Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    rosso_addict

    @rosso_addict
    犬辻のDom/Subユニバース長編書いた人。
    荒奈良も書きます。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 💙 💜 💚
    POIPOI 74

    rosso_addict

    ☆quiet follow

    先輩お誕生日おめでとうございます!儚い先輩について考えてたら重暗い話になってしまいました。

    誕生日の翌日 今日は雲ひとつない青空だった。街路樹はいっせいに新しい葉を出し、街のそこここで花が咲いている。ぽかぽかとした日差しが春らしくて、犬飼の誕生日にふさわしいと辻󠄀は思った。
    「え、辻󠄀くんその服で来たの? 」
     ところが、氷見は待ち合わせ場所で目を丸くした。
    「うん。暖かいから、いいかなって」
     薄手のシャツ一枚の辻󠄀に、
    「今日は夕方から冷え込むって」
    と端末に天気予報を表示して見せた。
    「本当だ」
    「そのままだと寒いよ」
     氷見は春らしい見た目のアウターの中に、キルティングのライナーを付けてきたという。
     しかし、今から服を買うわけにもいかない。帰りの寒さは我慢するしかない。
    「いたいた」
     数メートル先から二人を見つけた犬飼が片手を上げた。
    「犬飼先輩」
    「辻󠄀くん、こんな薄着で来てます」
    「あ〜この後冷えるんだっけ? 」
     犬飼にも天気予報の画面を見せると、
    「毎年この時期って、急に寒くなる日があるんだよ」
    と苦笑した。
     例年と同じように二宮に誕生日肉に連れてきてもらったのは、鳩原の件を意識したくなかったからだ。
     みんな例年と同じように犬飼の誕生日を祝い、例年と同じように焼肉を食べた。
     焼肉屋を出ると、昼間の陽気が嘘のように気温が下がっていた。
     繁華街の電灯に照らされた夜闇には厚い雲がかかり始めている。
    「気をつけて帰れよ」
    「誕生日肉、ごちそうさまでした」
    「二宮さんも、お気をつけて」
     氷見を最寄り駅まで送ると、二宮ともそこで別れた。犬飼は自分のジャケットを脱ぐと、両腕を擦りながら歩いている辻󠄀に、
    「辻󠄀ちゃん、唇真っ青だよ」
    と笑って自分のジャケットを羽織らせた。
    「すみません」
     一枚羽織っただけでも暖かさが違う。そういえば冬の初めにもマフラーを借りた。
    「それ、肩幅合いそうならあげる」
     犬飼の急な申し出に辻は慌てて上着を脱ぐ素振りを見せた。
    「え、そんな、洗って返します」
    「いいって」
     今にも降り出しそうな天気に、辻󠄀の心がざわつく。
    「先輩、明日の防衛任務ですけど」
    「うん」
    「加古隊と合同なので、その……」
    「大丈夫。フォローするよ」
     こんな小さな約束で犬飼を引き留められるのだろうか。冷たい風が通り過ぎる。
    「……もし、犬飼先輩がこっそり鳩原先輩を探しに行くなら」
     辻󠄀の声がわずかに震える。
    「協力者が必要なのでは? 例えば、腕の立つ攻撃手とか」
     その震えが怒りでも落胆でもなく、覚悟を決めるためのものだと気づいて犬飼の口角が上がった。
    「自分で言っちゃう? 」
    「これでも、マスタークラスなので」
     辻はポケットの中でトリガーを握り締める。風に乗って花びらが足元でくるくると回っていた。
    「気持ちだけもらっておくよ。もう二度と、あんな二宮さんは見たくないから」
     犬飼の口から二宮の名前が出て、辻の手から少し力が抜ける。
    「そういえば、辻󠄀ちゃんからまだプレゼントもらってないな〜」
     重い空気を振り払うように犬飼がおどけてみせた。
    「今、あげたじゃないですか」
    「え〜? 辻󠄀ちゃんの気持ち? 」
     重くない? と言われたが辻󠄀は歩くスピードを緩めなかった。
     明日も変わらず、隣を歩けると信じて。

     END

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works