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    kurobuta_sky

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    アスカガのシリアスラブコメ。書き上がっていく度に順次更新。草稿状態なので齟齬だらけ+前後で繋がっていなかったりします。

    #アスカガ

    仮題:愛しているならつかまえて愛しているならつかまえて【仮題】 やってしまった! やってしまった! やってしまった
     カガリの後に続く靴音は、すさまじいスピードで迫って来ている。一瞬チラリと背後に視線をやって距離感を確認したカガリは、恐怖のあまり小さく悲鳴を上げて後方を見たことを心底後悔した。昔読んだ絵本に登場したおっかない形相をした鬼がカガリ目掛けて驀進しているのである。
     惚れ惚れするようなフォームで首長官邸内を駆ける彼の双眸は翠色のはずなのに激しく逆巻く炎をまとっていた。最早カガリの背筋は冷や汗が流れまくって凍てつく勢いである。
     これ以上現実を直視するのが恐ろしくて、カガリには全力で走り続けるしか選択肢はなかった。
     どうしてこんなことになってしまったのか。自らの行いを鑑みたところで過去を変えられはしない。
     ――今はただ、逃げ切ることだけを考えるしかないのだから。


    愛しているならつかまえて【仮題】


     カガリ、逃避行から帰宅。ファウンデーションのデータを確認。よく調べられている。
     ドレッサーへ。二段目の引き出しを開ける。覚悟はまだ、ない。時もまだ早い。再び閉めた。
     事の発端は、立て込んでいた公務によってカガリの疲労が溜まりに溜まっていたことだ。
     一個人の彼よりも、国を背負うことを選んでからというものの、ちゃんと自分の感情を律してきていたのに。
     カガリ個人よりも国を優先させると決めた時から、何度も問いかけている。
     国を背負うと決めた自分に再びこれ・・を身につける資格はあるのか……って。
     フリーダム強奪事件に、スカンジナビア王国からの婚姻の打診。
     アスランとの通信で伝えようとも思ったが、今の二人の関係は恋人同士ではなく上司と部下だ。「何で俺に報告を……?」なんて言われたらカガリの中で何かが壊れてしまうような気がしていた。
     先日一緒に食事をした時も、次の約束を取り付けようとしたら反応はいまいちだったし。
     閣議に
     ――「根を詰めすぎるな」
     やわらかなテノールが脳裏にありありとよみがえって思わずまなうらが熱を帯びる。思っていた以上に疲弊しているらしい。この資料に目を通し終えたら私邸に帰ろう。
    アスランよりも国を選んだカガリと、それを理解しているアスランはそれぞれの立場で邁進中。
    そんな最中、首長の執務室で任務内容の報告をカガリにしていたアスラン。終始徹して「代表」呼びをされ、その事務的な距離感が無性に寂しくなったカガリが、ふと「“カガリ”とはもう呼んでくれないよな」みたいな本音を零す→アスランが「…え?」と固まり、その顔を見たカガリは背筋を凍らせて(しまった!)と焦り、思わず執務室から逃げ出す。
     静寂にノック音。

    「失礼します。歓談中恐れ入ります。急遽、明日の視察スケジュールに変更が出ました」

     トーヤにアスランが一瞬気を取られている隙に、カガリはデスク後方の窓をバァン! と開け放って外に飛び出した。

    「カガリ姉様!?」

     こんな姿を見せてすまない、トーヤ。


     トーヤにとってカガリ・ユラ・アスハはいつだって毅然とした為政者。

    「明日の予定変更を伝えに来たんですが……」
    「代表には俺から伝えておく」
    「あ、はい……」

     アスランも窓から身を乗り出すと、屋根へ。
     ――見たこともないような締まりのない笑顔で。
     それよりもまず、二人に言いたいことがある。

    「二人とも、ドアを使ってくださいよ……」


      ✾ ✾ ✾

     カガリダッシュ。
     高官しか入れないエリアに逃げ込めば、勝機はある!
     虹彩・静脈・指紋のトリプル認証だ。セキュリティシステムを作ったのはキラだ。夜を徹して作業したキラは「ネズミどころかアリ一匹たりとも通さないよ」と満面の笑顔だった。さすがのアスランでもすぐには突破できまい。メイリンがいれば話は別だが。ギリギリで扉が閉まる。

