ベニ色の花弁蓮と仄花の出会い
その日、僕は不思議な力を使えるようになった。今まで溜まりに溜まった不安と疑念が親への嫌悪をきっかけに轟々と燃えたのだと、勝手に納得した。
その日、僕は家を燃やした。
数々の賞状が、立派な正装が、自慢のために着飾る為に買い与えられたものが燃えるのは心地が良かった。両親がどうなったのかは分からない。知ろうともしなかった。
全身にまとわりつく炎はとても熱いのに、僕の心は変わらず凍てついていた。僕自身の感情ですらこの心は溶かせないのだと知った。それですら何とも思わなかった。
行く場所とか行きたい場所とか、そういうものは特に無くて。頼れる人もいなかった。友人たちからは何となく距離を感じていたから尚更頼れなんかしなかった。何よりも、僕はこの手で家に火を放った犯罪者だ。堂々とした顔で表を歩く訳には行かない。暫く身を潜めることが出来そうな場所を探して3日ほど歩いたのを覚えている。
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