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    rosso_addict

    @rosso_addict
    犬辻のDom/Subユニバース長編書いた人。
    荒奈良も書きます。

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    一度書いてみたかった神父犬飼×悪魔辻ちゃんです。
    個人的に神父パロで「先輩」って呼ばせにくかったので呼び方変えてます。
    エワ開催&犬辻ぷち開催おめでとうございます!拙作も賑やかしになれば幸いです。

    #犬辻
    tsuji
    #おれの後輩が世界一かわいい2

    あくまでパートナー※辻が犬飼のことを「神父様」と読んでいます。



     山深き森の中に小さな村があった。人々は信心深く、日々慎ましく暮らしていた。
     村の奥にある教会は若い金髪碧眼の犬飼という名の青年が神父として一人で管理していた。
     夜の村はすぐに寝静まる。家の灯りは早々に消え、山や森が夜空より濃い闇となって黒々とそびえ立つ。
    「……こんばんは。」
     闇夜に紛れて勝手口から入ってきたのは黒髪の青年だった。
    「こんばんは、辻ちゃん。いい夜だね。」
    「はい、神父様。悪魔には好都合です。」
     ロウソクの灯りに近づくと黒髪の頭の左右に小さいが赤い角が生えている。背には蝙蝠のような羽が畳まれていた。
     夜中の訪問者を書斎まで案内すると犬飼は真新しい本を手に取った。革張りのソファに並んで座り辻に文章を指し示しながら読み始める。読み上げる軽やかな声が優しく響いた。
     辻は悪魔のくせに村の子ども達よりよっぽど勉強熱心でこの教会には本を読みにやってくるのだった。
    「それで、この化石の大きさから体長を逆算すると普通のイグアナの20倍もあるって書いてある。」
     教会に元からある本はラテン語や聖書の解説書が多かったが、辻の興味は犬飼が都市から取り寄せた発掘に関する最新刊にあった。
    「そんな巨大な生き物が、天地創造の前の時代にいたんでしょうか?」
    「うーん、神父としては主が『光あれ』と仰る以前には何もないって言わなきゃいけないと思うけど、おれ個人としては地層の年代も古いし、有り得ない話じゃないと思う。悪魔はそのへんどうなの?」
     辻は羽で背もたれを傷つけないよう、浅く腰掛けている。すっと伸びた背筋が奇麗だ。
    「悪魔は神の対として生まれたので、天地創造のすぐ後くらいでしょうか。」
    「そのへんも興味深いよね。悪魔は国によって違うらしいし。」
    「もし、神父様が全ての叡智を手に入れたいと思うのなら、俺がお手伝いしますが。」
     言い方はしおらしいがこうやって辻は会うたび悪魔の契約を迫ってくる。
    「うーん、全ての叡智はおれの頭には入り切らないんじゃないかな。」
     犬飼としてはのらりくらり躱しているうちにこの悪魔が飽きてくれるのを待っているのた。
    「そうですか。残念です。」
     甘言を重ねることもなく辻の興味は本の挿絵に移っていく。
    「歯がイグアナに似てるってことは草食なんでしょうか?俺、そもそもイグアナを見たことないです。」
    「そうだね。暖かい地域の生き物だって注釈があるけど、この挿絵だとドラゴンって言われた方がまだ馴染みがあるかも。」
     熱心に聞いてくれるのが嬉しくて犬飼もつい空が白むまで話し込んでしまうのだった。
    「もうすぐ夜が明けちゃうね。ここまでにしよう。」
    「明け方まで、すみません。」
    「いいって。朝日に気をつけて。」
     せっかく勝手口から入ってきたのに、帰りはいつも慌てて窓から飛び立つ羽目になってしまう。繋いだ手が名残惜しそうに離れる。
    「またね、辻ちゃん。」
    「はい、神父様。」
     蝙蝠の羽を広げて飛び立つ姿が見られるなら寝ずに本を読んであげる価値は十分にあると思う。
     姿が見えなくなるまで見送ると、追いかけるように朝日が登る。