    「……チィッ」

     隠す気のない舌打ちが聞こえて身震いするカガリ。

     だがしかし、国の代表ではない彼女個人を繋ぎ止めるまたとないチャンスを逃す男ではなく…
     カガリを抱えたまま壁を走るなんてぶっ飛んだ身体能力の男だ。どんなルートで追い詰めてくるか見当がつかない。
     カガリは首長及び国防軍の准将以上でないと入れないルート。一佐のアスランでは不可。
     この鬼ごっこも永遠ではない。アスランには次の任務が入っている。それも、数ヶ月に及ぶであろう長期の。時間と距離が空けばカガリとて冷静になれる。次回会った時に詰め寄られても冷静に切り返せるはずだ。だから今は
     表と裏に両方車を手配した。裏をかいて、カガリは表の車から帰る。
     運転手が降車してエスコートするのを待たずして、カガリは後部座席に飛び乗った。
    「出してくれ!」
     車は滑らかに走り出し、後ろの窓を覗けば官邸が遠のいていく。どうやら逃げ切れたらしい。カガリは人心地ついて座席にやれやれと体を沈めた。これでひとまず大丈夫。あとは時間が解決してくれるはずだ。激しく脈打つ心臓に別の負荷がかかっているような気がしたが見て見ぬ振りをする。
     弾む呼吸を整えて、慌ただしく出発することになったので運転手に一言詫びておこう。
    「騒がせてすまない」
    「いや、問題ない」
     カガリが求めて止まない、やわらかなテノール。
    「は」
     ちらりとこちらに視線をやったのはカガリが逃げていた相手に他ならなかった。
    「キャアァァーッ!?」
     絹を裂いたような悲鳴が口から飛び出た。無人島で初対面のアスランに引き倒されてナイフを殺されかけた時以来かも。
     ――だというのに、幽霊を前にしたかのような

    「どこかに連れ去ろうってわけではありませんよ。アスハ邸に向かっているだけです」
     アスランが言う通り、車窓に流れる街並みはアスハ邸に向かっているものだ。
     極めて緊急性が高く、重要な機密事項の報告のためだといけしゃあしゃあと人払いをされてしまった。
     だが、アスハ邸にアスランの言動に疑いを持つ者など存在しない。それはアスランが地道に積み重ねてきた実績と信頼だった。
    「少しお時間をください。二人で話がしたい」
     「絶対に逃がさない」という副音声が聞こえた気がした。


     ✾ ✾ ✾

     ミラーで憔悴した顔で頭を抱えるカガリを盗み見て、アスランは想定していたよりも二人の関係が危うかったことを知る。


    「カガリさんに縁談が来てる話は?」

    「お相手は」

     メイリンが端末を操作して窓を出す。

    「スカンジナビア王国の第三王子です。家柄よし、人望厚く、後ろ暗い傷疵一つない清廉な経歴! そしてカガリさんとも旧知の仲。まともに戦っても勝ち目はないですよ?」

    「カガリは一言も……」
    「アスランさん。カガリさんに聞いてあげましたか? 最近変わりはないかって」
    「」
    「お二人は戦友というか、志同じくした同志としては同じ方を向いてるな……って感じますけど。肝心な一個人としても同じビジョンを見てるんですか? 言葉にしなくても通じてるなんて、怠慢ですよ」

    「私個人に話してくれたカガリさんの決意をぺらぺら話すようなことではないと思ってアスランさんに言ってませんでしたけど……」

     そう前置きをしてから、メイリンは。

    「昨年のメサイアでの大戦前です。宇宙に上がる前に、私はカガリさんからアスランさんのことを託されていました。あの戦いの後もこうして私とアスランさんがビジネスパートナーとして任務に当たるよう指示したのはカガリさんですよね? 私はアスランさんのことを託された願いはまだ継続中なんだと思ってます。これがどういう意味かわかります?」

    「カガリさんには常にあるんですよ。アスランさんのことを思って身を引く覚悟が」

     ガタンッと大仰な音を立ててアスランは立ち上がっていた。立ち上がったところで何かが変わるわけではないのに、衝動的にだった。
     自分は何度繰り返せば気が済むのか。

