ヒカルと二人揃って生物の教科書を忘れてしまい、マリィに借りることになった。生物の授業も終わり、一緒に返しに行こうとヒカルの教室を訪れたら、ヒカルは同じクラスの女の子と話していた。しかし、すぐ私に気づき、「あっ、お姉ちゃんだ。ごめん、後でね」とクラスの女の子に声をかけて私の方へ駆けてきた。
「マリィに教科書返しに行くんでしょ? ひかるも行くから」
「うん。でも、さっきの子はいいの?」
「あー、あの子の恋愛相談に乗ってたんだけど……」
「また?」
どうやらまたクラスの子の恋愛相談に乗っていたらしい。恋バナ好きで校内の恋愛事情に詳しいひかるに恋愛相談する子は先程の子のように多い。
「あの子、風真くんが好きなんだって。前にシモンに行ったとき、贈り物の相談に乗ってもらったのがキッカケみたいでさ」
風真玲太。彼は私達の学年の中でも絶大な人気を誇り、彼に好意を寄せる女子は多いが、
「でも、風真くんは……」
「分かってるよ、お姉ちゃん。あの子には悪いけど、風真くんはねぇ……」
ただえさえ彼の人気が高いのは勿論だが、それ以上に彼は……などとヒカルと話しているうちにマリィの教室に着いた。マリィを呼ぼうとしたら、
「おまえ、さっきの授業、また眠そうだったな?」
「えっ! 玲太くん、また見てたの?」
やっぱりマリィは風真くんと一緒にいた。
「また風真くんがマリィを独占してるー」
「うん、また二人の世界だね」
声をかけるのも躊躇ってしまう程。長い前髪越しからマリィを見つめる風真くんのその目にはマリィへの愛しさが溢れていて、マリィもまた風真くんのそんな気持ちに気づいていないものの、風真くんといるときはかわいさが爆増している。
「ガクってなってた。四回も」
「四回!? 前より増えてる……もう、恥ずかしいから見ないでよ」
私達といるときだってマリィはかわいいけど、風真くんといるときのかわいさはそれとはまた違う。甘く、胸がきゅんとするような……これが恋する女の子のかわいさ、なのかな?
「あっ、みちる、ひかる」
マリィはようやく私達に気づき、駆け寄ってきた。と、同時に二人の時間を邪魔されたと不機嫌になる風真くん。私達にまでマリィへの独占欲を剝き出しにするくらいの彼を見ると、先程ヒカルに恋愛相談した子には悪いが、彼の心はもう決まり切っているのだと感じさせられる。
「マリィ、生物の教科書ありがとう」
「うん。あっ、もしかして、わたしが来るまで待っててくれたの? 玲太くんと話してたから……」
マリィに教科書を返すと、マリィは私達を待たせてしまったことを謝るが、
「いいの、いいの。前にも言ったけど、私達は風真くんと仲良くしているマリィを見るのが好きなの」
「そうそう! 風真くんと話している時のマリィってさ、カワイさが爆増するんだよねー」
「えっ、そうかな? 玲太くんにもそう見えてたらいいけど……」
マリィは顔を赤らめる。ようやくマリィも風真くんへの気持ちに気づいたらしく、私達に恋愛相談するようになった。
「ひかる達、マリィの恋バナ聞くの楽しみにしてるからどんどん話してね!」
「えっ、でも……」
「やっぱり恥ずかしいとか?」
「それもあるけど……玲太くんのこと話して、二人も玲太くんのこと好きになっちゃったら……」
と、頬を赤らめながら話すマリィは、
「マリィってほんとかわいい!」
「もうキュンキュンしちゃうー!」
「えぇっ!?」
私達はマリィを思いっきり抱きしめる。今日も彼に恋する彼女はかわいい、そういう日だ。