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    瀧よし

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    瀧よし

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    泥酔阿絮の温周です
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    #温周
    temperatureMeasurement
    #おも誕アンソロ
    omotenashiAnthro

    泥酔温周泥酔

    「阿絮!」
    朝から武庫の外へ出ていた温客行は、息を弾ませ中へと駆け込んだ。
    外は相変わらずの雪山ではあるが、季節は春。
    麓へ近づけば花は咲き誇り、ここまで流れてくる風すら湿った土と花の香りが混ざるようになっていた。
    「阿絮!いるか!?」
    「老温、こっちだ」
    名前を呼べば、すぐに応えがあり奥から気配がする。
    二人で雪山の神仙となり早数年が過ぎた。
    氷雪を食べ、鍛錬をして過ごす生活にも随分と慣れて、ゆっくりとした時間を過ごす日々。
    周子舒は奥義書や農書を紐解いては楽しそうに読んでおり、そういえば遊ぶより鍛錬の好きな子供だったなと思い出して苦笑する。

    「いたいた!阿絮、見てくれ!」
    巻物を読んでいたらしい周子舒がくるくるとそれを巻き、棚へ戻す姿を見つけた温客行は子供のように駆け寄り、手に持っていた物を差し出した。
    それは幾つかの甕。
    酒の飲めなくなった今、気分だけでもと時折り雪解け水を入れていたそれを、なぜそんなに得意げに差し出すのか。
    (きっとそう思っているのだろうな。喜んでくれるだろうか)
    周子舒は訝しげな顔をしながら、甕を受け取ってくれた。
    「老温、これは……ん?」
    答えを聞く前に、ふ、と鼻先をくすぐる香りに目を見開く。
    まさかと甕を顔に近づけ、しっかりと匂いを嗅いだ周子舒がハッとしたように温客行を見たので、ふふんと得意げに鼻を鳴らした。
    「酒……か?だが、どうして」
    周子舒が不思議に思っても仕方がない。
    自分達はもう酒は飲めない。そう思い込んでいた。
    困惑した顔で自分を見る周子舒から酒甕を取り返し、やっと話ができると温客行は袂から杯を取り出す。
    見せつけるように大事に注いだ中身を、恭しく周子舒へと手渡した。
    「先日麓へ行った際、動物が酔っているのを見つけた。もしやと探してみれば、木の洞に果物があったのさ」
    「ほう?」
    「その果物が熟成して酒になっていた。なので、何箇所かに果物を仕掛けていたんだが、その中の一つがいい具合に酒になっていたんだ!」
    どうだ!すごいだろうと自分にも酒を注ぎ香りを嗅ぐ。
    流石に銘酒には敵わないが、酒には違いない。
    グッと飲もうと傾ければ、その手を力強く止められた。
    「老温!飲んでしまったら老化が……!」
    「阿絮、大丈夫。実は動物が飲んでいた酒を見つけた際飲んでみたのだが、今の私は何も変わらないだろう?」
    「……なんだって?」
    おっと、失言してしまった。絶対怒られると思っていたから黙っていようと思ったのに。じっとりと睨んでくる視線を逸らすように、にっこりと笑みを浮かべ畳み掛けるように弁舌を振るう。
    「火の通った人間の食事をしてはならない。それならば、自然に実っている物なら食べても良いのではないか?しかもこれは火など使っていない。うん、その理屈でいうならば野の動物が口にする物は、食べても良いのか。阿絮、口にできる物が広がったぞ!」
    「しかし、葉先輩は氷雪しか食べていなかったのでは」
    「あのおいぼれ妖怪は料理ができないからな」
    「そういう問題なのか!?」
    「この酒は、ただ木の洞にあった物を汲んできただけだ。果物を私の手で移動させる事が駄目だと言うのならば、雪を溶かす行為すら駄目だと言うことにならないか?」
    「む……そう言われてみればそうなんだが……あっ!」
    逡巡する周子舒を横目に、温客行はぐいっと杯を煽りゴクっと喉を鳴らした。
    「ッは〜〜香りがキツいが飲めないこともないぞ」
    ニヤニヤと周子舒を見つめれば、杯と温客行とで睨むように視線を行き来した後、一気に飲み干した。
    気に入ってくれるだろうか。それだけが気がかりで、内心ハラハラと反応を伺っていたが、
    「は……これはなかなか」
    ほう、と感嘆のため息を漏らした姿に、温客行はホッと胸を撫で下ろした。
    上手くいくかどうか分からなかったので、ぬか喜びさせてはと秘密にしていたが、周子舒の嬉しそうな顔を見ることができて自分も嬉しくなってしまう。
    「なぁ阿絮。久しぶりの酒だ。せっかくなので花でも愛でながら飲まないか?」
    そう言って温客行は外を指差した。

