rに土下座してかろうじて聞き出せた『幼少期のKの性的虐待』の事情を知っている。Kが、自らそういう事に関連した話をするのは相当の苦痛だろう。精神的自傷行為にもなっているのだろう。
     Kにマジギレした事がバカらしくなったBは「冗談だ、バーカ」とKの上からどき、頭を軽くこづいた。
     せっかくの騎乗位を解いちゃうんですかぁ、とKは苦手なはずの下ネタをぼやいた。
     本当に哀れなヤツだ、と思った。今もまた、そう思った。
     
     2回戦目のメニューは、まさかの甘味『フレンチトースト』だった。
     厚く切られたパンは蜂蜜とバターに侵されビショビショで、しかもご丁寧に粉砂糖も大量にまぶされていた。「どこまでカロリーを高くして、体を壊させて町医者に儲けさせる気なのか」と、Bは顔をしかめた。
     大会の舞台から1段下がった観客席の所にまで、蜂蜜とバターの甘ったるい匂いが届くことを察するに、相当の甘さであることは容易に想像できた。
     事実、その甘さに手が止まる参加者が多数。
     そんな中、その甘さを全くものともせずにフレンチトーストを機械的に口に運び続ける笑顔のK………と、その隣の一般参加者がいた。
     その参加者は見た目が40歳くらいのおじさんだったが、その割には頑張ってフレンチトーストを食べ続けた。余裕があるらしく、観客席で応援する子供たちと奥さんに向かってガッツポーズを力強くかました。その様を見て、観客らも沸いた。
     子供たちと奥さんは『必勝!』と書かれた鉢巻きを頭に巻き『☆お父さんガンバレ☆』の横断幕を広げ「どんだけ、この大会に命賭けてんだよ」な有り様だった。
     このおじさんは、1回戦目のホットドッグ対決でもやたら頑張っており、2位の好成績で2回戦進出を決めた(Kは1位)。今のところ、Kの脅威となる1番のライバルは、このおじさんだけだった。
     試合終了10分前に差し掛かると「この世に悲しい事など何一つない」と言わんばかりに陽気な格好をした司会者が、耳障りなホイッスルを吹き鳴らし《アイスターイム!》と、わめいた。
     舞台袖から、水着姿の豊満な体の女たちが現れて、参加者らのフレンチトーストの上におたま(大)4杯分のバニラアイスを乗せていく。KとB以外の参加者・観客は、大いに歓声と悲鳴を上げた。
     ちなみに、大会側は1回戦でも「マスタードターイム」と称して、終了10分前以降のホットドッグ全てにマスタード増量をかましていた。
     余談だが、Kは1回戦を1位で勝ち抜いた際に司会者からマスタードのボトルをぶんどり、皆の目の前で“ソレ”を完飲した。その場はたいへん盛り上がり、Kは拍手喝采の中、仰々しくお辞儀をした。
     さすが、街頭で“腕切り再生ショー”なんぞをやり、駄賃を稼ぐエンターティナー。人が喜んでくれるなら、の自己犠牲&自傷行為乙、である。
     普段のBならば、こういう何かのイベントのムチャな演出にゲラゲラ笑ったり野次を飛ばしたりと声をあげているのだろうが『食べ物で遊んでいる』という、Bが根本的に嫌っている行為をしているのでテンションが上がる事はなかった。
     やかましい喧騒の中、ただ1人冷めていた。
     Kは何ら躊躇する事なくアイス乗せフレンチトーストを次々と平らげていく。隣のおじさんも、それに負けじと後を追う。
     
     ──試合終了。
     1位は当然、“あとでその涼やかな顔を苦痛に歪ませながら嘔吐しまくる”Kであった。
     2位は例の“家族連れおじさん”で、苦し気ではあったが、まだまだ客席にいる家族に手を振る事は忘れない。
     司会者がおじさんに《いやぁ、すごいですねぇ~》と、誰でも言えそうな普通の言葉をおじさんに投げかける。
     おじさんは爽やかに笑いながら「去年、優勝を逃してしまってとても悔しかったからですねぇ! それから1年間、ずっと特訓してきました!」と答えた。
     大会への意気込みは、相当なものらしい。
     Bは、急に罪悪感がわいてきた。