     その夜も辻は教会を目指して飛んでいた。真っ暗な夜は悪魔の活動時間であり、辻も当然夜目が利く。
     山や森の黒い影の向こうでチラチラと橙色の光が揺れている気がする。
     辻は眉根を寄せた。あれは炎の揺らめきだ。火事だろうか。
     近づくにつれてただの火事でもなさそうな人々の怒号が聞こえてくる。
     教会の屋根が見えるほどになるとパーン!パーン!と銃声まで響く。
     鐘塔の最上階に犬飼の姿を見つけ、射線に掛からないよう木々の隙間を縫って上から近づいた。
    「こんばんは。」
    「うわ、辻ちゃんなんで来たの。」
    「今夜は随分賑やかですね。」
    「あ〜なんか、教会のスキャンダルが発覚しちゃってねえ。みんな怒ってんの。」
    「神父様、銃なんか撃てたんですね。」
     教会の鐘に弾丸が跳ねて高い音が耳をつんざく。
    「猟銃だけどね。普段使ってないから牽制どまりかなぁ。」
    「加勢しましょうか?」
    「気持ちはありがたいけど、ここで辻ちゃんの姿見たら火に油って感じしない?」
    「この姿だと、そうですね。」
     鐘塔へ群衆が詰め寄ってくる。扉に鍵くらいはしてあるだろうが破られるのは時間の問題だ。
    「一つ提案があるんですが。」
    「うん、聞こうか?」
     暴動で燃え盛る炎と焼け落ちる轟音の中なのに、お互いの声はやけにはっきり聞こえる。辻がなにかしているのかもしれない。
    「俺と契約しませんか?」
    「え、辻ちゃんと?」
     突然の勧誘に思わず辻の方を振り返る。犬飼に向かってきた弾丸を辻が光の盾シールドで防いだ。
    「ありがと。辻ちゃんすごいね。」
    「悪魔なので、このくらいは。で、どうします?」
    「ちょっと急すぎない?ここ離脱してからじゃダメ?」
     鐘塔の扉に丸太が叩きつけられる。振動で鐘がわずかに揺れた。
    「離脱するには契約が必要なので提案してるんですが。」
    「代償は?」
     丸太を打ち付ける群衆に向けて猟銃を撃つ。残りの弾数もあまり多くない。
    「信仰の放棄、住処の変更、転職。とりあえずこんなところでしょうか。」
    「寿命とか差し出さなくていいんだ?」
    「囲みを抜けるくらいなら、そこまで頂かなくて結構です。」
    「まあ、死ぬよりマシかな。契約するよ。」
    「辻、了解。」
     そう言うと辻は背中から犬飼を強く抱きしめてそのまま鐘塔から飛び立った。
    「すげー!俺、飛んでる。」
    「うわ、はしゃがないで下さい。落ちるッ」
     初めて人を抱えて飛んだ辻は同時に光る盾シールドで弾丸も防がねばならず、あまりスピードがでない。
    「少し飛んだら森の中に下ろしてくれる?」
    「了解。」
     犬飼としてはもう少し飛行体験を楽しみたかったが、辻に落とされると骨折では済まなそうなので早々に下ろしてもらうことにした。
    「これからどうしようかな。ひとまず逃げ切らないと。」
     闇の中で辻の瞳の中心だけが赤く光る。
    「よければ我が家にご招待しますよ。我が主もきっと歓迎するでしょう。」
    「思いっきり悪魔の住処じゃん。でもおれも行く宛ないしなぁ。」
    「そこでゆっくりご説明しますから、よければ終身契約しましょう。」
    「でた。魂とか差し出すやつだ。」
     幸い夜明けにはまだ遠い。暴徒達も夜に山狩りまではしないだろう。
    「終身契約したら、辻ちゃんの主はおれになんの?」
     さっきの代償はほとんど『悪魔と契約する』ことそのものに対する対価であり、辻の実力に支払われたとは言い難い。終身契約するなら、どんな望みも叶うくらいの価値がほしい。
     細い月が牙のように冷たく輝く。辻の妖しい笑みが犬飼を魅了していく。
    「まさか。あくまでパートナーですよ。」



    END
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