文箱の蓋を指先で撫でる。
月明かりすらない新月の夜、雪灯も届かず仄暗く揺れる蝋燭の灯りが私の影を揺らす。
箱の中に、私の魂の中に、君から貰った物は全て閉じ込めた。
幾度問えども返ってくることはなく、それでも日々奏でている琴の音は私の執着。
哀しい音と誰かが言った。
「魏嬰……」
君に再び会えたなら、永遠に隣に立つと誓うから。
外からの子弟が呼ぶ声に瞳を伏せ立ち上がり、扉へ向かった。
魏嬰ーー今度こそ離しはしない。
君を求めて伸ばした手は、ただ暗闇を掴んだ。
文箱の蓋を指先で撫でる。
開け放った窓から賑やかな鳥の囀りが聞こえ、春の陽気がふわりと私の髪を揺らす。
箱の中に、私の魂の中に、君から貰った物は全て閉じ込めたつもりだった。
「魏嬰……」
けれど心を燃やし続ける想いは閉じ込めきれなかった。
幾度問えども返ってくることはなく、それでも日々奏でていた琴の音は私の執着。
音が変わりましたね、と誰かが言った。
ついと扉へ視線を向ければ、
「藍湛、呼んだか?」
紅い髪紐をひらりと揺らしながら、微笑み一つで私を酔わせる君が顔を見せる。
君が笑うだけで、私の心に花が咲いていくのを君は知っているのだろうか。
さながら桃源郷のごとく、常に君に酔ってしまっているというのに、隣には君がいて問いが返ってくる。
君に再び会えた今、永遠に隣に立つと誓うから。
溢れる想いを伝えてもいいだろうか。
君の呼ぶ声に、瞳は真っ直ぐに君を捉えたまま立ち上がり、扉へ向かう。
魏嬰ーー今度こそ離しはしない。
君を求めて伸ばした手は、花の咲き誇った笑顔と共に暖かな手に握り返された。
終