高校の入学式の日に九年ぶりに再会した"りょうたくん"は小学一年生の頃から背も大分伸びて大人っぽい雰囲気になっていた。九年の間にすっかり変わってしまった彼をあの頃のように「りょうたくん」と呼べず「風真くん」と呼んでしまった。
「あーそうです、か・ざ・まです」
と言う風真くんもわたしを苗字で呼んだ。幼稚園や小学校の頃は友達はみんな名前で呼んでいたけど、中学や高校になると、特に異性は苗字で呼ぶことが多くなっていて、わたし達もそれに倣うように小さい頃とは違い苗字で呼び合うようになってしまった。
「明日の帰り、シモン行こうよ。風真くんシフトなんだって」
「行く行くー」
それに、雑貨屋シモンのカリスマ店員ではばたき市の若様、風真くんはすぐに学校でも人気者になり、何だか遠い人のように感じてしまった。家も近所で同じクラスにいるのに。やっぱり幼稚園や小学生の頃と高校生の今じゃ違うよね……なんて考えながら教室を出ると、校門前でばったり風真くんに会った。
「あっ、風真くん」
やっぱりあの頃のように「りょうたくん」と呼べず「風真くん」と呼んでしまう。
「おまえか。どうした?」
「えっと……一緒に帰らない?」
「ああ、いいよ」
高校に入学してから初めて風真くんと一緒に帰ることになった。小学生の頃は"りょうたくん"と毎日一緒に帰るのが当たり前になってたから何も気にしていなかったけど、高校生の今"風真くん"と一緒に帰るのは何だか緊張する。自分から声かけておいてなんだけど。
「なぁ、時間大丈夫か?」
不意に風真くんが口を開いた。
「うん、大丈夫だけど」
「ちょっと寄り道してこうぜ」
風真くんは土手を指す。
「うん! あっ、これ……」
近くにオレンジ色の折り紙で折られた鶴が落ちているのを見つけた。
「これ、誰かの落とし物かな?」
「かもな。俺たちが通っていた小学校もこの近くだし」
「確かに折り紙なら小学生のかも……って風真くん?」
風真くんは折り紙の鶴を広げて何か別の物を折っていた。一体、何を作っているんだろう。
「よし、できた」
出来上がったものに近くに落ちていた木の枝をつけると、それが何なのかわたしにも分かった。
「風車……?」
「即席だけどな。俺たちにとって思い出だろ? ほら、吹いてみろよ」
と、オレンジ色の風車を手にする風真くんは、
――せーのっ!
あのときの"りょうたくん"と同じだった。
「玲太くん」
気づけば、風真くんをそう呼んでいた。
「おまえ、今……」
玲太くんは驚いた表情を見せる。
「やっぱり玲太くんは玲太くんだなって思って」
やっと何だかほっとするような安心できる気持ちになれた。
「何当たり前のこと言ってんだよ……良かった」
と、玲太くんは嬉しそうに笑った。これからもまた玲太くんと仲良くできたらいいな……。
(こいつが俺のことまた名前で呼んでくれるようになって良かったけど、俺もこいつのことまた名前で呼んでもいいのか……?)
(玲太くん、どうしたの?)
(いや、何でも。帰るぞ、――)
(あ、うん)
(はっ、ついまた苗字で呼んだ。はぁ、またタイミング逃したな……)