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    いと(ito_rin_mori)

    @ito_rin_mori

    杏千🔥🧹文字置き場
    原作・キ学・現パロ色々

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    いと(ito_rin_mori)

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    9月24日 Good comic CITY 29
    今日も明日も愛しさ千倍 3 発行

    『空音』 原作軸/全年齢/文庫/42頁/両片想い未満 ¥450
    恋愛要素はほぼないです。

    空音「ずいぶん背が伸びたんじゃないか」
     何処に行ったのかと千寿郎が目的の人を探し当てれば、廊下の柱を撫でながらその人はやたらと明るい口調で手招きをしてきた。千寿郎の探し人は、兄の杏寿郎だ。久方ぶりに帰宅した兄と食事を済ませ、後片付けをして部屋に戻れば忽然と姿が消えていた。はて、湯浴みに言ったのだろうかと風呂場へ向かってみた。いつもなら必ず一声があるが、水仕事をしていて気づかなかったのだろうか。しかし、覗いてみた先では水音どころか人の気配もなく静かだった。準備しておいた寝巻きも綺麗に畳まれたままだったので、終わったわけではなさそうだった。ならば、もう一度母のところかと仏間へ移動した。しかし、開け放した障子から爽やかな風が吹くだけで兄はいなかった。それならば自室かと屋敷の奥へと歩を進めてみた。もしや、急な任務か一瞬落ち込みかけたところ、とある柱の前で目を輝かせている杏寿郎を見つけた。自分でも分かるほど、はっと晴れやかな気持ちになったあと、何故こんな所にと、千寿郎は疑問が湧いた。床の間から兄の部屋に向かう廊下ではない。しかも廊下の真ん中で、立ち止まるような場所でもない。
    千寿郎が声をかける前に、近づく足音で気づかれ向こうから声をかけられたのだ。ただ、かけられた言葉の意味はわからなかった。日頃から弟の成長は大げさなほど頻繁に口にはしてくれる兄だが、こんなところで問われても首を傾げるだけだ。怪訝な顔をする千寿郎とは対照的に、杏寿郎はなおも柱から離れずに笑みをたたえたままだ。撫でつけている柱に何かあっただろうかと脳みそを捻りながらさらに近づくと、目を輝かせている理由がわかった。その柱についている傷が見えてきた。家の中で代わり映えはしないが他の柱と違って、意図的につけられた傷はそこにしかない。杏寿郎が触る柱に残る傷跡は、兄弟の成長の記録だ。下にいけばいくほど沢山の傷跡があり、上の方は数が少なくなってくる、今、傍に立っている兄の頭の位置にまでになると傷跡は一つもない。

     この柱には、千寿郎は産まれる前から身長の跡があった。いや、千寿郎が直接見たわけではないので見聞きしただけのことだが、あったのだそうだ。最初に刻まれたのは、長男の杏寿郎が一歳にも満たない時期の線だ。在宅の少ない夫が息子の日々の成長を目で見て分かるようにと妻が始めたのだそうだ。言うまでもなく、始めたのは兄弟の両親である槇寿郎と瑠火だ。そして数年が経ち、この家に次男が、千寿郎が産まれたのだ。そうすれば次男の記録も刻まれるようになった。しかし、背を測るのをたのしみにしていたのは、両親ではなく、杏寿郎だったという。
     あまりに千寿郎は幼かったので、前後の記憶はぼんやりとしているものの、背比べのことを認識した日はよく覚えている。しっかりと一人で立てるようになったある日、柱に背をつけてごらんと言われた。千寿郎はわけがわからずも、言われるがままに柱を背にして立った。笑顔の父と母、そして兄に囲まれ彼らを見上げていると、正面を向くように顔を正された。ほうけている内に、兄が頭の上で何かをしていた。背を預ける先を柱から兄に変え、今度は柱に向き合うと兄がある柱の傷に触れていた。今の千寿郎がここだぞ、と教えてもらい、この行為が自分の高さを測ることだと理解したのだ。一度理解ができると、興味がわいて遊びのように楽しくなってくるもの。しげしげと柱を見ると、他にもいくつか傷があった。まだ文字は読めないが、たった今つけてもらった傷の近くに別の傷があり、その横に見覚えのある文字があった。見覚えはあるが、文字はまだ全く読めない。指差してなんだと言いたげに兄を見上げれば、兄がにこりと笑った。
    「きょうじゅろう、だ。俺の名前だな」
     教えてもらっても、まだわからずに瞬きをする。だって、抱えてくれている兄はもちろん、たった今つけてもらった千寿郎の印よりも低い位置にある。続けて俺が小さい時だ、と教えてくれた。ということはもしかしてと、あにうえがせんじゅろうよりちいさかったの?と千寿郎は聞いてみた。そうだぞ、と肯定され千寿郎はとても不思議な気持ちになった。いつも見上げている兄が、自分よりも小さかったのか、と驚きながら柱の傷をまじまじと眺めた。するともっと下に傷と、見憶えがあるが別の文字があった。じっと見つめていると、兄がまたにっこりとした。
    「違う文字なのが、よくわかったな。それが、せんじゅろう、だ。赤ん坊だったから、この時のことは覚えていないよな。すごく大きくなったな!」
     視線だけで弟の疑問に気づいた兄が先回りをして答えてくれ、飛び切りの笑顔で頭を撫でて褒めてくれた。いっぱい褒めてもらえたことが千寿郎はとても嬉しくて、兄にぎゅうと抱き着いた。兄は何度もすごいな、と言って抱きしめてくれて、心も身体もほかほかとした。嬉しくてあったかい、そういう日だった。



