あなたは私の厚い雲に覆われた空の下、灰色の街には人影がふたつ。俯き、表情の見えない女の先には瓦礫に足を取られた少女が居た。
小さな唸り声をあげながら、青白くか細い腕をしきりに自分に向けて伸ばしては冷たいコンクリートを引っ掻く少女を女は知っている。
つい先日炊き出しの手伝いをしてくれた優しい少女。自分よりも小さな子達に献身的にご飯を配ってくれていたあの笑顔が脳裏にチラつく。ここで彼女に何が起きたのかは容易に想像できてしまう。
女は少女の前に膝を着き手を伸ばす。こんな光景を誰かに見られてしまえば自身が危うくなる事は重々承知していたが、そうせずにはいられなかった。
腕に食い込む少女の爪が皮膚を破る。それでも構わずまだ細く柔らかい子供の髪を優しく梳くように撫でると、女は少女の後頭部にナイフを突き刺す。程なくして動きを止めた少女の亡骸を瓦礫から引きずり出し、身なりを整えて寝かせると近くに咲いていた小さな花をその胸の上にそっと置いた。
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