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    turb_shirotae

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    turb_shirotae

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    女尊男卑ではなく男尊女卑になった世界線の🎤。新ディビ発表前に書いたからブクロハマシブヤジュクの4ディビだけ。

    世界観が現代日本になった🎤の話 その日は、突然やってきた。
     朝からけたたましく鳴る目覚ましを止め、三郎と小競り合いをしながら兄ちゃんの作った朝ごはんを食べる。かったるい学校へ足を運び、クラスメイトと馬鹿やって。放課後はクラスメイトの誘いも程々に家に帰って、夕飯担当だから三人分のご飯作って。
     茶色のおかずばかりになってしまった食卓を見ながら、三郎が見たら『栄養バランスってもの知らないのか低脳』なんて言ってくるんだろうなとか思いながら、俺は兄ちゃんと三郎の帰りを待った。
     十八時半をすぎた頃、兄ちゃんが帰ってきた。仕事を終えて疲れた顔をしていたが食卓を見ると同時に嬉しそうに表情が緩んだ。それだけでも俺は嬉しくて。頑張って作った甲斐があったな、なんて単純だけど思った。
    「そういえば、三郎は?」
     そんな兄ちゃんの問いかけに俺はふと時計を見る。既に時刻は十七時になろうとしていた。連絡もなしに中学生が出歩いていていい時間じゃないだろう。
    「あいつ、何してんだ?」
     折角作った晩飯が冷めるだろ。俺は鳴らない携帯を片手にあいつに対する不満を募らせた。
     
     結局、三郎が帰ってきたのは兄ちゃんの帰宅から二時間も遅い時間帯だった。心配してソワソワと落ち着きのない兄ちゃん。そんな兄に変わって俺が怒ろうと三郎を見れば、その言葉は失われた。
     三郎は真っ青な顔して玄関に立っていた。特に外傷もないし、服が乱れてるだとか鞄がないだとかそういった異変もない。ただ、明らかに表情がおかしかった。
    「……三郎?」
     俺がそう名前を呼んでも、三郎は真っ青な顔で俺を見つめるだけで。
    「おい、三郎」
     なんだか怖かった。とにかく何か言ってくれ。その一心で弟の名前を呼べば、彼は言葉を探した。
    「…………今、何年だ?」
     長い長い沈黙を経て、三郎はそう一言問いかけた。俺は混乱する。三郎に何か起こったのでは、と思っていた俺の心配を返してくれ。
    「何言ってんだ三郎。今はH歴の──」
     兄ちゃんがそう言うと同時に、俺達はギョッとした。三郎の瞳から突然涙があふれる。あの三郎から。
     普段すました顔で中坊らしくないこいつが、泣いてる。そんな事実は俺達を慌てさせるには充分だった。
    「いち兄、二郎、どうしよう」
     そんな弟のSOSは、確かに俺らに届いた。
     
     三郎は朝、いつものように学校へ向かった。この性格だからまともな友達も居ないんだろうと思っていたが、軽く話をするぐらいの友達は居るらしい。本人は友達なんかじゃないと否定していたが。何がともあれ、三郎は学校で友達と話をした。
     その時に、ふと違和感を覚えたというのだ。
    『俺、二一〇〇年までは生きるって決めてっから』
     誰かがそう言った。
     二一〇〇年。恐らく数年まで使われていた西暦のことだと三郎はすぐに気がついた。
     とはいえ、もう西暦なんて使われずH歴表記が主流となっている今。突然西暦を使いだした友達に、三郎は引っ掛かりを覚えたらしい。
     でもどうせ、こいつらのおふざけだろう。そう三郎は決めつけ、その誰かを鼻で笑った。だがしかし、鼻で笑われたのは三郎の方だった。
    『は? 西暦なんてもうないって?』
    『H歴? なんだそれ』
    『山田、最近SFでも読んだんだろ』
     結果、三郎はクラス中から面白いものを見る目で見られた。
     山田が変なことを言い出しただけ。そんな空気が三郎を鋭く突き刺す。三郎は何も言えずに、その場に立ち尽くした。
     
