ナックルシティの小さなパン屋開店準備を終えてアイスコーヒーを片手に椅子に腰かけ、香ばしく焼けた小麦粉とバターの香りがする焼きたてのパンをかじりながら窓の外をぼんやりと眺めるのが日課だ。
窓から見える石畳の坂を、彼は今日も走っていた。
褐色の肌色をした長身の若い男性は、どういうわけか、この周辺をひたすら何周も走っているらしい。
だいたい15分おきに通る彼の額からは汗が光っている。
こんなに気温も高くなってくれば、普通に歩いているだけでも暑いというのに、よく走るものだと思った。
時刻は六時半。今までの統計からいけば、もうすぐ彼は店の前を通ってジムの方へ向かっていくはずだ。
ロールパンを食べ終えてアイスコーヒーを飲み干すと、中の氷がカラン、と音を立てた。
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