    「部外者の私にこんなことを言う資格はないのかもしれません。それでも、お二人を見ていてたら歯がゆくって仕方ないんです!」
    「アスランさん。あなたは、カガリさんの愛に甘え過ぎでは?」

     メイリンはカガリから愛だという。
     アスランはこんな愛など望んでいない。でも、望むべき愛がどんな形なのかカガリにきちんと言葉にしたことがあっただろうか。
    「あいつのこと、頼むな」

    「――って、前にも言ったか」
    「アスハ代表……いえ、カガリさん」

    「仕事のパートナーとしてなら、承りますけど、プライベートの話となるなら承諾しかねます」
    「カガリさん、アスランさんに言ってるんですか? 自分が身を引くつもりだって」


    「カガリが隙を見せた時点で結果は同じだった」
    「どんなセキュリティをかい潜ってでも君を捕まえる」

     ――たとえそこが地獄の果てでも。
     またしてもそんな副音声が聞こえた気がしてカガリは口元を引きつらせて戦慄した。
     いや、

    「捨てようとした命を拾い上げたのはきみだ……! きみのために使って何が悪い!?」

     アスランの言い分にぐっと呼吸が詰まる。違う。そんな風に生きてほしいわけじゃなかった。縛りつけたかったわけじゃない。

    「……カガリは……! 俺を殺したいのか!?」

     物騒な言葉だったが、カガリの心をこれほど貫くものはなかった。これは、アスランからの熱烈な愛の告白だった。
     机に置かれた拳が震えている。指の色が変わるくらい、握り締められていた。

    「きみが言ってくれたんだろう。『生きろ』って。そう言ってくれたきみが……俺が生きる意味を奪おうっていうのか……?」

     アスランの想いを否定すること。カガリがアスランを遠ざけること。
     それは、アスランを死に至らしめるのと同等であると彼は叫んでいるのだ。
     アスランの目が赤い。泣きそうなのか。

    「でも……」

     声がみっともなく震える。

    「アスランの献身に、私は返せるものが何もない」
    「ジェネシスの内部で……」

     肥大した感情が爆発してしまわないように、絞り出されたかすれた声だった。

    「ジェネシスの内部で、命がけで説得に来てくれたのは見返りを求めてのことだったのか?」
    「そんなわけあるか!」
    「それなら俺だってそうだ。見くびらないでくれ」
    「おまえなら、私じゃなくても他にいるだろ……」
    「出自や過去は変えられない。それでも、きみのとなりに立つためならどんな努力も惜しまない。俺がきみじゃなきゃ駄目なんだ」
    「おまえ、何でそんなに……」

     アスラン、取り出したのはハウメアの護り石だ。

    「知らなかったか? 俺は諦めが悪いんだ。それに、捨てようとした命を拾い上げたのはきみだろ。観念して、最後まで面倒を見てくれ」
    「おまえ、私のこと好きすぎるだろ」
    「今さら。気づいてないのはカガリだけだ」
    「ほんとうに……私でいいんだな?」

     これは最後通牒だった。

    「愛しているからな」

     アスランの想いがまだ自分に向かっているとは。

    「それに、オーブは俺にとって第二の故郷だ。守りたいに決まってるだろ」
    「え……」

     そんな風に思ってくれていたのか。カガリが愛するこの国を。カガリが愛している彼が。
     カガリが何よりも守りたかった国を、アスランも愛してくれていたのか。胸を打った。
     カガリの大切な人が、カガリが大切にしているものを慈しんで、愛して、共に守ってくれるという。
     まぶたが熱を帯びて涙がせりあがる、