    「は……いぃ?」
     Kは嘔吐による“えづき”が収まってから、控え室の椅子に座っているBを見上げた。Bは、眉間にシワを寄せながら腕組みをしている。
    「あの、もう1回おっしゃって下さい」
    「やっぱり『勝つのはやめようぜ』って」
     目を伏せながら、Bが眉間を押さえる。
    「なんでですか? 先程、さんざやり取りをして結論が決まった事柄について再度、言及なされるなんて、合理主義者で時間を大事になさるBさんらしくもない……」
     Kが口元をぬぐいながら、切れ長の赤い瞳を丸くする。
    「……ん~………あの、お前の隣にやたら頑張っちゃってるオッサンいたじゃん?」
    「………あぁ、はい」
     そう言われて、そういえば視界の片隅にそんなのがいたなぁ、と思い出す。
    「そのオッサン、去年から優勝に向けて頑張っちゃってた人なんだって」
    「はぁ」
    「そんな人を差し置いて、ふらり、ポッと出のオレらが参加して優勝かっさらっちゃうのは………」
    「はぁ?! “勝ちを譲る”っつーのかぁ?!」
     うずくまっていたKが立ち上がり、叫んだ。
    「おい。なんだよ、その妙な同情。お前らしくねぇぞ? 去年から頑張ってっからって、なんだっつーんだよ。“他人を蹴落として生きる”のがお前じゃねぇのかよ………………って すみません! 素で喋ってすみませんんんんんん」
     一気に“素の自分の言葉づかいでまくし立ててしまった”Kは我にかえり、慌てて床に額を思い切りぶつけながら土下座した。
     Kには、“Bの姉を殺した”という過去の負い目がある。
     Bに素で喋りかける事は許されない……と、Kが勝手に思い込んでいるだけであって、B自身は別に、素で喋ってくれて構わないと思っている。のだが、Kは頑なに丁寧語でBと会話する。
    「努力した奴が報われない、っつうのは、なんか、ヤかなぁ、って……ほら、お前の存在は結構ズルいし……」
    「Bさん。ちょっと考えてみて下さい」
     土下座した姿勢のままKがBの言葉を遮る。遮られた方は「あ?」と、反応した。
    「そのおじさん、『特訓した』とおっしゃったんですよね?」
     顔を上げたKの額は案の定赤く、相当の強さで打ちつけたものとみられた。
    「あのおじさんは特訓……“胃袋を拡張するために、さんざ飲み食いをした”という、Bさんがとても嫌悪する行為をこの今日までの1年間ずっとしてきた、のでは……」
    「あ」何それ。超憎い。
    「しかも、そういうような特訓ができるほどの財力の家族と思うと……」
     Bは、Kに圧勝してもらおうと決心した……が、すぐにその決心は揺らいだ。先程から、ハンペン並みの柔らかさの決心である。
    「確かに憎いが、もしおっさんが今年も優勝出来なかったら、また来年……もあるのか? 大会。……来年までの1年間、また“特訓”として無駄に食いまくるのかと思うと、今年勝たせてやった方が食べ物を無駄にしなくていいんじゃ………」
    「おい、B!」
     Kが、またもや素の状態で叫んだ。
    「お前、どんだけ食べモンが大事なんだよ! エコか! もったいない精神か」
    「………………おぅ」
     Bは頭を抱えた。意外な所で意外な事をこんなに気にするとは、と自分でも苦しんでいるようだった。
    「おっさんが今年優勝しても、どうせ『来年の防衛戦の為に』つって、やっぱり大食いの特訓はすると思うぜ?! 手に入れられる“利益”は、手に入れてこうぜ?! 遠慮すんな! 何をそんなに気にしてんだよ!」
     いつも「死にたい死にたい」とほざいているやさぐれ男が、力強くガッツポーズを取りながらBを煽る姿はとても違和感がある光景であった。
     う、とBが呻く。
     Kが力を抜いて、ポソリと呟く。
    「お前がどれだけ“世界”の事を想っても、“世界”は俺らの事なんざこれっぽっちも想っちゃくれねぇぞ? ……エコだなんだとくだらねぇ。この“世界”にあるモン、存分に利用して自分勝手に生きていこうぜ?」
     Kのこの言葉で「そうだな……」と納得する自分も自分だが、そんな言葉を言い放つKも相当、今までどんな哀れな人生を歩んできたものなのか、とBはひどく悲しくなった。
     しばらくしんみりとした後で、Kが「ひ、ゃああああ素で喋ってすみませんすみません」と、頭を床に打ちつけながら土下座する描写は省かせて頂きました。

