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    door_yukiji

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    door_yukiji

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    がとうる。続きもの8回目。まだそういう流れではないです。

    次の話→(未投稿)
    前の話→https://poipiku.com/1971364/10395568.html

    この夜を晴らす光 8「ガッちゃん、歴史選択どっちにする?」
    「世界史」
    「おっ。同じ同じ」

    願い通りの返答に、思わず声が弾む。ガッちゃんはそれがどうしたと言いたげな顔だけど、僕にとっては朗報だ。

    三年生になると、希望進路によってクラス分けは勿論、時間割も細分化される。今日は来月から始まる選択科目についてのオリエンテーションのため、学年全体が体育館に集められていた。
    四十五分の授業時間二コマ分に渡る長い説明会が終わると、体育館は一斉に騒がしくなった。高い天井に、話し声と床を鳴らす足音が反響する。出入り口付近の生徒から靴を履き替えて外へ出て行くが、出席番号一桁台でステージ寄りに座らされていた僕はまだ当面出て行けそうにない。向こうも番号一桁台でステージ寄りに居たガッちゃんを見つけると、クラスの列から抜け出して話しかけた。

    「歴史選択は毎年世界史の人数少ないらしいから、もしかしたら一緒のクラスになるかもな」
    「……つっても、歴史なんて授業中座ってるだけだろ」
    「ガッちゃん、回し手紙したことない人?」
    「なんだよ」
    「やろうよ」
    「回し手紙?」
    「楽しいからさ」

    同じ学校に通っていても、三年間一度も同じクラスにならなかった。体育の合同授業とかもクラスが遠いせいで一緒にならないし、今日みたいな集会ぐらいでしか一緒に授業を受けたことがない。せめて選択授業の一つや二つぐらいは、一緒の教室で授業を受けてみたい。
    ガッちゃんはそういう感覚ないのかもしれないけど、机に向かってただ同じ授業を受けれるだけでも僕は嬉しい。別に何も起きなくたっていい。手紙だって内容はなんでもいい。ガッちゃんが受け取ってくれたらそれで充分だ。同じ教室にガッちゃんが居ると思えば、それだけで学校に来るのがもっと楽しくなると思う。

    「僕、ルーズリーフで手裏剣作れるんだ。手紙も手裏剣にして飛ばしてやるよ」
    「ガキか?」
    「今ガッちゃんが想像してるような手裏剣じゃなくて、もっとカッコいい手裏剣だよ? 欲しくない?」
    「いらねーわ!」

    呆れ笑いするガッちゃんの手には、集会中に読んでいたらしい分厚い本が握られている。また皆と違うことしてる。

    目標に向けて忙しいガッちゃんが、卒業後も僕と会う時間を作ってくれるか。最近たまに不安になる。
    今は学校に来ればいつでも会いに行けるけど、卒業したら違う。忙しくなったら会ってくれないんだろうか、なんて勝手に考えて勝手に寂しくなる。
    ガッちゃんを会えなくなったら、退屈になるだろう。
    同じ教室に居るだけでも楽しく思える相手なんて、他には居ないのに。

    卒業しても。大人になっても。
    ずっと友達で居てほしい。
    気恥ずかしくて口に出しては言えないけれど、そう思う。

    体育館に響くたくさんの音にガッちゃんの笑い声が混ざるのは、此処に僕が居るから。優越感にも近いこの特別意識が、独りよがりでないことを祈る。
    僕がガッちゃんをこの先も手放したくない素晴らしい友人だと思うように、僕もそう思われる存在であればいい。
    自分でもワガママだと思う気持ちを膨らませながら、周りのざわめきから離れた場所でガッちゃんの声に耳を傾けていた。



    === === ===



    パークに併設されたホテルは、至るところまでもが煌びやかに作り込まれている。この部屋も宿泊者が一日の終わりまで夢の国の雰囲気を満喫できるように、非日常的な華やかさが溢れていた。
    バスルームは白い大理石で囲まれ、壁に埋め込まれたモザイクタイルにはパークならではのこだわりも隠されていてリゾート感を醸し出している。ツヤのある白いバスタブにはジャグジー機能がついていて、壁に埋め込まれた液晶画面で映像を楽しみながらお湯に浸かることも可能らしい。バスタブの形は単純な円形ではなくハート型になっていて、カップル客は二人で入るのかもな――と思った瞬間、膝を折ってその場へ座り込んだ。

