暇つぶし「退屈」
そうぼやいた里見。そのぼやきを聞いたのは偶然談話室に居合わせた三人。
「……直哉さんは潜書でしたか」
谷崎は思い出したように言う。そこに山本も言葉を続けた。
「武者さんは畑作業だねぇ」
山本の膝の上に座っていた新美もこくんと頷く。
「有島さんは開架のおてつだいしてますね」
いつも里見といる人間がことごとく今は不在のようだ。悪友と数えられる久米は原稿、吉井も二日酔いでそれぞれ部屋に籠っていた。
「退屈なら散歩にでも出てきたらどうだい?」
「ヤダ。だって暑いもん」
「ワガママですねぇ」
里見が着ていたパーカーのフードをくいっと新美が引っ張った。
「えいっ」
「ぐえっ」
「南吉!」
「もぉ、なにするんだよ」
「暇だったら購買にアイス買いにいこうよ、里見さん」
「アイス? そうやって僕に奢らせようとするんだろ」
「アイス買うおこづかいなら、ぼくも持ってるもん」
里見が睨むと新美が頬をぷくっと膨らませる。こら、喧嘩はおよしよ。山本が人差し指でその頬をつつく。
「それなら喫茶店まで行きませんか? 確か期間限定のフルーツパフェが出ていたはずですよ」
珍しく年長者らしい態度で谷崎が場の空気を変える。睨みあっていた里見と新美が谷崎のほうを向き、口を揃えて言った。
「パフェ?」
「ああ、そういえば昨日新聞にそんな広告が入っていたね」
「喫茶店ならすぐそこですし、涼むにはもってこいかと」
「まぁ、確かに……ここに居ても今日は何もすることないからなぁ」
「決まりですね。有三さんも行くでしょう?」
「やっぱりワタシも数に入ってたのかい」
「だって南吉くんの瞳がきらきらしてますもの」
「ゆうぞうせんせい、はんぶんこしよう?」
「……しょうがないねぇ」
「なんだかんだ僕の暇つぶしに付き合ってくれるんだね、みんな」
「うふふ、お互い様ですよ」