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    literatbarita

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    ★2023.5.10開催分★ 
    煉義WEBオンリー「一心同体鏡写し」の展示作品です🔥🌊
    キ学の二人です。(記憶あり)
    煉獄さんの誕生日前日に二人でゆっくり過ごすお話です🍺

    #煉義
    refinement

    五月九日夏が近づいていると感じる。
    青空の眩しさ、夏服の生徒が増えてきたこと、街中で流れるリゾート地のCMなど、至る所で。
    帰宅後、義勇が部屋着に着替え、リビングで過ごしている時にもふと気が付いた。
    自宅でも半袖で過ごすことが多くなって、下ろした長い髪が自分の二の腕をさわさわとくすぐっている。この感覚も、初夏の風物詩のようなものだ。
    髪を結い直して窓の外を見ると、傾いた日が空をオレンジと金色に染めてゆくところだった。
    夕空を見るといつも、杏寿郎みたいだな、と思う。色合いもそうなんだが、肩の力が抜けてほっとする。眩くて鮮やかなのに優しい。
    義勇がしばらく窓向こうを眺めていると、玄関を開ける音が聞こえ、ほぼ同時に彼の声がリビングまで真っ直ぐ届いてきた。
    「ただいま!」
    「おかえり、杏寿郎」
    今日は互いに研修から直帰で、いつもより早く帰ることが出来た。
    早速取り掛かるかと義勇は立ち上がり、キッチンの冷蔵庫を開ける。
    ドアポケットには、姉が旅行先から送ってくれたクラフトビールが冷えている。それからウインナーとベーコンに、チーズの詰め合わせ。
    先にウインナーとベーコンだけ取り出して、裏面にあるお勧めの調理法を確認する。ベーコンは厚めにカットして、油は引かずに弱火で時間をかけて焼いていく。ウインナーは少量の水と一緒にフライパンに入れて、ボイル焼きにする。
    姉も自分達の、というより恋人の胃袋をよくわかっているからか、お土産というよりも仕送りレベルの量を送ってきてくれた。とりあえずは第一陣を焼いて、残りはまた後にしよう。
    フライパンが温まり、ベーコンの良い匂いが立ち上ってきた時、着替えを済ませた杏寿郎がキッチンにやってきた。
    「準備ありがとう。美味そうだな!」
    「もう少しだ」
    火が通るのを待つ間、義勇が冷蔵庫からチーズを取り出して、包装を剥がし一口サイズにスライスする。
    杏寿郎が戸棚から皿を出し、それから陶器製のビアマグを取り出した。
    「せっかくだから、ビールはこっちで飲もう」
    以前遠出した時に陶器市で買った揃いのビアマグは、今日みたいに早く帰れたり普段とは違う夕食の時だったりと、ちょっとだけ特別な時に使うことが多かった。
    杏寿郎は食器類をカウンターに置くと、小型のテーブルと椅子を二脚、ベランダへと出した。
    日がさらに傾き、空を金と赤に染め上げている。涼やかな風が心地よい。
    ああ、今日は良い夜になりそうだ。
    「杏寿郎、焼けたぞ」
    「わかった!」
    呼びかける声に、杏寿郎は急いでキッチンへと戻った。

    「──乾杯」
    硝子よりも柔らかな音でビアマグが鳴り、きめ細かなビールの泡がゆったりと波打つ。同じタイミングで口に運んで喉へと流し込み、ぷはっ、とほぼ同時に肩の力が抜けた息を吐いた。
    「義勇、ヒゲができてる」
    「ん」
    こんな場所でくらい良いだろうと、義勇が舌で自分の口周りを舐めてみたが、「全然取れていないぞ」と杏寿郎が笑いながら指で泡を拭ってやる。
    「いただきます!」
    良い具合に焦げ目のついたベーコンとウインナー、それからチーズを順番に食べながらまたビールでさっぱりと流し込む。山盛りの皿が、みるみるうちに無くなっていく。
    「どれも美味いな!蔦子さんにまたお礼を言わないと」
    「第二陣もそろそろ焼くか」
    杏寿郎は「そうだな」と言いつつまだ立ち上がる気配を見せない。椅子に深く腰掛け、日が暮れた後の空を見つめている。
    「杏寿郎?」
    「青の瞬間、もしくはブルーモーメントと言うんだそうだ」
    「?」
    「ちょうど今の空のことだ」
    つられて義勇も空を眺める。よく晴れた日の日没直後と夜明け前の僅かな間だけ見られる、空一面が透明な群青色に染まる時間。
    義勇もこの空の色をよく知っていた。かつてずっと昔には、夜の訪れを告げ緊張を走らせる色であり、夜明けを知らせる、命がつながると実感させられた色だった。
    「……そんな名前があったのか」
    「この瞬間の空が一番美しい、という気象学者も多いそうだ。俺もそう思う」
    杏寿郎が、義勇を見つめてふっと優しく笑う。
    「君の瞳の色に、よく似ている」
    「……」
    この男は、臆面もなくこういうことを言う。まだ酔いも回っていないのに、義勇の顔がじわじわ熱くなってくる。
    手うちわで顔をあおぎながら義勇が黙っていると、杏寿郎がまた優しい表情で笑った。
    「だから会えない時も、遠く離れても、いつも君を感じることができた」
    「……杏寿郎」
    「……皿も空になってしまったな。次を焼こうか」
    杏寿郎はそう言うと立ち上がってキッチンへ向かい、義勇も遅れて立ち上がり後を追う。
    「君もまだ飲むだろう?ビールも出しておこうか」
    杏寿郎がビールとウインナーを冷蔵庫から取り出したところで、トン、と背中に軽く体重がかかる。義勇が後ろから抱きついていた。
    「義勇」
    「杏寿郎、誕生日おめでとう。今年も一緒に過ごせて嬉しい。……一日早いけど」
    「……ありがとう」
    季節が巡り、お互いの部屋着が薄手になって、温もりも肌の匂いも、一層近くに感じる。
    この男が大事なんだ。知っていた。知っていたけれど、改めて心からそう思う。肩口に頬を寄せて、義勇はまた回す腕に少し力を込めた。
    杏寿郎も義勇に応えるように黒髪に頬を寄せ、唇を落とした。
    夜がこんなにも平和で愛しい。泣きたくなるほどに。
    二巡目のベーコンもウインナーもチーズも、先ほどより少し塩気が効いている気がした。