    「───Bさん。たいへん申し訳ないのですが、優勝は諦めて下さい」
     今の今まで、さんざ「僕に任せて下さい」だの「優勝確実」だの自信満々に言っていたKが、会場で決勝戦の食べ物を一目見た瞬間、手の平返しで諦めの言葉を言い放った。
     ──というか、会場に着く前。
     控え室を出てから、すでにKの様子はおかしかった。Kは鼻をくんくんさせながら、無駄に端正な顔を不快そうにしかめていた。
     どうやら、その時点ですでに“その食べ物の匂い”を嗅ぎとっていたらしい。
    「……おいコラ待て。人にさんざ『優勝してみせます、任せろ』とか言っておいて、なんだその諦めの早さ」
     Bは呆れたが、別に怒ってなどはいなかった。ダメならダメで別に構わなかった。
     が、Kは「いえ……や、やはり頑張ります……」と、Bの言葉を真に受けて、ぎこちなく、いつもの作り笑顔を浮かべながら会場に向かった。
     
     決勝戦の食べ物は、“イチゴをたっぷり乗せたケーキ”であった。
     毒でも腐ったものでも馬糞でも食べ物でなくとも、なんでもかんでも口に入れて飲み込んでみせる事のできるKであったが、そんな化け物が唯一食べる事に難色を示すのが、イチゴと酒であった。
     Bは本人からユルく理由を聞けた事があるが「酒は昔からどうもダメ」で、イチゴは「G(という、Kがこの世で1番死んでほしい人)にやたら勧められて苦手になった」らしい。
     他の参加者が美味しそうなケーキに喜んでいる中、Kだけが眉をひそめて目の前のケーキ……の上にちょこんと乗るイチゴをじっ……と見つめていた。
    「……おい。マジで無理しなくていいぞー」と、Bが舞台下の観覧席から声をかけたがKは体も顔も微動だにせず、ただ右手だけを上げて反応した。
     試合開始と共に、Kは能面のような表情のまま他の参加者達と同様に勢いよくケーキを1つ丸々口にほおばった……が、そのまま動きを止める。
     能面表情のまま口をもごつかせ、クリームまみれの口から無傷のイチゴだけをヌルリと取り出し、皿のはしに置いた。
     スポンジとスポンジの間に入っていた細かいイチゴも同様に吐き出した。
     司会者が《おんやぁ? K選手はイチゴちゃんが苦手なのかなぁ?》と、おちょくったように解説するもKはケーキの咀嚼だけをし、あとの体の部位は微動だにしなかった。
    《イチゴもちゃんと食べないと、食べた数にカウントされませんよぉ~???》
     司会者がそう笑うが、Kは顔をしかめたまま、ただ咀嚼し続ける。皿のはしにイチゴを残したまま、Kは次のケーキに手を伸ばした……が、司会者にその腕を掴まれる。
    《完食してから、次のケーキにお手を伸ばし下さいぃい》
     司会者は、そうニヤリと笑った。Kは泣きそうな顔で、そんな司会者を見る。
     