     それでも三郎はクラス全体で馬鹿なことを言ってるだけだと考えていた。何せ、西暦は確かに終わりH歴が始まっているのだから。イエス・キリストの時代は終わったんだ。そんな三郎の考えはあっさり裏切られた。
     学校の図書館。新たに入荷しました、と書かれたポップと共に飾られる本を、三郎は手にする。面白みもなさそうな、女子中学生がいかにも好みそうな恋愛小説。興味すら湧かないその本を手に取った理由はたったひとつだった。
     裏表紙をめくる。そこには発行日が書かれていて。それは確かに、西暦記載だった。しかも西暦が終わった数年後の記載で、ここでようやく三郎は自分がおかしいのだと気がついたらしい。
     
     それを聞いた俺と兄ちゃんは困ったように顔を見合わせる。なんとか三郎を宥めてリビングに連れてきて、こいつの好きな紅茶を出して話を聞けばなんだかおかしい話で。
    「西暦なわけねーだろ」
     俺がそう吐き捨てれば、三郎はキッとこちらを睨みつけた。
    「だったらそのスマホで調べてみろよ」
     H歴なんて出てこないから。そう言う弟に、俺は渋々検索をかけた。どうせ、中学生の悪戯とそれにまんまと騙された三郎の気のせいだろう。
     そう思った俺は、検索結果に目を見開いた。
     何も言わない俺を不思議に思ったのか、兄ちゃんが俺のスマホを覗いてくる。
    「……ほらな、言ったろ」
     三郎のそんな言葉と、『検索結果はありません』という冷たい言葉が、俺に現実をつきつけた。
     
     
     
     
     どうやら、また税金があがるらしい。現在それを審議しているという噂を俺は後輩から聞いた。
     胸元から煙草を取り出し、ライターで火をつけた。同じように後輩も煙草に火をつける。喫煙所に、二種類の煙が混ざりあった。
    「とはいえ、私達の税金だけあがるんでしょう?」
     男女で十倍もの差がある税金。税金をあげるというのも、恐らく男だけ。そんな不平等な現実に、俺はちょっとした愚痴をこぼした。
     それに、後輩は怪訝な表情をうかべる。それが違和感の始まりだった。
    「多分全国民平等で上がると思いますよ」
     男女平等に税金が課される、ということだろうか。とはいえ、あの中王区が男女平等を税金を課すとは思えない。この後輩は男なのに案外理想ばかりで現実が見えていないんだろうな、なんてこの時の俺は煙草の煙と共に軽く流した。
     その後、俺は後輩の言葉の意味を理解する。
     
     左馬刻から急な呼び出しがかかり、イライラしながら俺は奴の事務所へと向かった。
    「何の用ですか、こちらは仕事中なんですが」
     そう言いながらドアをあける。すると、見慣れた事務所に予想外の人間がいた。
    「理鶯、来ていたんですか」
     てっきり呼ばれたのは俺だけだと思っていた為に、そんな素っ頓狂な声を上げてしまう。理鶯はふかふかのソファに腰掛けながらこちらを確認すると、真剣な表情を浮かべた。
    「すまない、呼んだのは小官だ」
    「え、あ、いえ、大丈夫ですが……」
     想定外の事に動揺し立ち尽くしていれは、俺の背後から声がかかる。それは、先程まで俺が苛立っていた原因の人物で。
    「とっとと入れよ」
     不機嫌そうな彼に、俺は黙って中へ入った。
     
     理鶯が言うには、この国に軍があるらしい。そんな馬鹿な、と左馬刻が鼻で笑う。だがしかし、俺には理鶯が嘘をついているようには思えなかった。
     とはいえ、武力を嫌い武器を徹底的に排除したこの時代、軍だなんてそんな物が存在を許される筈がない。あったとしても、非公式の武力集団でしかないだろう。
    「調べたところ、軍という扱いではなくこの国の安全と独立を守る自衛機関という扱いらしい」
     理鶯の報告に、頭がクラっとするのがわかった。武力を排除した癖に武力で己を守ろうとするのか中王区は。左馬刻も同じ事を考えているのか、眉間にシワを寄せながら煙草の煙を吐き出した。柔らかく軽いそれは自由に姿を変えた。
     それを眺めていると、俺はふと思い出す。
     喫煙所で後輩とかわした税金の話。後輩の怪訝な顔。
    「……あの」
     二人の視線が俺に集まる。くだらない事だったら承知しねぇぞ、と左馬刻が無言で伝えてくる。
    「今日、知人とこんな話をしたんだ。税金が上がるらしいがどうせ俺達男だけ値上げするんだろう、と言ったら不思議そうな顔をされた」
     左馬刻と理鶯が顔を見合わせる。そして、俺に話の続きを促した。
    「そして全国民平等で上がるだろうという返事。男女で差があるとは一ミリも思っていないような返事だった」
    「そいつ、男か?」
     そんな問いかけに頷けば、左馬刻は苦々しげに吐き捨てた。
    「ふん、随分と社会を知らないやつがいたもんだな」
    「俺もそう思った」
     事実、俺もその時は理想ばかりで現実が見えていないと思ったのだ。だがしかし、もしかして正しいのはあいつだったのでは。そんな考えが俺に浮かんだ。
    「軍のことといい、税金のことといい、中王区で何か起きているのではないか?」
     理鶯がそうボソリ、と呟く。それは俺も、なんなら左馬刻も辿り着いていた考えで。俺達はそっと目配せをした。
     
