春遠からじ、赤い糸 赤い糸というものが、手塚にはいまいち分からない。いや、意味としては分かるのだが、つまりは合縁奇縁であり、自分の意志より運命で伴侶が決まるというのはどうにも腑に落ちない。
「そうかなあ」
遅咲きの梅の写真を一枚撮って、ほんのりと笑って不二が首をかしげる。
「たぶんさ、運命ってひとつじゃなくて、たとえば今日、キミはボクに梅が咲いたって教えてくれて、だけどボクじゃない可能性も」
「ないが」
なにやらおかしなことを言い出したものだから、思わず食いつき止めてしまった。言葉が強かったかもしれない。反省をしている手塚に不二はまばたいて、くすくすと花より小さくまぶしい笑みをその場にこぼした。
「ううん、――そうだね。ふふ、ねえ、手塚。キミの赤い糸はさ、きっと。キミの手の中に今あって、キミが自分で結びに行くんだ」
喜んでもらえるといいね、なんて言うものだから、ついついふたたび食いついてしまう。
「喜ばないのか、不二」
「……うん? ……――え」
不二はほんのり赤らんだ。春を告げる白い花にも映りそうな、ほのぼのとした色だった。
赤い糸も、こんな色をしているだろうか。すでに指はしっかり結ばれ、永遠に離れないふたりであるだろうか。もしそうならば嬉しいし、それを運命、赤い糸というのなら、この世にあってもいいかもしれない。
思いながら、手塚は赤に手を伸ばす。「不二」と彼の名前を呼ぶ。しっかり結びつけるのだ。糸が決して、ほどけぬように。