     ※ここまで『2015年辺りに打って放置したもの』なので、以降の新規文章と多分……文章力違うやもしれません

     チャラチャラと陽気な格好をしているが、よくよく見ると悪くない精悍な顔つきをしている司会者と、切れ長の赤い瞳を潤ませながら、苦悶の表情を浮かべる黒髪の美丈夫の見つめ合い……という図式に、一部の女観客から黄色い悲鳴が上がった。
     女らが喜ぶ気持ちが、Bには少しわかる。あのヘラヘラとうるさいKが本心から困り、弱り果ててしょげている様には異様な色気が付きまとっている。そんなKを、ある者は愛おしく抱きしめたいと思うし、またある者は暴力や罵声で更に泣かせてみたくなるものだろう、と。
     ちなみに、Bは両方の気持ちをKに抱いたことがある。その時の機嫌の問題で「泣くな泣くな」と頭を撫でた事もあるし、さんざ蹴飛ばしてしまった事もある。
     男の俺でもこうなのだから、そこらの女は……と周囲に耳を澄ませると、案の定「あの黒髪の人、何か可愛い……」「これまでさんざ爆食してきたのに、あのしおれっぷりは何よ……ギャップ萌え?」「やばい、司会者×黒髪お兄さん……」等の声が聞こえた。
     司会者に注意されたKはおずおずと、先程吐いたイチゴをつまんだ。つまんで、じっと泣きそうな顔で見つめるだけ。
     ───K、もうやめておけ。もういい。
     BがKを見つめながら、小首を左右に振る。
    『味による好き嫌い』ならまだしも『トラウマから来る好き嫌い』は、どうしようもないと思った。
     やはり、自暴自棄ヤケクソな生き方をする大人を見ているのは気分のいいものではない。というか、Kは大人といえど18歳の自分よか、(まともな)人生経験が少ないしモノを知らないので、実は無意識にBはKを年下に見ている事がある。イコール、小さい子が無理をしている感がして、見ているのが時折ツラくなってくるのだ。
    「──へぇ。食べ物を粗末に扱う、ろくでもねぇ祭をやってるもんだな」
     盛り上がる広場の歓声の中、後方からスッと女の凛とした声がBの耳に入ってきた。凛と涼やかに、且つ、怒気を内包している聞き馴染みのある声。
     あ、やば……と、Bが思う頃には、既にその声の主は自身の右隣に立っていた。
    「この、くだらない大食い大会にKを出させたのは……お前か?」
     Kの保護者──Rが、Bを一瞥もせずに冷たい声で問う。
    「……違います」
     BもRに視線を向けず、前を向いたまま答える。
    「断じて、オレが出したわけではありません。アイツが『勝ってくるぜ!』って勝手に出場しました」
     紛うこと無き事実を言っているはずなのだが、Kの保護者さんはだいぶK擁護思想の御方なのでBは冷や汗が止まらない。いつ、殴られてもおかしくない。
    「こんな、食べ物を粗末に扱うイベント……オレが好きなわけないでしょう? もう、ずっと不愉快でしたよ? だって、試合後にあいつゲロゲロ吐くんだもん。最悪だよ」
     ほぉ、とRは呟く。
    「で、見てよコレ。決勝戦でイチゴ出ちゃって、あのザマよ」
     Bは舞台上の哀れな『お残し男』を軽く指差す。Rが少し沈黙してから、ため息をつく。
    「…………あぁ、バカだなぁ。あいつは本当にバカだ」
     どうやら、信じてくれたらしい。Bは安堵した。
    「全部食べなきゃ次行っちゃダメなもんで、だからあのままストップよ」
     舞台上のKは、相変わらずイチゴを手にして硬直している。
    「……K、もうやめよぉ〜? 帰ろぉ〜?」
     そんなKに、Rが声を飛ばす。その声は先程までBにぶつけていたものと打って変わって、お優しい。イチゴ如きに困らされていた男は顔を上げ、その声の主を見た。
