秘密私には、誰にも知られるわけにはいかない秘密がある。
私が皇極観で修行が出来たのは、太子殿下の配慮があったためだ。
そうでもなければ罪人の子供が弟子になどなれるわけもなく、その点に関して私は殿下に感謝している。
側付として副将として、殿下のため国のためにあることは決して苦ではなかった。
だが私の中にはいつでも後ろめたさがあり、それは殿下からあいつを紹介された時、特に強く自身をなじった。
ある日、殿下のために良い茶葉を手配し町の店までそれを受け取りに行った帰り、宮殿の門の前で私を呼び止める男がいた。
男は良い身なりをしているが顔は厭らしく歪んでいた。
「慕情、ああ慕情ではないか!」
「…っ」
やけに馴れ馴れしいその男を、私はよく覚えていた。
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