    「……っ」

    思考回路が色恋ごとに引っ張られている。

    恋は人を変えるというが、僕も例外ではないらしい。月とか太陽とか語るようなロマンチストだった覚えはない。自分の名前の由来であるメルヘンチックな願いについても、好き好んで話したことはなかったはずだ。にも関わらず、スルスルと気障な台詞まで出てきた。
    完全に雰囲気に呑まれていた。浮かれているにもほどがある。客観的に自分が言ったことを振り返ると、失笑が出る。耳元が熱い。みっともない自分の姿を見ないように洗面台の大きな鏡に背を向けて立ち上がると、蛇口を捻りバスタブにお湯を張った。



    昼間は年柄もなく被り物をしたり、手を繋いだり、浮かれてあれこれできたけど、いざ部屋で二人きりになると浮ついた雰囲気になるのが恥ずかしい。冷静に引き戻される。
    ……しかし、今夜は恥を承知で雰囲気に呑まれるべき時なんじゃないか?

    入浴を勧めてきたガッちゃんには、まるで浮ついた様子はなかった。バルコニーで夜景と花火を眺めているときは良い雰囲気だったが、部屋に戻って明日の予定を話しだした辺りで二人とも幾分か冷静に戻ってしまった。
    マズい。
    お互い忙しい身の上だ。次の旅行なんて、いつになるか分からない。せっかくスイートルームまで予約して、恋人同士の空気を楽しむつもりで居たが。このままだと、今まで友人として気楽に旅行してきたときと何も変わらない夜を過ごすことになる。

    そりゃあ、ガッちゃんと一緒に居られれば、何も特別なことが無くたってそれだけで楽しいさ。
    ――だけど、今夜の思い出は特別なものにしたい。いつもと同じ夜のままでは終わらせたくない。

    無意識の嘘があるように、無意識の本音だってある。
    まだもう少し。今日を終えるまでの間は快哉たる高揚感に浸っていたくて、あんならしくもない台詞が飛び出した。
    ビックリしてたな、アイツ。どんな顔して部屋に戻ればいいのか、少し悩む。そして、悩むことさえ妙に楽しく感じる。不安と期待がそれぞれ天秤の左右に乗せられたように、感情が揺らいでいる。不安定に揺れる気持ちが心地良い。今までにない感覚だったが、大人なのでいくら経験がなくてもわかる。この落ち着きのない心の動きは、病ではなく恋に影響されたものだと。
    こみあげる羞恥心は無視できないが、悪くない気分だった。



    もうこのあとは大人しく寝るだけだ。
    明日は朝一番の時間に朝食のルームサービスを手配していて、食事を済ませたらすぐにチェックアウトする予定でいる。二人とも仕事が待っているし、さっさと寝てしまった方がいいのは分かっている。
    性欲に突き動かされる年でもない。長年の付き合いがあるとはいえ、恋人関係になってから初めてのデートで。ツインベッドで。十七年も友達だったのに、いきなり艶っぽい空気になるのも難しいだろう。

    とは、いえども。
    何もしないのはどうなんだ。昼間はガッちゃんの方から手を繋いでくれたし、エスコートを任せてもらった手前、コッチからキスぐらいするべきでは?

    ……どのタイミングで?

    夕食はレストランで済ませた。食事と一緒に少しアルコールも楽しんだ。二人とも汗を流して、夜もすっかり更けてからキスなんてしたら、それはもうそのままそうなる流れでは? いや、流れってなんだ? そんな浮かれて勢い任せみたいなものを流れと呼んでいいのか?
    僕だけ先走って逆上のぼせあがるのは本意ではない。寝る前の挨拶みのような、寝しなに触れるだけのキスなら、それ以上余計な発展はせずに穏やかに一日を終えて、明日の朝も良い気持ちで顔を合わせることができるのでは? 手を繋ぐのは良くてキスはイヤってことは、ないよな? ……あるのか? 手の早い奴だと呆れられるだろうか?