     あ、と声を上げたのだろう。そんなような口の形をした。そうしてから、憎々しげだったり泣きそうだったりな表情をしたり、顔を背けたりうつむいたり辺りを見回してそわそわ落ち着かない行動を繰り返していた……と思っていたら、突如、Kが『残していたイチゴ』を無造作に掴んで全て口に入れた。
    「何で?!」「どうした?!」
     Rや観客が、どよめく。Bは「あーぁ」と理解が早かった。
     Kは、Rに『イチゴ如きでモダモダしている様』を見られたくなかったし、心配もされたくなかったのだろう。Kは他人には弱音や泣き言やら惨め情けない姿を平気で見せることが出来るプライド無し男だったが、Rの前でだけはそうしない。……まぁ、隠し事ができない性分だから、結局たまに見せているが。
     Rの前で弱音を吐くと、Rはすぐ「ごめんね、私のせいで」と言う。Kに何か『マイナスな事・不幸』があると、Rは秒で「私のせいでごめんね」という。実際には『Rの親父のせいでKが心身不安定(なせいからくる不幸・不調)』なのだが、Rは『私のせいでごめんね』と、ひっくるめて考える。
     だから、この『Kがイチゴを食べられなくて困っている状況』。後で、Rはこう称する。
    「私がKとBを買い物に行かせたせいで、こんな目に遭ってごめんね。イチゴが食べられないのは私の父親のせいだ、ごめんね。つまり、私のせいだ」と。
     Kは、Rがもう脳死で癖として言っている「ごめんね、私のせいで」を酷く嫌う。Kの心身不安定も不幸も、Rには何も関係ないのだ。が、お優しいが意地張りのKは「そんな事はねぇ」と面と向かって、Rにそうフォロー出来ない。
     別に俺、全然不調じゃないですよ、平気ですよホォラ……と、黙って痩せ我慢して、苦難をやり過ごそうとする方向へ頑張る。
     故に、Kが死に物狂いでイチゴ……ケーキを食べだした。Rに「大丈夫」に見られたいがために。
    「K! 何やってんだよ、そんなに優勝したいのかよ!」
     Rが悲痛に叫ぶ。いや、Kさん。全然「大丈夫」と思われてないっすよ……Bが遠い目をする。
     だいぶ遅れを取ったKが猛烈な勢いでケーキを爆食していくが、数分間ほど食べた後でピタリと動きが止まった。
     直後。体をひねって後ろを向き、観客からは見えないようにの配慮はしつつ、席の後ろでイケメンは盛大にケーキを『召喚』した。ただ、ほぼ食べたばかりのものを召喚しているのであまり臭くも、惨劇というほどの惨劇ではなかった。
     先程、軽く関わってしまったチャラい司会者もその様子にドン引きと心配をしてくれたが、観客が盛り上がっているので「まぁいいか」と気持ちを切り替えた。
    《ああっ! K選手っ、口に詰め込んだケーキをリバースだぁっ やはり、イチゴちゃんは無理だったかぁっ!!》
     司会者は自分の仕事をした。とりあえず、大声を出して盛り上げる……という仕事を。
    「K……」
     心折れたのか、観客に背中を向けたまま微動だにしなくなったKを、Rは心配した。

     ──結果。優勝は、例の『頑張っていたおっさん』だった。家族と共に手を取り合って、優勝をわぁわぁ喜んだ。
     二位三位四位も他者に譲り、Kは五位に収まった。『前半あんなに凄かったし、嫌いな食べ物さえ出なかったら優勝でしたで賞』という特別賞をいただいた。ちょっとした、金一封だった。
     表彰の壇上から、しょげながらトボトボヨボヨボと降りてきたKだったが、下で見守ってくれていた遠い目をしているBの姿を見るやいなや、不敵に笑った。
    「ふふふ、どうです? 金一封GETですよ?!」
     封筒をピラリと見せつけながら偉そうにしてくる、イチゴが食えなくて読み書きも不安定な24歳イケメン無職。
    「いや、どうキメようがカッコよくないぞ? Kさん……」

     この後、Rも一緒にステーキ屋に行きました(宿屋のLは誘わなかった)。


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