    サンプルここまで。
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    いと(ito_rin_mori)

    DOODLE20240211
    杏千バレンタイン2024
    キ学軸 🧹(中2?)⇒🍠(27)へのチョコレート
    せんくん無自覚。兄は…?
     色めき立つ女の子たちを尻目に、さっさと校舎を後にした。同じ学校の高等部の教師である兄上に会わないためだ。正確には、兄上に会わない、というよりは兄上が女子生徒からチョコレートをもらう場面に遭遇したくないからだ。毎年、あれだけ多くのチョコレートを紙袋に詰めて帰ってきていたのだ。生徒から大量にプレゼントされているのは、入学前から認識していた。生徒はイベントに参加したいだけだから教師は丁度いいんだ、と貰った本人は笑い飛ばしていたけれども、絶対にそんなことはなかった。確かに冷やかしや友チョコの延長のようなチョコが入っているのは、否定できなかった。しかし、中には明らかに手の込んだラッピングの手作りの品や高級ブランドの箱が含まれていたのだ。それらが「丁度いいから」なんて、適当な理由で他人に渡しやしないだろう。まぁそうなんだろうな、と思ってはいたが、実際のその現場を目にすると破壊力がある。そう、僕は去年、兄上が本命チョコをもらう場面に遭遇してしまったのだ。危うく声が出そうになったが、寸で止めた。そのまま立ち去ればよかったものを、思わず覗き込んでしまった。フルフルと震える細い手は見えた。表情は窺いきれず、声は聞こえない。聞こえずとも、出刃が目には違いないのだから、とっとと立ち去るべきだった。なのに、まるで地面に足が縫い付けられているかのように動けなくなってしまった。そもそも、兄弟の恋愛に触れるなって嫌なもんだ。ましてや、年が離れているから兄上の恋愛事情なんて知らない。でも、僕の胸のモヤモヤは、そういうものとは違うような気がした。
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    いと(ito_rin_mori)

    MENU9月24日 Good comic CITY 29
    今日も明日も愛しさ千倍 3 発行

    『花結び』 原作軸/全年齢/文庫/94頁/両想い ¥1150

    FF様向けキスシリーズWeb再録本。
    全体的に加筆修正いれてますが話の筋は変わりありません。話の矛盾は直してません(笑)書き下ろし6000字程度。
    センくんの漢字変換ミスしてます<(_ _*)>
    口吸い
     額に、頬に、鼻先に、生まれてから何度も触れていた兄の唇が、初めて自分のそれに落とされた時、あまりの柔らかさと温かさに目の前がちかちかと光るようだった。
     恐る恐る目を開いて兄を見上げれば、その目線がこれまでと違う熱量を持ち、ああ、本当に恋仲になったのだと実感した。

     最初は、ふわりと羽のような触れ方だったが幾度目にかなると、少し長く強く押し付けられるようになった。それからは、一度でなく、二度三度と角度を変えて触れられるようになった。その度にほんの少しずつ、兄の目から見える熱がちりちり高まっていくようだった。呼応するように、己の体温も兄が触れる度にじわじわと高まっていった。
     その頃になると、兄は就寝の前に千寿郎を膝に抱え上げて口づけをするようになった。それまでは布団の中では額に触れる程度だったので、途端に戸惑いと恥ずかしさで千寿朗の頬は熱くなった。口づけだけでなく、頬が赤くなることにも恥ずかしがっていると、兄は笑いながらも慰めるように頬を撫でてくれた。しかし、その触れ方は熱を鎮まるよりも、さらに鼓動を高めるようなものだった。
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