    青空は薄く柔らかな春の色。ハラハラと花弁が風に舞い、風は冷たくともそんな事は二人には何の障りなどない。
    敷布を広げた上に共に胡座をかき、目の前には山で採った果物や木の実が並び、何より自然の力により成った酒がある。
    言葉少なく、ぽつりぽつりと他愛無い会話をしては、微笑みあう。それだけで、なんとも
    「幸せなことだな……」
    ついと漏らしたように隣から聞こえてきた声に、自分の心の声が漏れ出たのかと笑ってしまった。
    「そう思ってくれるのなら、試した甲斐があったというものだ」
    「まさか、再び酒を飲めるようになるとは思ってもいなかったからな。ありがとう老温」
    「どういたしまして」
    目を細めて幸せそうに微笑まれれば、もうそれだけで満たされてしまう。
    ーー温客行は恋を自覚していた。
    師兄と師弟としてのそれなど、とうに超えてしまっている。命を賭けた恋は、愛しい想い人の命を救うことで終わらせたと思っていたのに、こうして共に生きることになろうとは、あの時は思いもしなかったことだ。
    周子舒とは、誰とも比べようのない程深く結ばれた知己だという自負はある。
    だが、そこに慕情は無いだろうとも理解している。
    師兄として、師弟を大事にしてくれているだけ。
    いや、特別大事にしてくれているのはこうして共に過ごす相手になっているだけで、ちゃんと理解してはいるのだが。
    想いを返してくれたらと思ったことは何度もあったが、老温、と名を呼び微笑まれるだけで口にしようとした言葉は飲み込まれていく。
    (これでいい。阿絮の隣にいるだけで幸せなのだから)
    温客行も杯を煽り、気持ちよさそうに空を仰いだ。

