水木両親の馴れ初め〜序章〜昭和四十一年三月。調布にある一軒の家の居間には写真が広げられていた。
「まあ、懐かしいわねえ」
白髪が混ざりつつある黒髪を団子結びにした割烹着姿の女性はそれらを愛でるように記録の中の人物達を撫でる。
目尻を柔らかくして微笑む女性に、目玉の化生が小さな歩幅で歩み寄って話しかけた。
「おや? ご母堂よ。なにをされておるのじゃ?」
尋常なる者なら恐れ慄き、金切り声を上げて追い出そうとするが、女性は目玉に手足がついた化生を恐れるどころか友人に接するように気安く答えた。
「ああ、ゲゲ郎ちゃん。お掃除していたら出てきたのよ。写真集が。それでつい夢中になって」
ふむふむどれどれ、と目玉の化生ことゲゲ郎はちゃぶ台ににじり登って女性の手元にある写真を覗き見た。
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