     
     
     
     
     
     
     
    「いやぁ観音坂くん、忙しいところ済まないね」
     普段全く関わりのない部署の部長と俺は何故か本社に居た。
     長い長い廊下を歩きながら、俺は急に手渡された書類をペラリ、と見る。それらは全て履歴書で。
    「季節外れのインフルエンザが採用部で流行っていてね。今日は助かったよ」
     そんな初対面の部長にお礼を言われ、俺は引き攣る笑顔で返事をした。
     
     今日も今日とて出社する。とはいえ今日は外回りもアポイントもないはずだから精神的には少し楽な日だった。その筈だったんだ。
    『観音坂くん、今日は本社に行って新卒の採用面接に顔出してくれないか? 面接担当が尽く欠勤らしくてね、俺が推薦しておいたからきみはそのまま本社に行くだけでいい』
     あのハゲ課長に出社早々そう言われた瞬間、俺は全てを投げ出したくなった。
     本人に許可なく推薦するのやめていただけませんか? と言えたらどれだけ良かっただろう。とはいえもう既に採用部の部長に連絡が行っている視点で俺には選択肢がなかった。
     シンジュクのハズレにある本社に行けば、待ってましたと言わんばかりに書類を渡され。時間までに履歴書に一通り目を通してほしいと言われ、俺はうんざり顔を隠せなかった。
    「とはいえ今日は女の応募が多いからね。そんなに採用しないだろうし気楽に構えていてくれ」
     部長がそう声をかけてくる。俺は一瞬疑問を抱くも、すぐに聞き間違いだと思ってスルーすることにした。
     女尊男卑のこの世の中、男というだけで就職活動は厳しくなる。男だからという理由だけで書類を落とされることだってあるし、面接で『建前上男も面接してるけど、うち男は採用しないんだよね』と言われることだって普通にある。
     正直、女尊男卑が苛烈になる前に就職できて俺は幸せだと思う。今の若い人は大変だ、と履歴書を見ながら俺はこれから会う学生に同情した。
     
    「きみ、女子大? うち男性が多いから君みたいな子は合わないと思うんだよね」
    「産休とる予定のある女性はちょっとね……」
    「女性にはこの仕事無理じゃないかな」
     驚いた。ただ隣でデフォルトの質問だけしておけばいい、と言われた俺は黙って部長の言葉を聞いていた。
     聞きがたい言葉が飛び交う。緊張した様子の新卒の女性が傷ついたような顔をして部屋を出ていく。なんだこれは。
     一通りの面接が終わり。新卒の居なくなった部屋で、部長が背伸びをする。
    「一応女も面接しとかないと怒られるから面接するけど、本当に時間の無駄だな」
    「え、ええと……男、ではなく女、ですか?」
    「男は産休とか取らないけど女はすぐ休むしやめていくだろう? そう考えたら男の方がいいに決まってるじゃないか」
     面接前に聞いた言葉は間違っていなかったのだ。
     俺は混乱した。これじゃ、まるで女尊男卑ではなく、男尊女卑じゃないか。世論と真逆を行くような部長の言動に、どう反応したらいいのかが分からなかった。
    「そ、そんなこと言ってたら中王区に睨まれるんじゃないですか?」
     必死にそう言えば、部長は不思議そうな顔をする。
    「中央区? ここは新宿区だぞ」
     シンビュクク、とはいったい何だ。シンジュクの事か? 俺は今中王区の話をしたのに。どうして話が伝わらない?いったい、これはなんなんだ。俺の中に恐怖が芽生えた。
     笑顔を浮かべて「間違いました」とテキトーなことを言えば、部長は俺の背中を強く叩いて笑った。
     