    「そんなに泣くほどか……?」
    「だっ、て! おまえ、今までそんなこと一言も……ッ!」

    「望んでもいいのか? おまえとの未来を」
    「違う。俺が望んでいるんだ。カガリとの未来を」

     互いの存在が慰めだった。幼くて、でもまっすぐ互いだけを見つめていたあの日々も必要だった。

     腰が抜けた。安堵で。アスラン、カガリを横抱きにしてベッドに下ろす。ジャケット、首元のスカーフ、襟元のボタンも外されて押し倒された。

    「アスラン……」
    「黙って受け入れて欲しい」

     熱い眼差しに促されるようにして、カガリはまぶたを伏せた。輪郭を包むように触れられて。何度も口づけを交わしていく。
     そのまま、二人の体はベッドに沈んだ。
     


        ✾ ✾ ✾


     パチっと目が覚めた。こんなにすっきりとした目覚めは久々だった。
     カーテンの向こうが明るい。朝だ。
     綺麗な寝顔が目の前にあって、カガリは悲鳴を上げそうになった。
     アスランとベッドにもつれ込んだまま寝てしまったらしい。着衣の乱れは……ないことはない。ジャケットは脱がされ、スカーフは取り払われている。
     昨晩は、気持ちを伝え合って、今までの空白を埋めるようにキスをたくさんして、二人して眠ってしまったらしい。しっかり抱きしめ合って、たわむれに口づけて。そうこうしている内に寝ていた。カガリは激務続きで寝不足だったし、アスランはアスランで遠方の任務地から不眠不休でオーブまで戻って来ていたのだからさすがに疲労困憊だったのだろう。
     アスハ家のメイドたちは仕事が素晴らしいので、寝具はいつも清潔に整えられている。そこで寝ても疲れが取れなかったのは、カガリの心持ちが。
     ――アスランの体温と匂いが近くにあると、これほどに安心して眠れるものなのか。
     カガリはそっと寝台から抜け出すとドレッサーの椅子に腰かけた。
     ドレッサーの二段目の引き出しから二つのケースを取り出すと、机に並べた。
     一つは、ビロードのリングケースだ。この男ときたら、せっかくの指輪を剥き出しで渡してくるものだから、カガリが自ら準備したものだ。
     リングケースの横にはもう一つのジュエリーケースが並んでいる。長方形?のそれと、リングケースの二つを取り出したカガリ。中身はモルゲンレーテのエリカ・シモンズに秘密裏に特注したネックレスチェーンだった。しなやかで頑丈、錆を寄せ付けないモルゲンレーテ製の特殊な金属だ。
     ケースをそれぞれ開けたカガリは、指輪をチェーンに通すと首から提げた。デコルテに。あの日、指輪をしまってから初めて再び身に着けた。

    「カガリ、それ……」

     首元で光る指輪に目ざとく気づいたアスラン。
     アスランにとっては未熟な思い出かもしれないが、カガリにとっては心の支えだった。

    「お守りにしようと思ってたんだ」

    「トーヤもあと数年すれば一人前になる。そうなれば、後を任せて私は国家元首を退任することになる」
    「…………」
    「もちろん、相談役としての仕事はあるが、今よりは自由が利くし個人の時間も作れる」
    「うん」
    「そうなったら、さ……アスランと一緒に……ずっと一緒に……いたいって伝えに行こうと思って。断られる覚悟で、お守り、に……」

     昨日散々泣いたはずなのにまた涙が。
     往生際が悪いのはアスランではない。カガリの方だ。

    「どんなに毅然と振る舞ってみても、崇高であろうと足掻いてみたところで無駄だった」


    「一度は覚悟を決められたのに、二度目は無理だった。いや、最初の時だって誓いの言葉は口に出来ないままだった……」

    「どうしても、譲れなかったんだ。おまえだけは」

    「ここからは俺に言わせてくれ」

    「万が一、億が一もありえない話だが、俺がカガリを受け入れなかったらどうするつもりだったんだ?」
    「言ったろ? もともと当たって砕けろ精神だったんだ。アスラン以外の人と結婚する気はいからな。私はアスハ家の当主といっても、後を継がせる人間は別に私の実子じゃなくてもいいし。養子縁組して、子育てしながら首長としての役目を……」
    「わかった。もういい。」
    「いいのか」
    「俺以外の奴とカガリが結婚なんて想像するだけでもう無理だ。おぞましくて」
    「おまえが聞きたいって言ったんだろ」
    「知らなかった。君にここまで想われていたなんて」
    「それは私のセリフだって言ったろ」

     私たちの未来は、世界の現状と同じく不透明なものだろう。
     それでも、今二人で浴びている優しい朝陽のように明るく照らし出していく。
     二人、一緒なら。


    fin.



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