    「阿絮、そろそろ終わりだ」
    あれから一刻程経っただろうか。
    温客行はそっと酒の入っている酒甕を手にして、高く天に掲げた。
    「何言ってんら。これかららろうが。ほら、よこせ!」
    「あっ!ダメだってば!」
    呂律の回っていない割に機敏な周子舒に、最後の酒甕をするりと奪われそうになり慌ててもっと高く掲げる。
    せっかくなら周子舒に沢山飲んで欲しいと、自分はあまり口にしなかったのが良かったのか悪かったのか。
    確かに強い酒が出来上がったと思っていたが、久しぶりだったのが悪かったのか酒の相性なのか。過去にみた事が無いほど周子舒は酔っ払っていた。
    互いに口数も少なく飲んでいたので、まさかこれほど酔っているとは気が付かず時すでに遅し。
    今日は周子舒の衣を選ぶ際白を基調とした衣にしたが、下衣に己の衣と同じ春めいた薄い桃色を指し色として入れたそれと、端正な顔はすっかり同じ色に染まっていた。
    (可愛いなぁ。口にしたら絶対怒られるのだけれど)
    いつもよりとろりと柔らかな目で睨まれ、つい可愛らしさにヘラリと相合を崩し笑ってしまった瞬間。
    気を抜いてしまったからだろうか。胡座をかいて長い腕を伸ばしていた温客行は、天地がひっくり返り目を瞬いた。
    「らぉうぇん〜〜」
    「あ、阿絮!」
    自分を押し倒し馬乗りになった周子舒は、そのまま腕を伸ばして酒を取ろうとずり上がってくるものだから、自然顔の上に体が乗ってくる。
    まるで抱きしめられているような状態に、嬉しさと困惑が押し寄せて一瞬硬直した結果、まんまと酒甕は奪われてしまった。
    止める間もなく、得意げな顔をした周子舒は温客行を見下ろして笑い、そのまま一気に煽り飲んでしまった。
    その上動きがぴたりと止まったかと思うと、ぐにゃりと温客行の上に倒れ込むように落ちてくるではないか。
    「あ、阿絮!?」
    慌てて抱き止め、まさか酒が悪かったのかと慌てて顔を覗き込めば、すやすやと眠って穏やかな顔をしている。
    「全く!」
    温客行の体の上にすっかり乗ったまま眠っている周子舒の重さと暖かさに、苦笑して少し起こしていた体を完全に横にする。
    ここは潔く敷き布団になろうではないか。
    すうすうという寝息より、自分の驚き跳ねた鼓動の方が大きくて起こしてしまいそうだと思いながら、温客行はそっと手を伸ばして鍛えられた細い身体を優しく抱きしめた。
    こうしているだけで、愛おしいと思う感情が湯水の如く湧いてくる。
    胸の奥底がぎゅうと熱くなり、このまま何もかも奪ってしまいたくなるが、きっとそれをしたら二度と隣に立てないだろう。
    (もしそんな事になろうものなら、すぐさま下界へ降りて店中の物を食い尽くしてやる)
    想像しただけで身体中が凍りつくような感覚に、ぶるりと震え少しだけ力を込めて、周子舒を抱きしめ直した。
    そのせいだろうか、周子舒が唸りながら身じろぎをし始めてしまった。
    「ん……」
    「あぁ、すまない痛かったか?」
    「んん……」
    少し頭をもたげ温客行を見る顔はまだ目が覚めたとは言えないが、せっかくの温もりが離れていってしまう事が勿体無いと思った瞬間。
    周子舒は珍しいほどパアアアと音がしそうな程の笑みを浮かべた。
    「お〜〜よしよし、かあいいなぁ〜〜」
    「!?」
    一体何が起こったのか。
    今温客行は、自分が頭を撫で繰り回されている事を理解するのに精一杯だった。
    ニコニコしながら、可愛い可愛いと撫でられまくり、カチンと固まったまま何が起こっているのかと混乱した頭をフル回転させる。
    「どうしたんら?おまえ一匹なのら?」
    (これは、私を誰か……いや、何かと思い込んでいるのか!?ど、どうしたら)
    止めるべきか、続けてもらうべきか。葛藤は一瞬。
    「なんとうつくしい猫だろうなぁ」
    うっとりと撫でられた瞬間、聡明な頭脳は反射的に正解を導き出した。
    「にゃあ!」
    私は猫。
    猫なら甘えても怒られない。むしろ甘えるべきでは?
    「そうかぁ撫でられるのが好きかぁ、よしよしおいでほらもっと撫でてやろう」
    「にゃあ〜ん」
    愛する人に求められて、拒む者がいるだろうか。