     この違和感を一人では抱えきれずに、俺はすぐに先生と一二三に相談した。もしもこれで俺が否定されたらどうしよう。そんな恐怖もあったが、とにかくこの違和感の解消が先だった。
     すれば、すぐにメッセージが返ってくる。
    『え、何どっぽちんの会社男尊女卑なの? 中王区に睨まれそう』
    『確かにこのご時世、珍しいね。男性だろうが女性だろうが差別されるのは良くないけども』
     そんな二人の答えに俺は安心する。だがしかし、次の瞬間俺は一二三からのメッセージに悲鳴をあげた。
    『俺っちヒプノシスマイクどっかやったっぽくて見当たらない』
     ヒプノシスマイクを無くすなんて、何を考えているんだあいつは! そんな悲鳴だった。
    『そういえば、私もヒプノシスマイク見当たらないな。独歩くんは持ってる?』
     先生までもがそう言うものだから俺は焦った。俺は確かに枕元の棚に置いて──
    「あれ?」
     今朝、見かけた記憶が無い。目覚ましの隣に置いてあった筈なのに、今日マイクを見た記憶がないのだ。
    『どっぽちんのマイク、ないよ。いつもの所だよね?』
     家に居るのだろう。一二三からそんなメッセージが届いた。
     
     
     
     
     中王区がない。あの忌々しい壁が、ない。
     その事実に俺は動揺した。必死に携帯の連絡先を調べると、勘解由小路無花果の連絡は消えていて。今までのやり取りも何もかもが無かったかのように消されていた。
    「乱数?」
     そう声をかけられ俺が勢いよく顔をあげれば、そこには幻太郎が居て。日除けのためか男物の日傘を指す彼に、俺はいつもの顔を作った。
    「幻太郎じゃん! なになに、今流行りの日傘男子?」
     そっと弄っていた携帯をポケットにしまう。そんなので幻太郎が誤魔化されるとは思っていないが、俺は必死に誤魔化されてくれと祈った。
    「……流行ってるんですか?」
     幻太郎は何か言いたげなのを堪えてこの話題に乗っかってくれる。ああ、本当に怖いぐらい優しい人間だ。俺は幻太郎の優しさに甘えた。
     
     中王区が無くなったことに俺が気がついたのは今朝のことだった。
     定期的に電話での報告ややりとりはしているものの、たまには直接会ってやりとりをしないといけない時がある。それが、今日だったのだ。
    『今日は臨時休業でーす! みんな今日は休んで明日からまたよろしくね!』
     僕のブランドに携わる社員全員には前々からそう連絡を入れ、夢野幻太郎と有栖川帝統には『今日オネーサンとデートに行くから事務所には居ないよ、用事があったらメッセージ入れといて!』とテキトーなことを言っておく。
     そして、俺は朝から中王区へと向かった。その結果。俺が中王区へ辿り着くことはなかった。
     どれだけ歩いても高層ビルが続く。中王区の象徴である壁は見えてこなかった。おかしい、と気がついたのは昼にもなろうという時間帯で。
     俺は慌ててシブヤへ戻る。いつもと変わらない街が俺を迎えた。なんだかそれがおかしい気がした。
    「そうだっ……!」
     勘解由小路無花果の存在を思い出したのはその時で。彼女に連絡をいれようと思ったのだ。なのに、いくら探しても勘解由小路無花果の連絡先は無かった。たくさんのオネーサンたちの連絡先や仕事柄知り合った多くの関係者の連絡先は残っているのに、中王区に関係する人間の連絡先だけがごっそり消えていた。
     俺は、夢でも見ているのか。呆然と街中で立ち尽くした。
     