    足を伸ばして湯船に浸かりながらもないことを考えていたが、あまりガッちゃんを待たせるわけにもいかない。どうしたものか答えが出ないまま、バスルームを明け渡すために動いた。



    「サイズ合って良かったな」
    「おー」

    体格が良いのも困り物で、地方の旅館などに泊まったときには室内着の裾が足りていないこともあったガッちゃんだけど、今日は裾も袖もちゃんと足りている。しかし、よく見れば前開きボタンのパジャマはLLサイズでも胸周りが少し突っ張っていて、やはり規格外のスタイルの良さだと内心で感嘆した。

    「座れよ。乾かすの手伝う」
    「お前は? ちゃんと乾いてんのか?」

    ガッちゃんが入浴している間、バスルームにあったドライヤーを持ち出して部屋で髪を乾かしていたので、もう殆ど水気は残っていない。
    目の前の猫足デスクと同じく木材で作られた椅子から腰をあげようとしたが、立ち上がる前に頭を撫でるように髪を梳かされて動きを止めた。ガッちゃんのゴツゴツした手は、見た目に反して優しい手だ。両手で二度、三度、と頭を撫でられると、思わず口元が緩んだ。

    「まだ湿ってねぇか?」
    「こんなもんだろ。ほら、座れって」

    頭を撫でられるのは気持ちよかったが、ガッちゃんの髪が濡れたままでは良くない。今度こそ席を譲って、ドライヤーとアメニティのブラシを手にガッちゃんの後ろへ回った。
    いつも結ばれている髪は、おろすと僕以上に長い。根本から毛先までしっかり乾くように、髪に指をくぐらせながら全体へ風を当てていく。
    高級感のある木の机の前に腰掛け、正面にある大きな金縁の鏡に映るガッちゃんは、まるで王様みたいな雰囲気だ。体つきも顔立ちも男らしく、ただ座っているだけでも堂々とした風格があるので、一般人では釣り合わないような豪華なインテリアもあつらえられたようによく馴染む。磨き上げられた机や繊細な細工の施された家具が似合う一方で、ありふれたパステルカラーのパジャマの方が逆に浮いて見えた。クローゼットに吊られたバスローブの方が似合っていただろう。バスローブなんて着られたら目のやり場に困るので、パジャマで良いんだが。

    「痒いとこありませんか?」
    「ははっ、気ぃきくな。肩でも揉んでもらうか?」
    「凝ってそうだなぁ」
    「オメーに言われたくねーよ」

    ふざけあっている間にも、鏡に映るガッちゃんに見惚れてしまう。昔から爽やかな笑顔の似合う精悍な顔立ちだったけれど、年を重ねるごとに逞しさが増して男前に磨きがかかっている。ともすれば女性的に見えそうな長い金髪さえ、力強い印象に一役買っていた。派手な柄物や大ぶりなアクセサリーを身につけても霞まない、強者然とした存在感がある。どこに居ても目立つ。たとえ地味な服に着替えても、道行く人の目を奪ってしまう。集めた視線の中には、決して好感だけでなく恐れや反感も含まれているが。今日一日の間にも、どれだけの人数を振り向かせていただろう。衆目を一睨みで払いのける鋭い目の端には、年相応に細かい皺ができていて、一緒に大人になった時の流れを感じて一層のこと愛おしく思う。

    「そういえばさ、高校で僕がよくつるんでた……ガッちゃんが八ム太郎って呼んでたやつ覚えてる?」
    「あー、居たな。そんなヤツ」
    「アイツ、今度結婚するんだ。この前連絡が来た」

    リラックスした時間に合わせて、ガッちゃんにも懐かしいだろう同級生の話を持ち出した。結婚式にガッちゃんも連れてくるかどうか聞かれて、一応返事を保留していた。

    「二ヶ月先の予定なんだが、一緒に行くか?」
    「行かね。向こうも喜ばねぇだろ。まぁ、ご祝儀は包んでやるか」
    「へえ」
    「オメーが行くのにオレがなんも聞いてねぇってことはねーんだから、渡しといてくれよ」
    「……ふふっ、それもそうだな」