    まぁ求められているのは猫だが。
    温客行はここぞとばかりに目の前にある少しはだけた周子舒の胸元へと顔を埋め、すんと香りを嗅ぐ。
    香のせいもあるのだろうが、いつの間にか同じ香りになっていた事に気がついた時、
    とても嬉しかった。
    撫でられながらキュンと愛おしさが溢れ、もっと抱きしめたいと腰に手を回そうとした時、ふわりと周子舒が身を起こす。
    (酔いが覚めてしまったか?)
    残念に思い顔を仰ぎ見れば、ことりと小首を傾げ嬉しそうに微笑む顔と目があった。
    釣られて微笑めば、再び体が降りてきてーー
    今度こそ温客行は完全に固まった。
    「美しい、白猫らな、なんと、愛らしい」
    話をしながら、ちゅ、ちゅ、と軽く音をたてて温客行の顔中に口付けを始めたのだから。
    「あいつと同じ色だなーーうん、好きだ」
    自分の白い髪を一房手にし、愛おしそうに唇を押し当てる姿に温客行の体に電流が走る。
    最初は髪の毛、こめかみ、おでこ、頬、鼻の先、あげく、
    「あぁ可愛い食べてしまいたいーー」
    そう言いながら耳たぶを軽く喰まれ、温客行はハッと我にかえり思わず体を大きく跳ねさせた。
    咄嗟に腕を突っ張り、しかし弱々しく周子舒を押し戻す。
    顔どころか、全身が衣と同じ色に染まっている自覚があるし、なんならあらぬところに熱が集中している気がする。いや、絶対している。
    なのにさらに周子舒は身体中を弄ってくるではないか。
    「ちょ、どこ、触っ、ええっ!駄目!駄目ニャァアアアア!!」
    「どうしてら、猫はここを叩かれるのが好きらろ?」
    そう言って温客行をひっくり返して尻のあたりに触れようとするので、たまったものではない。攻防しているうちに噴火寸前のそこへ手が当たり、温客行は限界をさとる。
    「ああッ、だめだッ!退いて阿絮!」
    「なんでら。わがままな猫らな……ん?お前話しができるのら?」
    「あっ、にゃ、にゃあ、ちょっとだけできるにゃあ……にゃん?」
    我ながら苦しい言い訳だが、酔っ払いにはそれで通じるらしい。
    上目遣いで乞うように笑えば、そうかそうかと相変わらず上に乗ったまま周子舒は頷き、再びこちらを見て満面の笑みで微笑んだ。
    嫌な予感。
    「あーーーーしゅぅう!」
    案の定、自分の唇めがけて降りてきた周子舒の形の良い唇を、触れる寸前に手のひらで塞いだ。
    残念なような勿体無いような気がしないでもない。
    解せぬという顔をし、プハっと手のひらをどけられ睨まれても駄目なものは駄目だ。
    そういえば、一鍋にもこうして構っていたことを思い出す。
    「なんでら、もっと口で触れても良いだろう?」
    「駄目、そういうのはちゃんと気持ちがないと……気持ちが……」
    気持ちが通じ合っていないのに、したくない。
    だが、通じ合う日など来るのだろうか。
    ずっと触れたかった唇を、ここで奪ってしまってもいいのではーー
    (あぁ、私も随分と酔っているのかもしれない)
    震える指先で周子舒の後頭部へそっと手を回し、己の方へ引き寄せようとした時、温客行の両頬が優しく包まれた。
    温客行より少し小さく、鍛えられ少しカサついたとても優しい手のひらが頬を撫でさする。
    「阿絮?」
    「白猫よ、らお……温客行という男を知っているか?猫は顔が広いらろ?」
    「うん、知っているというかなんというか」
    「そうか。あいつはほんろうにバカなんだ」
    むぅと眉を寄せ、少し怒ったように言われてしまった。
    酷い。実は愛しているとでも言ってくれたら良いのに。
    (泣いてもいいだろうか)
    ガックリと苦笑を浮かべる温客行だが、まだ言葉は続く。
    「あいつがあの酒を作ったのら。すごいらろ?」
    転がる酒甕達へ顎をしゃくり、どこか得意げに微笑まれた。
    どう返事したものかと、頬を揉まれながらコクコクと小さく頷けば、思いッ切り頬を横へ引っ張られた。
    「痛い痛い!!」
    「でも飲んでいいか確かめるために、あいつだけ先に一人で飲んだのら。もし飲んでは駄目なものらったら、どうするつもりだったのら。……また俺一人を置いて行くつもりだったのか?」
    「阿絮……」