     幻太郎と入ったその辺の喫茶店は冷房が効いていた。
    「で、あなたオネーサンとやらとデートだったのでは?」
     幻太郎がミルクをいれたアイスコーヒーを混ぜながらそんな事を聞いてくるから、俺はついうっかり固まってしまった。たったそれだけなのに幻太郎は何か察してしまったようで。
    「……もしや、ふられたんですか?」
    「え、うん、そうそう! 今日オネーサン急な仕事入って来られないんだってー」
     僕寂しかったから幻太郎に会えてよかったー! なんて明るく誤魔化す。この優しい嘘つきはきっとまた誤魔化されてくれるのだろう。
    「……あ、」
     喫茶店の外に目をやった幻太郎がそんな声を出す。釣られて俺もそちらを見れば、そこには真剣な顔をした有栖川帝統が歩いていた。
     
    「で、乱数といい貴方といいどうして暗い顔して街中に佇んでいるんです」
     帝統を呼び止め、喫茶店の中に引きずりこむ。奢ると一言いえば、彼の瞳は輝いた。
     ハンバーグだのパスタを必死に食べる帝統を見て幻太郎が呆れたように話題を切り出す。その事に俺はドキリとするが、それに気がついたのは誰も居なかったようだ。
     先程まで嬉しそうだった帝統の顔が曇る。おや、と幻太郎が目を瞬かせた。
     ごくん、と口の中のものを飲み込み、帝統は小声で話をはじめた。
    「知らない間に総理大臣変わってたらそりゃどういうことだってなるだろ?」
    「は?」
    「え?」
     俺と幻太郎の声が重なる。それすらも気にならないぐらい彼の言葉は衝撃的だった。
    「総理大臣って、東方天乙統女ですよね?」
    「ところがどっこい」
     帝統が持っていたフォークを幻太郎に向ける。行儀が悪い、と幻太郎が嫌そうに表情を歪めた。
    「今日の新聞見たら、全く見覚えのないおっさんが総理大臣として載ってたんだ」
     見るか? と帝統がどこからかぐちゃぐちゃの新聞を取り出す。そこには確かに、見覚えのないおじさんが総理大臣として写真に映っていた。
     周りにうつる他の大臣も全員知らない男だった。
    「男が政権を握っている……? 中王区はいったいどうなったんです?」
     幻太郎のそんな戸惑った声が聞こえる。それと同時に今朝のことを思いだした。
    「……中王区が、ない」
     幻太郎と帝統の視線が集まる。そんな二人を無視して俺は携帯の検索機能を使った。
     中王区、東方天乙統女、勘解由小路無花果、内閣総理大臣。思いつく限りのワードを検索するが、ほとんどが『検索結果はありません』または全く関係ないことが引っかかる。そのことから導き出される答えは。
    「中王区そのものが、なくなっている」
     そんな俺の言葉に、二人が息を飲んだ。
     
     

     たった一晩で、世界は変わった。山田三郎が言った通りH歴はなくなり、観音坂独歩が察した通り女尊男卑の世界は男尊女卑になり、伊弉冉一二三が気がついた通りヒプノシスマイクはなくなり、飴村乱数や入間銃兎が考えた通り中王区はなくなった。
     この今までとは異なる世界で、彼らはどうやって生きていくのだろうか。それでも時は残酷に進んでいく。
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    turb_shirotae

    DONEマフィひすが本編軸ひすを煽り散らかすだけの話。どうせイベント始まったら大量に解釈違いが生えてくるだろうからポイピクで供養(ヒス晶)
    まずは手を繋ぐところから「好きな女性にまともにアプローチもできないだなんて、こっちの俺は随分と可愛らしいんですね」
     自分と同じ顔が綺麗に口角を上げる。俺はその言葉の意味を瞬時に理解して、かぁっと頭に血が上るのがわかった。そんな様子すら目の前の男は楽しげに見つめる。――正直、悔しかった。

     俺と同じ顔の、俺とは異なる人物。この不思議な男が現れたのは昼もだいぶ過ぎた頃。俺は魔法舎で賢者様とのんびり三時のお茶をしていた。お気に入りの美味しい紅茶が手に入ったから、と賢者様を誘ってみれば彼女は嬉しそうに頷く。そんなところも可愛らしくて、俺はほんのりと早くなる脈を感じながらこの時間を堪能していた。……のだが。
     この幸福の時間を誰にも邪魔されないように。そう思って魔法舎の裏でひっそりとお茶会を開いていれば、ふと人の気配がした。魔力は感じられない。なんでこんな所に人間が? 俺は賢者様を不安にさせない程度に気配を警戒する。あ、まずい。こっち来る。そう思ったと同時に草むらの影から一人、人間が現れた。
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