Be my Valentine休前日の夜、杏寿郎と義勇がリビングで他愛無い話をしていた時だった。
ぱちりと視線が合って、ふっと会話はそこで途切れた。
きっとそういう波長も合っていたのだろう、杏寿郎が合図のように、手にしていたマグカップをテーブルへそっと置いた。コト、と慎重な音が立ったのとは対照的に、ソファの間を詰める衣擦れは遠慮のない響きをしていた。
「義勇」
呼ぶ声が低く甘くなっている。触れられてもいない耳がくすぐったくなり、思わず義勇は目を伏せた。逃げた彼の視線を敢えて捕らえないまま、杏寿郎はクスリと小さく笑った。
杏寿郎はその目立つ風貌や堂々とした様から、豪快な性格にも思われがちだ。けれど実際は、人の繊細な感情を読むのが人一倍上手かった。
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