    「今日は、君の望むようにしたい」
    風呂上がり、冷たい炭酸水を差し出したときに杏寿郎はそう言った。
    「……お前の誕生日なのに」
    明日五月十日は、互いが外せない仕事で遅くなってしまう。だから前日の今日ささやかに祝って、代わりに週末に遠出しようと決めていた。
    けれど義勇は、杏寿郎の誕生日なのだからと覚悟をしていた。彼が望むのなら望む分だけ身体だって差し出してやりたいと。明日腰痛になろうが生まれたての子牛みたいになろうが、今夜くらいはと。
    そんな義勇の予想に反して、彼の願い事はずいぶんやさしいものだった。歯止めが効かず、翌朝義勇に叱られる時だってある。なのに折角の誕生日に、杏寿郎にしては大人しい台詞だ。
    拍子抜けした義勇が首を傾げると、杏寿郎は穏やかに微笑んでみせる。
    「君が喜んでくれるのが何より嬉しい。だから、俺はそれが良い」


    夜も遅い時間になった頃。シーツに身体を沈めながら、義勇は杏寿郎を見上げた。二言がある男ではないが、念のため、もう一度聞いてみる。
    「……お前のしたいようにして良いんだぞ」
    「ああ。だから、目一杯優しくしたい」
    杏寿郎はふわりと笑って、義勇の頬を撫でた。
    「君の幸せそうな表情が好きなんだ」
    ベッドの中で、自分の表情をなんて気にする余裕は義勇には無かった。どんな風に杏寿郎の目に映っているのか、まったく想像もつかない。
    義勇の心情を見抜いたのか、杏寿郎は額にそっとキスを落とした。
    「君は、そのまま身を任せてくれたら良い」
    優しくて低い声に、身体の芯がふるりと震える。そっと唇を塞がれて、その隙間から「好きだ」と囁かれる。
    俺も、と義勇が唇を動かすと、今度は深くまで口付けられた。
    それから、頬に耳に喉元にキスを繰り返し、その度に好きだ、可愛いと杏寿郎が言葉を何度も何度も口にした。
    その一つ一つが義勇の中を埋めていって、息が苦しいほどに胸がいっぱいになる。
    同時に、彼があんまり愛の言葉を繰り返すものだから、気恥ずかしさで頭が茹だりそうになり、義勇が杏寿郎の言葉を遮った。
    「杏寿郎、わかった、伝わった、」
    義勇の唇に人差し指を当て、杏寿郎が金の瞳を細めて微笑んだ。
    「全然言い足りない。全部聞いて、義勇」
    「……あ」
    きっと今夜の杏寿郎は、いつも以上に、ひたすらに優しいのだろうと義勇は直感した。途方もなく温かくて甘くて、きっと普段よりもずっと、自分は彼の中で深く溺れていくのだろうと。
    「好きだ、義勇」
    囁かれた鼓膜から、触れられた場所から溶かされていく。まるで無重力状態みたいに身体がふわふわとする。
    きっと彼の言う「幸せな顔」になっていたのだろう、義勇の表情を見つめ、杏寿郎は心底嬉しそうにまた微笑みを浮かべた。
    「……義勇、愛してる」
    手の指同士を絡め、もう一度深く口づけを交わす。
    そうやって、二人柔らかな闇へと溶け合っていった。
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