    ガッちゃんの返事は予想通りだったが、こそばゆい一言は不意打ちだった。
    高校時代の友人とは久しぶりに顔を合わせる。
    今でもガッちゃんと仲良くしていることには驚かないだろうが、恋人関係になったと伝えたら驚くだろう。僕もガッちゃんも、あの頃は同性に関心を示していたわけではない。旧知の友人だからこそ、混乱させるかもしれない。隠しておくつもりもないが、関係を打ち明けるのは折を見てからの方がいいだろうか。
    未だに連絡をくれる友人だ。彼との関係も大切にしていきたいと思う。
    思い浮かんだ考えに、自然とそんなことを考えられる余裕ができたのか、と自分の変化を知る。胸の奥でつかえている暗いモノがまた一つ消えた気がして、嬉しく感じた。

    「式場は? どこまで行くんだ?」

    遠方ではない、都内の有名ホテルだった。
    ホテル名を口にすると、ガッちゃんは「あぁ」と何か思い出した声をあげた。

    「ガーデンウェディングで有名な場所だな」
    「……ガッちゃん、そんなことまで詳しいんだ」
    「イベント会場で行ったことがあってな。そんとき耳に挟んだ」
    「へー……」

    ドライヤーの電源を切る。
    髪の長さはガッちゃんのほうが長いけれど、耳より下を刈り上げている分、乾かす時間は僕の半分以下で済んでしまった。

    ……ガーデンウェディングってなんだ?
    結婚――僕の人生には無縁の行事だと思っていたせいで、法に関わること以外の知識が欠けている。ガッちゃんが口にした言葉が何のことか想像もつかない。気になる気持ちはあるが、これ以上そっちの方向に話を広げるのは良くない気がして口を噤んだ。
    この年で結婚の話を持ち出せば、親とか、金銭問題とか、現実的な話が絡んでくるのは自明の理だ。それは不味い。このままではまた二人とも冷静に戻ってしまう。
    ドライヤーを片づけて二人でベッドルームに向かうと、思い切って話題を変えた。

    「話変わるんだけどさ、ガッちゃんて僕のことエロい目で見れるのか?」「急にハンドル切ったな」

    向かいのベッドに座りながら、ガッちゃんが大げさに眉をしかめた。
    飾りの天蓋が垂れ下がったベッドはセミダブルサイズで、ゆったりとくつろげる広さがある。柔らかな感触のリネンは寝心地が良さそうだ。弾みのいいスプリングベッドに僕も腰をおろすと、ガッちゃんと向かい合った。

    「実際どうなんだ?」
    「まぁ、そりゃあ、なぁ……」

    歯切れが悪い。遠慮なく物言いするタイプのガッちゃんには珍しい反応で、緊張が高まる。
    愛情と性欲は同じものではない。お互い気持ちが通じ合ってることは確認したが、僕がガッちゃんと関係を深めたいと思っていても、そこにガッちゃんの意志がなければ進展は不可能だ。
    今日確認しなければならないという話ではないが、早いうちに芽を摘んでおきたい不安要素ではある。素面では聞きづらい細かい確認も必要になるだろう。日常から離れたこの場の雰囲気を借りて、ガッちゃんの意向を出来るだけ聞き出したい。

    「たとえば?」
    「たとえばぁ? なんだよ、一個一個聞かされてぇのか?」
    「ああ、今日はそんな気分だ」

    立ち上がり、ガッちゃんの隣に位置を移す。男二人分の体重でベッドのスプリングが音を鳴らした。深く沈むマットの感触に、淡い欲望がくすぐられる。
    今すぐにというわけではないけれど、僕がガッちゃんの疲れを癒すことができるならば嬉しいし、僕もガッちゃんにとことん優しくされてみたい。お互い求め合ったうえで仲を深められるなら、此の上ない僥倖だ。

    「お互いにさ、相手の体で好きなところ一個ずつ言いあってみようよ。まずは僕から始めよう」

    また変なことを言い出した、とでも言いたげな顔でガッちゃんが目を眇める。
    でも、やるぞ。
    僕はこれから、ガッちゃんとイチャイチャする。
    決意をこめて、静かに息を吸い込んだ。
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