    己を睨む潤んだ瞳から、一雫の涙が溢れ温客行の頬へ落ちる。
    (ああーー)
    不謹慎だとわかっている。でも、思わず胸に到来した思いは一つ。
    (なんて美しいのだろう)
    自分の為に流された涙の、かくも美しきことか。
    酒を口にした時、そんなつもりなど毛頭なかった。
    大丈夫だという確信と、一口程度だったし異変があったとて微々たるものだろうとたかを括っていたというのもある。
    何より(うまくいけば、阿絮に酒を飲ませてあげられる)と、喜ぶ顔のことしか考えていなかったのだから。
    「悪かった!次からは必ず!絶対相談するし、一緒に試すから!私は一生阿絮の、周子舒の隣にいると誓っているのだから!」
    「うん、そうしてくれ。お前は相談もせず勝手になんでも決めすぎるんだ」
    そう言って微笑んだ周子舒は、視線をあげて周囲をぐるりと見渡した。
    春の日はまだ高く、花は咲き乱れ鳥は鳴き、どこかで鹿の鳴く声がする。
    柔らかな春風が二人の髪でさらりと遊んで行くと、静かに流れゆく雲を見ながら周子舒が口を開いた。
    「ーー東風淑気を扇ぎ 水木春暉に栄ゆ
     白日緑草を照らし 落花 散じて且つ飛ぶ
     孤雲 空山に還り 衆鳥各々已すでに帰る
     彼の物皆託する有るにーー」
    そこまで諳んじた周子舒は、視線を温客行へと戻し視線は再び絡み合う。
    濡れた黒翡翠のような美しい瞳に魅入ってしまい、ヒリヒリする頬をさする手も思わず止まりゴクリと喉がなる。
    (いやいや、見惚れている場合ではないぞ)
    今諳んじた詩は、春の素晴らしい日に雲も鳥も依るべがあるというのに、自分は独り月と酒を飲む詩ではなかったか。
    確か続きはーーそう温客行が続きを頭に浮かべた時、頬をさすっていた片手を周子舒に掴まれて、横へとずらされるがままに自分で口元を覆う形になった所へ、脳内に浮かべていた続きとは全く違う言葉が周子舒の少し悪戯げな表情と共に降ってきた。
    「吾が生 温客行有り 比の雪山の光に対し 長歌して芳菲に酔わんーー」
    「ッ……!」
    手の上から口付けを落とされた。
    濃いまつげに彩られた美しい目元がそっと伏せられ、お気に入りの黒翡翠が見えなくなってしまったと思った時には、視点が合わない程近くにそれがあり、口元を覆うことになった手の甲に柔らかな何かが触れている。
    「あ、あしゅ」
    泡を食って飛び起きようとする温客行の上で、してやったりといった顔の周子舒はハハっと笑いながら温客行の上にだらりと覆い被さった。
    「なんだ、老温」
    「……阿絮」
    なんだか負けた気持ちだ。可笑しくなった温客行も力を抜き、クククと小さく体を震わせて笑ってしまう。
    「老温」
    耳のすぐそばで、可笑しそうに自分の名を呼ぶ声。
    くすぐったくて幸せで、温客行もくすくす笑いが止まらない。
    「阿絮」
    「ら……」
    「……阿絮?……寝てる」
    返事がないことに顔を覗けば、少し笑みを浮かべたまま眠ってしまっていた。
    なんとも自由な酔っ払いだ。
    翻弄するだけ翻弄して、さっさと寝てしまったではないか。
    「あ〜〜もう、こっちの気も知らないで……どこまで酔っていんだ?」
    それとも、起きたら全く覚えていないだろうか。
    重なった胸の上で、気持ちよさそうに先ほどより深い呼吸になっている。
    これは本格的に寝に入ってしまったようだ。
    「もう起きなさそうだな。……起きるなよ?」
    は〜〜っと深いため息をつき、身体の上の大切な人をそっと抱きしめ、髪越しに額へ口付けを落とす。
    「……爱你」
    聞こえない時にしか囁けない愛の言葉。
    名前を呼び、応えが返る。
    名前を呼ばれ、応えを返す。
    たっだそれだけの事が何より愛おしいと思える日々が、いつまでも続くことを願い、温客行も目を閉じた。
    重なり合う二人の上に、花びらがはらりはらりと降り積もる。
    また来年もおいでと、花達が笑い合うように。


                      


        李白『春日獨酌二首 其一』より




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